メガネを「たまに買う」ではなく「よく買う」ものに──Zoffは一体何をした?(1/2 ページ)
メガネは購入間隔がとても長い商品だ。Zoffは、LINEを活用したマーケティングを強化し、顧客のLTV向上に成功。メガネを「たまに買う」ではなく「よく買う」ものにすることに成功したという。
リアル店舗を持つ多くの企業にとって、いつかは実現したいと願っていてもなかなか手が届きにくいのが、オフラインデータとオンラインデータの融合である。
スマートフォンを通じて「顧客と継続的な関係を築きたい」と考えても、メールマガジンは読んでもらえず、ネイティブアプリ(スマホ向けの独自アプリ)を使ってくれるのは来店したときだけ。「これで本当に顧客と“つながっている”と言えるのだろうか」と疑念を抱かないマーケターはいないはずだ。
たとえ日々のマーケティング活動によって顧客接点を生み出し、それぞれの場面で顧客情報を取得していたとしても、データが分断されていたら意味がない。目の前にいる顧客が誰であり、これまでにどんな体験をして、どんなメッセージを受け取ってきたのかが分かってこそ、店舗での顧客体験の質や顧客満足度の向上が実現できるようになる。
そんな中、メガネブランド「Zoff」を運営するインターメスティックでは、LINEを活用し、顧客データの活用だけでなく、店舗体験の向上にも成功している。LINE公式アカウントの友だちは786万人を突破。友だちと非友だちの間で、LTV(ここでは2年間の一人当たり総利用額とする)に約20%の差が生じているという。
なぜこのような目覚ましい成果を達成できたのか。具体的な取り組みを見て行こう。
この記事は、LINEヤフーが5月20〜21日にわたって開催したビジネスイベント「Hello Friends! W!th LINEヤフー」のセッションの中から、「店舗とECをつないで、LTVを最大化!『Zoff』と『花王』がLINEで実現する、良質な顧客体験とは?」をもとに紹介する。
購入間隔が長い、店舗スタッフの工数が多すぎる……Zoffが感じていた3つの課題
メガネブランド「Zoff」を運営するインターメスティックの須田悠太氏は、LINE導入前に抱えていた3つの課題を明かした。
1つ目は、メガネは購入間隔がとても長い商品であることだ。メガネをファッションの一部として楽しむ層は別として、視力矯正のために使用している人たちは、2〜3年に一度くらいの頻度で買い換えるのが一般的。そのため、来店時にわざわざネイティブアプリをダウンロードしてもらっても、そこから次の来店までの間、顧客をアクティブユーザーとして引き止めておくことは、非常に難易度が高いと考えた。
2つ目は、メールマガジンに限界を感じていたことだ。以前はZoffのコミュニケーションの中心を担っていたメールマガジンだが、メールというチャネルでは若年層へのリーチが不十分であると感じていた。また、これ以上会員数を増やすのは難しいと考えた。
これらの課題を解決すべく、2020年2月にLINE公式アカウントを作成したという。
3つ目は、メガネの販売工程が多く、スタッフに多くの販売工数がかかっていたことだ。この課題を解消すべく、Zoffでは2023年2月にLINEを活用した来店受付、顧客対応を開始した。
もともとの購買体験は以下の流れになる。
顧客の入店を察知したら、スタッフはあいさつの声を掛け、手動で発券した番号札を渡す。おすすめの商品を案内しながらメガネの試着を促し、好みのフレームを選んでもらう。
フレームが決まったら、次は視力測定だ。その合間に複数あるレンズの違いも紹介して、どのレンズにするのかを決めてもらわなければならない。そうして購入する商品の組み合わせが決まったら決済に進み、スタッフはレンズの加工と仕上げの作業に入る。
メガネが完成するまでの間、顧客は店外で待つこともできる。しかし、そうするとメガネのできあがりを知らせる電話を個別にかけるというスタッフの工数が追加されることに。顧客が店に戻ってきたら、完成したメガネをフィッティングしてもらい、快適なかけ心地となるよう微調整を施す。ここまで来てようやく商品の受け渡しとなるのだ。
忙しい時間帯には、1人の顧客に対して1人のスタッフがつきっきりで対応できるわけではない。これだけ工程が多いと、どうしても案内の抜け漏れが発生してしまうこともある。加えて、おすすめの商品を案内する余裕がなかったり、接客時に取得したデータを後々活用する術がなかったり、といったジレンマもあった。
同社では現在、販売工程をLINEで自動化している。
まず、来店した顧客は発券したQRコードを読み取り、必要事項をLINE上で入力する。するとすぐに会員証が登録されて、受付が完了する。かつてスタッフがアナログで行なっていた順番管理は不要となり、接客漏れのリスクが減った。メガネの完成を告げる通知もLINEでできるようになり、わざわざ電話をかけて呼び出す必要もなくなった。
購入後の「保証書の管理」や「購入履歴の閲覧」をLINE上で行えるように。スタッフだけでなく、顧客もその利便性を享受できるようになったという。
Zoffでは2024年7月以降、このLINEを活用した受付を多くの店舗で導入した。これによって、来店した多くの顧客は、受付と同時にZoffの公式アカウントと友だちになるようになり、メガネの完成通知を受け取るために必要なZoff会員とLINE会員のID連携率も飛躍的に伸びた。2025年3月現在、Zoff公式アカウントの友だち数は786万人。ID連携率は過去最高の82.0%を記録しているという。
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