お金を払えばテレビに出られる? 広報を狙う「悪徳営業」の実態(1/2 ページ)
先日、「ガイアの夜明け」を放送しているテレビ東京のX(旧Twitter)アカウントが、「報道番組が、取材対象者から金銭を受け取って番組を制作することはありません」と注意喚起をしました。今回は、広報、マーケターが絶対に知っておきたい、報道と広告の違い、取材対応の常識についてお伝えします。
先日、「ガイアの夜明け」を放送しているテレビ東京のX(旧Twitter)アカウントが、以下のような注意喚起をしました。
「ガイアの夜明け」を始めとした報道番組が、取材対象者から金銭を受け取って番組を制作することはありませんので、ご注意ください。
投稿には、「ガイアの夜明け」に出演できると言って金銭を要求しようとする業者の情報が寄せられたと書かれています。これに加えて、最近、あるスタートアップの広報担当者が番組の取材対応のことを「仕込んだ」と表現したことで誤解が広がった面があると考えられます。
今回は、広報、マーケターが絶対に知っておきたい、報道と広告の違い、取材対応の常識についてお伝えします。
お金を払えばテレビに出られる?
「ガイアの夜明け」の投稿からも分かる通り、テレビの報道番組が企業などに「取材」依頼をする際に、その対価として金銭を要求することはありません。お金が必要なのは「CM」を出稿する場合です。連載第2回の「編集記事」と「広告記事」の違いでも解説しましたが、テレビの報道番組を含む各メディアにとって、自社の取材力や番組、記事などのコンテンツ制作力は生命線だからです。
各メディアは、独自の基準で読者の利益につながると判断した内容を放映、掲載することでユーザーに選んでもらい、そこではじめてメディアビジネスを継続させられるのです。もしお金で取材先を決めていたら、読者や視聴者が離れて成り立たなくなります。
同番組が注意喚起したのは、「お金を払えば取材してもらえる」という誤解に大きな危機感を持ったことも理由でしょう。そして、この話に従えば「取材は無料だ」と理解できます。
ところが、現場で広報兼務マーケターの皆さんが直面する状況はもう少し複雑です。
例えば、「成功報酬型でテレビ露出を支援する」と話すPR会社が存在します。筆者も企業の広報担当者時代に、元番組制作会社スタッフの方が働くPR会社から「成果報酬型でテレビ露出を支援します」という営業を受けたことがあります。
これ自体に特に問題がある訳ではなく、メディアリレーション支援の一環なので一般的なことです。メディアリレーション支援とは、PR会社に仲介してもらってメディアに自社の情報提供を行い、取材を検討してもらうことです。取材をするかどうかはメディア側が決めます。企業はメディアリレーション構築(仲介)に対して対価を払うのです。
しかし、広報業務に不慣れな会社の場合、「お金を払って番組に出た」と誤解してしまうケースがあるようです。ちなみに、「お金を払えば確実に〇〇(有名番組)に出られます」という営業はシンプルに詐欺です。これらの情報を正しく理解し、広報対応を間違えないためにも正しいメディアリテラシーを身につけることが非常に重要です。
怪しい社長インタビュー……取材を装う「悪徳営業」の実態
実は、皆さんが日々目にしている雑誌やWebメディアの「編集記事」と「広告記事」も素人目には違いが分かりづらいことがあります。メディアとしても両記事を分け隔てなく読んでほしいので、「PR」表記で広告であることはしっかり明示しつつも、記事の見た目は大きく変えないことが多いと感じます。特に意識せずに読み流すのが普通でしょう。
しかし広報担当者の場合は、メディアリテラシーを磨くためにも記事の種類の違いを理解しておく必要があります。普段から記事をよく読んで、「PR」「AD」などの表記がどこにあるか、広告記事に多いタイトル(企業・商品の宣伝色が強い)はどんなものかなどを見分ける目を養いましょう。
メディアに関する知識を養うことは、メディアリテラシーの隙をついて“だまし討ち”のような営業をしてくる悪質な会社を避ける意味でも必要です。
広報初心者の会社の頭を悩ませる“あるある”の一つに、取材(無料)なのか広告(有料)なのかよく分からない「社長インタビュー」の打診があります。一般的な取材の流れと取材を装った広告(有料の記事、動画制作)営業の流れは以下の通りです。
一般的な取材の流れ
- メディアの記者から取材依頼の連絡が来る
- 打ち合わせ(ない場合も)
- 取材日程調整
- 取材
- 掲載
取材を装った広告営業の打診の流れ
- 「〇〇メディア(PR会社を名乗る場合も)ですが、御社の社長様を取材させてください」と連絡
- 打ち合わせ(※ここで取材に費用がかかると言われるパターン)
- 取材日程調整
- 取材
- 記事・動画制作、確認(※ここで取材は無料だが掲載は有料などと言われるパターン
- 掲載
こうした会社の手口は、「取材」(編集記事、報道)を装ってインタビューを打診し、無料だと誤解させて営業をしやすくすることです。他人をだます卑劣な営業手法だと言えます。また、もしお金を取って記事・動画を制作したのに、それがあたかも編集記事、報道であるように装って公開すれば、それはステマ(ステルスマーケティング)という他の問題にもなります。
ちなみに、広報業務に不慣れだとややこしいですが、企業の採用広報支援などを目的に有料で社長インタビュー記事や動画を制作し、それを自社が運営するメディアに公開する支援会社は普通にあります。最初から有料であると説明していれば何も問題ありません。
「社長インタビュー」の打診だけをとっても、内容によって無料の場合も有料の場合もあり得ます。問題は「詐欺的な手法で営業する会社」かどうかです。経営者の取材対応には時間も手間もかかるなか、全て対応した後に「お金を払わないなら載せません」は避けたい所です。
社長インタビューの打診パターン
【問題ない】メディアからの取材依頼
【問題ない】採用広報など向けに有料で社長インタビュー記事・動画を制作しますという営業(同社運営のメディアにも掲載するというパターンも)
【悪質な営業手法】取材(無料)を装いながら最終的にはお金を取る記事・動画制作の営業(同上)
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