CDP活用は「つなげてからが勝負」──SUBARUの顧客データ活用術
自動車メーカー・SUBARUでは、昨今はインターネットで簡単に情報が手に入るようになり、店舗に足を運ぶユーザーが減少していた。CDPに「データが入っていない」状態から、SUBARUは顧客データ活用を実現したという。
インターネットで情報が簡単に手に入る今、Web上での顧客体験の在り方を見直す企業が増えています。自動車メーカー・SUBARUでも、昨今はインターネットで簡単に情報が手に入るようになり、店舗に足を運ぶユーザーが減少。意思決定の場が店舗ではなくWebサイトへと移行しているといいます。
そんな中SUBARUは、顧客データを活用し、オフライン、オンラインをシームレスにつなぐ顧客体験の提供に取り組んでいます。今回はコネクティッドビジネスプランニング&マネジメントの小川秀樹氏に、SUBARUの顧客データ活用の具体的な取り組みを聞きました。
CDPに「データが入っていない」状態から、SUBARUは何をした?
小川氏によれば、SUBARUは自動車メーカーとして「万人に好かれる車というより、少しユニークな特色のある車を作っている会社」です。しかし、昨今はインターネットで簡単に情報が手に入るようになり、店舗に足を運ぶユーザーが減少しているといいます。小川氏は「最近は、意思決定の場が店舗ではなくWebサイトへと移っています。だからこそ、Web上での顧客体験が非常に重要です」と説明します。
特に大きな課題となったのはOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)でした。
「車のオーナー向けアプリ『マイスバル』のデータ、Webのログデータ、イベントなどのオフラインデータ、さらにディーラーが使う販売管理システムのデータ。これらをいかに有機的に結び付け、活用するかが鍵でした」(小川氏)
同社では2016年から、 CDP(Customer Data Platform)ツール「Treasure Data CDP」を導入。当時はCDPにほとんどデータが入っていない状態でしたが、現在はこれらのデータを統合し、よりシームレスな顧客体験の提供に取り組んでいます。
2024年7月に開催されたTreasure Data CDPのユーザー会で小川氏は、顧客データを活用した取り組み事例を2つ紹介しました。
1つ目は大型商業施設などで行っている出張展示会(試乗会)の例です。以前は来訪者アンケートを紙で実施していましたが、オンラインに変更しました。来訪者にスマートフォンで自ら入力してもらうことで、(同意を得た上で)Cookieを保存し、その後のWebサイトへの訪問も把握できるようにしたのです。
「これにより、精度の高いプロスペクト管理が可能となりました。また1人のお客さまをピックアップして行動を深く掘り下げるN1分析も行っています。例えばあるお客さまが、いつ何台目のSUBARU車を購入され、いつマイスバルに登録して、どんなキャンペーンに応募し、どんなイベントに参加されたかなどが分かり、お客さまの理解に役立っています」(小川氏)
2つ目の事例はMA(マーケティングオートメーション)です。以前は単純に1種類のメールマガジンを送っていましたが、現在はセグメント分けをしてそれぞれのユーザーの状況に合わせたメールを送っています。
「セグメントを増やせばパーソナライズに近いメールが送れます。ただし、クリエイティブコストも増えるため、細かく分ければ良いというわけでもありません。内製化をしていろいろトライしていますが、技術的には可能でも運用面では課題が残っています。例えばWebサイトでご覧いただいた車の色に合わせたメールマガジンを送れたら面白いのではないかというアイデアはありますが、そこまでは実現できていません」(小川氏)
この他、キャンペーンに登録したユーザーの実名とアプリや販売管理システムにある情報をファジーマッチングして名寄せをしているそう。「メールアドレスをキーに使ってみたこともありますが、多くの方が複数のメールアドレスを持っているため、うまくヒットしません。一番良かったのは郵便番号と電話番号でした」
「リアル店舗への集客については、特に統計は取っていませんが、テレビ放送後の一定時間内にWebサイトを訪れた人は、テレビからというタグ付けをして管理をするなどの取り組みをしています」(小川氏)
「相談相手がいない」 孤独な担当者を救う「コミュニティー」の存在
もともと基幹システムのシステムエンジニアだった小川氏は2016年、SUBARUがTreasure Data CDPを導入した際に担当になりました。「CDPはどんなデータもつなげられるすごいツールだと聞いていたものの、実際にふたを開けてみるとデータは空っぽで正直、面を食らいました」と小川氏は導入当初を振り返ります。
まずは数カ月をかけてデータを集めるところからスタート。デ―タが集まってからつなげるまではスムーズに進んだものの、当時はユースケースもほとんどなく、手探りの状態だったそうです。
「その過程で社内外の多くの人とつながり、今ではマーケティング領域のデータをさまざまな形で扱えるようになりました」と、小川氏はコミュニティーの存在意義を強調しています。
実際、CDPを導入しても社内に十分な人材が配置されず、相談できる相手がいなくて困っている人は少なくありません。小川氏も文字通り孤軍奮闘した一人として、「同じような苦労をしてほしくありませんし、社内だけで解決しようとすると、どうしても見えない部分が出てきてしまうと思います」と語ります。
実際に小川氏はTreasure Data CDPユーザーのためのコミュニティー「Treasure Data Rockstars」に参加しており、「デジタルやITの分野で活躍するプロフェッショナルの仲間ができることで、業務の中でも多くの良い影響が生まれるし、一緒に何か事業を起こすことなどもできるんじゃないかと思っています」と話しています。
立場は少しずつ異なっても、データと向き合う真摯な姿勢と情熱を共有するコミュニティーは、世界を変えるきっかけになっているのかもしれません。
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