「再現性がない」と言わせない マーケKPIを徹底的に管理する方法:顧客起点でLTVを最大化するトヨクモのマーケティング戦略(3/3 ページ)
今回はトヨクモ流のKPI設計、組織運営、部門連携、日々の業務プロセス、そしてそれを支えるテクノロジー活用の「型」について、実践で培われたノウハウを解説します。
再現性を生むマーケティングプロセスと基盤
目標(KPI)が定まり、実行体制(組織・連携)が整ったら、日々の活動を効率的かつ効果的に回し、再現性を生み出すための「業務プロセス」とそれを支える「テクノロジー基盤」の仕組み化が重要になります。
「顧客理解」を仕組み化する
全ての活動の起点となる「顧客理解」を、継続的かつ多角的に深めるためのプロセスを設計しています。
多様な手法の組み合わせ
定量データ分析(GA4、TRENDEMON)、アンケート調査、ユーザーインタビュー(定期的実施)、カスタマーサポート部門やコミュニティからのフィードバック集約、イベントでの直接対話など、複数の手法を計画的に組み合わせ、インサイトを得る活動を「定常業務」として組み込んでいます。
インサイトを施策につなげる標準プロセス
得られたインサイトは、【課題言語化】→【仮説構築】→【施策企画・実行】→【効果検証】→【改善・横展開】というプロセスで具体的なアクションにつなげます。この各段階で活用する思考フレームワークやアウトプット(企画書テンプレート、施策管理シートなど)を標準化し、誰が担当しても一定の質を担保し、再現性を高める工夫をしています。
テクノロジー活用を標準化する
これらのプロセスを支え、効率化・高度化するためにテクノロジーを活用していますが、単にツールを導入するだけでなく、「仕組み」の一部として機能させることを重視しています。
活用ツールと役割
- CRM/MA (kintone): 顧客情報の一元管理、PQLの特定とナーチャリング、パーソナライズドコミュニケーション、コミュニティ運営の基盤
- 分析(GA4、TRENDEMON、ミエルカヒートマップ):Web行動分析、ファネル分析、コンテンツ評価、効果測定によるデータドリブンな意思決定支援
- SEO(関連ツール):コンテンツ企画・評価のためのキーワード調査、競合分析、掲載順位モニタリング
- ウェビナー/コミュニケーション(Zoom、Slackなど):顧客との接点創出、情報共有、部門連携の円滑化
なお、ツールの効果を最大化するには以下が重要になります。
- 導入目的の明確化とメンバーへの浸透:新しいツールを導入する際は、「(1)導入目的の明確さ」「(2)現場が使いこなせるか」(UI/UX、サポート体制)、「(3)既存ツールとの連携性」を重視
- 「データを見て改善する」文化の醸成:ツール導入をゴールにせず、ダッシュボードの整備、定例でのデータレビュー、分析結果に基づくアクションの推奨などを通じて、「データに基づいた意思決定と改善」をチームの標準業務(当たり前の行動)にすることを目指す
このように、標準化された業務プロセスと、それを支えるテクノロジー基盤を整備・運用することで、マーケティング活動の再現性を高め、効率的かつ効果的な成果を創出しています。
また、これらの「マネジメントと仕組み」がトヨクモで機能している理由は、やはり「顧客起点」という揺るぎない哲学があります。単に顧客の言うことを聞くだけでなく、潜在的なニーズを先回りして捉え、製品やサービスを通じて顧客の成功を支援し、長期的な信頼関係を築くこと。この思想が、KPI設定、組織設計、プロセス構築、ツール活用といった日々のマネジメント判断や仕組み作りのよりどころとなっています。「顧客起点は、我々の文化である」という考え方が、仕組みを形骸化させず、生きたものにし続けています。
仕組みを進化させ続けるために
精緻な仕組みを構築しても、外部環境や顧客ニーズは常に変化します。「仕組みは作って終わりではない」という考えに基づき、トヨクモでは仕組み自体を進化させ続けることにも取り組んでいます。
仕組みがあっても残る課題と向き合う
