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セブン&アイ・ホールディングス社長 井阪隆一氏らが語る「顧客の時代」「Salesforce World Tour Tokyo 2017」レポート(1/2 ページ)

本稿では「Salesforce World Tour Tokyo 2017」から セブン&アイ・ホールディングス 代表取締役社長 井阪隆一氏らが登壇したパネルディスカッションの概要を紹介する。

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 セールスフォース・ドットコムは2017年9月26、27日の2日間、年次イベント「Salesforce World Tour Tokyo 2017」を開催した。オープニングを飾ったのは「Fortune CEO Customer Trailblazer Panel」と題したパネルディスカッション。ここでは、 セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長 井阪隆一氏、NTTコミュニケーションズ代表取締役社長 庄司哲也氏、ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO 石黒 不二代氏をゲストに迎え、「The Age of the Customer」をテーマに熱い議論が交わされた。司会は『TIME』国際担当編集長のクレイ・チャンドラー氏が務めた。

 本稿では登壇者諸氏が注目するテクノロジートレンドおよび顧客体験向上のために掲げる課題について、ポイントをまとめた。

実は、われわれはお客さまのことを知らない

 冒頭、司会のチャンドラー氏から流ちょうな日本語で「顧客の時代」について問われたのは井阪氏だ。国内店舗が2万店を突破し郵便局並みのネットワークを持つに至ったセブン‐イレブンでは、1日の来店客は約2200万人を数える。


セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長 井阪隆一氏

 「お客さまがモバイル端末を使って情報を見て買い物をする時代。リアルな店舗を構えるわれわれはそこにしっかり対応しなくてはいけない。接点が増えていく中、それをつなぐソーシャルメディア企業やGoogle、Amazon.comなどと情報の非対称性が広がっている。お客さまについていくためにも、技術革新にキャッチアップしていくかなくてはいけない」と井阪氏は語る。そして、テクノロジーを使ってなすべきこととして「店頭においてデジタルソリューションを育んでいくこと」「顧客の購買データを取得し活用していくこと」の2つを挙げた。

 前者については店舗に接客専用端末を導入し、商品を薦めたり催事商品やキャンペーンの予約獲得などに活用している。また、商品を運ぶ専用カゴにRFIDタグを取り付けて検品を自動化する実験にも着手している。今後は百貨店事業においてVRによる試着を実現したり、決済でも新システムの導入を予定しているという。

 もう1つ大事なのが後者のデータ活用だ。井阪氏は「リアルな店舗でフェースツーフェースで接しているお客さまのことを、実はわれわれは全く知らない」と危機感を募らせる。それを打開するために、2018年春にはECサイト「オムニ7」とも連動する店舗用モバイルアプリを提供する方針を打ち出しており、販促や情報提供はもちろん、ここで取得したデータを店舗開発や商品開発にも活用していきたい考えを示した。

全てがうまくいっているように見えるならスピードが足りていない


NTTコミュニケーションズ代表取締役社長 庄司哲也氏

 続いてチャンドラー氏は庄司氏が座右の銘にしているというレーシングドライバーのマリオ・アンドレッティの言葉「If everything seems under control, you're not going fast enough.(もし全てがうまくコントロールされているように見えるならスピードが足りていない)」を紹介。今日において、なぜスピードが大切なのかと尋ねた。

 庄司氏は国内のインターネット通信量が年率30%以上増加していることなど、IT業界の技術革新の激しさに触れ、「データを使ってビジネスにイノベーションが起こるようにするため、われわれが担うインフラレイヤーは常にアップグレードを求められる」と、強固でセキュリティが確保されたネットワークやデータセンターなどの重要性を訴えた。

 あらゆるビジネスがサービス化し、顧客の要求がますます高くなる中、企業が生き残る鍵は、スピードを持ってそれに応えることだ。そのためにまず必要なのが顧客理解だ。企業のマーケティングをどう支援しているのかというチャンドラー氏の問いに対し、石黒氏は「お客さまのビジネスを成長させるためには、その先のユーザーの顧客体験を最高にすることがまず大切。井阪社長がお客さまのことを知らないとおっしゃったが、それはセブン&アイさんが怠慢なのではなく、お客さまの方が先に進んでしまっているから」と述べた。

部分最適としての「おもてなし」だけでいいのか


ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO 石黒 不二代氏

 顧客理解にまず必要なのがデータだ。属性情報や購買履歴、オン/オフラインの行動データなどを集約し、詳細に分析することで、できるだけ深いレベルで1人の典型的な顧客像を設定する。いわゆる「ペルソナ」だ。どのような買い物をしているか分かれば家族構成が分かる。1日どういう生活をしているかを知り、カスタマージャーニーを設定する。それに合わせて、最適なタイミングで最適なサービスを提供するのだ。

 石黒氏は「例えば、晩ごはんの献立に悩む主婦のスマートフォンにレシピと食材リストを表示するような、新しい情報の出し方も求められる。そして、それを実現するためにはシステムや業務を改革していく必要も出てくる」と述べ、より良い顧客体験を実現するため、それを提供する企業自身も変わっていく必要があることを示唆した。

 顧客体験という観点で、チャンドラー氏は「日本はおもてなしの国であり個々のサービスレベルは高い。だが、システム全体を考えていなければ、どんなに気配りをしてもニーズに対応できない」と、日本の問題点を鋭く指摘した。

 これに対して石黒氏は日本のサービスが個別最適に陥りがちであることを認めつつも「部門の縦割りをやめ、全部門が1人のお客さまを見るという考えが必要。一度データを取り始めたら、日本人の繊細で勤勉な気質からいって、全体最適できる」と語った。また、庄司氏は「データをインフォメーションとして共有し、改善につながるインテリジェンスにしていくことが大事」と付け加えた。

 日本からはイノベーションが生まれにくいといわれる。実際、オンラインの世界を見ても、Google、Amazon、Facebookなど、デファクトスタンダードとなるサービスの多くは米国にルーツを持つ。「日本のデザインは優れているが、Webでその高いクオリティーは反映されているといえるのか」と、チャンドラー氏の厳しい問いかけは続く。

 「正直、まだまだ反映されていない」という石黒氏は、日本においてデザインがアートと取り違えられる傾向があることを指摘する。そして、大企業のWebサイト構築で成長してきたネットイヤーグループの創業初期の歴史を振り返りつつ「Web設計においては、コンテンツをアーティスティックに出していくことよりも何万ページもあるサイトの構造を分かりやすくすることが重要」と語る。機能的であるべきものは機能をデザインしなければならない。ショッピングモールでいえば個々の店舗でなくモール全体の設計を考える建築家の視点が求められるのだ。さらに現在はWebだけでなくリアルも含めた設計が必要だ。石黒氏は「一人一人に最適なシナリオを設計し、皆が同じものを見るのではなく、それぞれ自分が見たいものが見えるよう、お客さまの体験を設計しなくてはいけない」と課題を提起した。

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