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「品数多すぎ→反響分からん」問題、どう解決? DAISO流・アイデアを生み出す極意(2/2 ページ)

ヒット商品をどんどん生み出し続けるDAISO。同社では、商品数が多くて、一つ一つの商品への反響が見えないという課題があった。

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従業員体験と顧客体験は連動する

 顧客の「ホンネ」と同様に、DAISOが重視するのが従業員の「ホンネ」である。そのためのプラットフォームが、社内コミュニティー「たちまち」だ。

 「以前は社内報による一方的な情報伝達が中心で、情報が現場に届くまでに時間を要することもありました。ある部署で半年前に発信した情報が、違う部署には今頃届く、といったこともあったのです」(田中氏)

 そんな課題を解決すべく、DAISOでは社内コミュニティー「たちまち」の導入を決定。これにより、国内外4000店舗以上の従業員がリアルタイムで情報共有し、双方向でコミュニケーションが取れるようになった。

 「たちまち」の活性化を支えるのが「特派員制度」だ。各部署や店舗から選出された若手社員が中心となり、現場のニュースや個人の取り組みなどを積極的に発信することで、コミュニティー全体の参加意識を高めている。

 この制度により、海外店舗のオープンの様子が現地の熱気と共に共有されたり、従業員の個人的な活動が称賛され、会社からサポートされたり、といった事例も生まれている。


社内コミュニティ「たちまち」(セミナー資料より)

 こうした社内コミュニケーションの活性化は、従業員エンゲージメントの向上に直結している。

 「従業員体験(EX)と顧客体験(CX)は連動します。良い体験を提供しようとする側が、モチベーションやエンゲージメントが低い状態では、お客さまに喜んでいただくことは困難です。海外でこんなことが喜ばれているという情報が共有されれば、日本でも応用できるかもしれないといった発想も生まれます。サービス提供側がどれだけワクワクして、楽しんで仕事に取り組めるかが重要なのです」(佐藤氏)

 「たちまち」を通じて、従業員が自身の業務の意義を再認識し、他の従業員の活躍から刺激を受ける。それは結果として、顧客へのサービス品質向上にもつながる。つまりEXの向上がCXの向上につながる、好循環を生み出しているのだ。


特派員制度(セミナー資料より)

AIが支える"ホンネ"データの分析

 「DAISOの輪」や「たちまち」からは、日々膨大な量の「ホンネデータ」が集まる。これらの定性的なテキストデータを全て人力で確認し、分析するには限界があった。

 「ファンコミュニティーの投稿数が増えるにつれ、全ての声に目を通すのが難しくなり、貴重な意見を見落としてしまう可能性がありました」(山田氏)

 この課題を解決するためにAIを使った分析機能を活用した。コミュニティー内外の顧客の声や従業員の声を一元的に集約し、AIが内容を解析。個々の声がどの商品や店舗に関するものか、どのような感情や文脈で語られているかを自動で整理・構造化し、レポートとして可視化する。これにより、これまで見過ごされがちだった「個」の声に光を当て、新たな価値の種を発見することが可能になったという。

 「企業が保有する顧客の声という情報資産の全体像を把握し、どの情報が不足しているかを明確にできました。例えば、新商品企画に活用できるニーズの声がもっとほしいという状況では、コミュニティーで『生活の中で困ったこと』を募集する企画を実施するなど、意図的に必要な『ホンネ』を集めに行くことも可能になりました」(佐藤氏)

顧客の“ホンネ”から見つけた「アイデアの種」

 実際に、このレポート機能を活用して、DAISOではこれまで以上に数多くの「アイデアの種」を生み出していた。

 例えばヘアゴム。バッグにつけるなど、髪を縛る以外の装飾的利用が発見された。人気のプチブロックでは、「肌色ブロック」のニーズが明確になった。これは、ファンがオリジナルキャラクターを作成する際に、肌色のパーツがよく必要になることが分かったからだ。


顧客の“ホンネ”から見つけたアイデアの種(セミナー資料より)

 これらの発見は、商品改善や新たな訴求方法の開発につながる可能性を秘めている。このように、顧客の「ホンネ」の中には、企業がまだ気付いていない価値が無数に眠っている。

 「『共創』はコミュニティーを運営する上で重要なテーマです。これまでは私たちが良いと思ったものを提供する形でしたが、お客さまが価値を感じるものは時として異なります」(山田氏)

 今回のセッションから見えてくるのは、顧客と従業員、双方の「ホンネ」に真摯(しんし)に耳を傾け、それを起点として行動することの重要性だ。企業が提供する価値と、受け手が感じる価値の「ズレ」を認識し、そのギャップを埋める努力を続けること。そして、そこで得られた無数の「喜ばせポイント」を丹念に拾い上げ、磨き上げることが、持続的な成長と「買ってよかった」という究極の顧客体験の実現につながるのだろう。

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