完璧な仕組みは存在せず、常に課題は発生します。現在も、顧客理解の更なる深化(潜在ニーズ把握)、コンテンツなどの間接効果も含めた効果測定の精緻化、競争激化の中での差別化戦略、限られたリソースの最適配分といった課題に直面しています。これらの課題をオープンに認識し、既存のマネジメントや仕組み(会議体、ワークフロー、ツール設定など)が現状に合っているか、改善の余地はないかを常に問い、見直す姿勢を大切にしています。
未来を見据えた仕組みの進化
現状改善に加え、未来の変化に対応するための仕組みのアップデートも計画しています。
- データ活用高度化:AI活用も視野に入れた顧客行動予測、解約予兆分析、パーソナライゼーション精度の向上
- CS(カスタマーサクセス)との連携強化:LTV最大化に向けた、よりシームレスな情報連携と協働プロセスの構築
- 動画コンテンツ活用の本格化:企画・制作・配信・効果測定のプロセスを標準化し、主要チャネルの一つとして確立
あなたの組織で「顧客起点の仕組み」を作るために
全4回の連載、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。トヨクモが日々、試行錯誤しながら実践している顧客起点マーケティング「TMM」の、特に「仕組み」の部分について、できるだけ具体的にお伝えしようと努めてきました。
私たち自身、この道のりを歩んできて強く実感しているのは、結局のところ、再現性のある「仕組み」と、本気の「顧客起点」の文化、この両輪がしっかり回って初めて、マーケティングは安定して成果を出し続けられるようになる、ということです。どちらか一方だけでは、なかなかうまくいきません。
読者の皆さんは、「仕組み化って、なんだか大変そう……」と思うかもしれません。正直に言うと、私たちも完璧ではありません。 今でも日々、課題と向き合い、改善を続けている最中です。でも、だからこそ言えるのは、最初から壮大な計画は不要だということです。
まずは、皆さんのチームや業務の中で、「これ、人によってやり方が違って非効率だな」「この情報、もっとスムーズに共有できたらいいのに」「あの人がいないと、この業務進まないんだよな……」と感じる、身近な「やりにくさ」に目を向けてみてください。
例えば……
- よく使うレポートや分析のフォーマットをチームで統一してみる
- お客さまからよく聞かれる質問と回答を、みんなが見られる場所にまとめてみる(FAQ化)
- Slackに「#顧客の声」のようなチャンネルを作って、サポートや営業から届いたフィードバックを気軽に共有しあうルールを作る
こんな風に、今すぐ始められる「ちょっとした改善」や「ひと手間」が、立派な「仕組み化」の第一歩になります。「まずはやってみる、そして走りながら改善していく」くらいの気持ちで大丈夫だと思います。
「顧客起点」と言葉にするのは簡単ですが、本当に組織の力にするには、やはり日々の業務レベルでの「文化」と、それを支える地道な「仕組み」づくりが欠かせません。
皆さんのチームにも、必ず「ここから仕組み化できる!」というポイントがあるはずです。この連載が、その一歩を踏み出すきっかけになれたなら、私たちにとってこれ以上の喜びはありません。ぜひ、今日から何か一つでも試してみてください。
中井康喜(なかい・やすよし)
トヨクモ マーケティング本部 プロモーショングループ/StrategicGrowthグループ マネージャー。
2020年新卒入社。サイボウズが開発・提供するノーコードツール「kintone」に連携した「Toyokumo kintoneApp」(トヨクモが提供するkintone連携サービス6製品の総称)のカスタマーサポート担当を経験後、「安否確認サービス2」のプロモーション担当へ。2023年からプロモーショングループのマネージャー。2024年からStrategicGrowthグループのマネージャーも兼任。主な業務はマーケティングの戦略設計、広告、プロジェクトマネジメント。kintoneカイゼンマネジメントエキスパート。
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