広報のKPIを、安易に「メディア掲載数」にしてはいけない理由:広報兼務マーケターの「そこが知りたい」(1/2 ページ)
広報のKPIを、安易に「メディア掲載数」にしてはいけない。広報活動のKPI設計では、3ステップを押さえる必要がある。
広報を兼務するマーケターが戸惑いやすいポイントの一つが、それぞれの業務のKPIの違いです。定量評価が当たり前のマーケティング活動の感覚で広報活動のKPIを決めてしまうと、自分の首を絞めることになります。
マーケティングと広報で「KPI」はどう変えるべきか?
第1回でも説明した通り、マーケティング活動と広報活動は手法だけではなく活動の目的が大きく異なります。簡単におさらいすると以下の通りです。
マーケティングと広報の活動目的の違い
マーケティング活動:マーケティング施策で主に直接的、短期的に自社のブランドや商品の売り上げアップを目指す
広報活動:広報活動によって各ステークホルダーと良好な関係を築き、自社に対する「信頼の土台」を形成する。その信頼を中長期的に売り上げや採用などの企業成長につなげられるように目指す
直接的、短期的に結果を出していくためにも、マーケティング活動は必然的に定量的なKPIが中心となります。「いつまでに」「何を」(資料DL数、販売数、認知度など)、「どれだけ」(目標数値)などと具体的に設定されているでしょう。
では、ステークホルダーと「良好な関係性を築く」、企業として「信頼の土台を作る」という広報活動のKPIはどのように決めるべきなのでしょうか? マーケティングの発想では「企業の信用度調査」としてしまいそうですが、そうではありません。
「メディアの掲載数」では失敗する? 広報活動のKPI設計の3ステップ
自社に対する「信頼の土台」を作ることで、企業成長につながるさまざまな取り組みを良い形で前に進められるようにするのが広報活動です。ただ、こう言うと全ての企業活動がスコープに入り、何をすれば何に効くのか曖昧(あいまい)で、妥当なKPIが想像しにくくなります。
ポイントはまず、現状のゴールを明確にすることです。
自社における現状の「広報活動の目的」を具体的に設定し、優先順位の高い施策から順番に行うと考えると、各段にKPI設計が楽になるのではないでしょうか。
広報活動に失敗する企業は、そもそも「広報活動の目的」を明確にせずに活動していることが多いです。多くの会社が「まずは月1本メディア掲載!」という解像度でスタートして失敗します。
広報活動のKPI設計のステップは、「(1)広報活動の目的の明確化」→「(2)目的達成のための施策決定」→「(3)今のリソースと条件下で目的を達成するために妥当なKPIを設計」という順番で考えるとスムーズです。
広報活動のKPI設計で考慮すること
「広報活動の目的」× 「広報活動のリソース・条件」
「広報活動の目的」は経営上の課題と展望から逆算して決めます。この目的は事業の進捗や外部環境の変化などに合わせて定期的にアップデートします。
経営課題・展望の例
- 潜在顧客に対して社名、事業内容の正しい理解を促進する
- 〇業界への営業に注力する
- 資金調達を〇年までに達成
- エンジニア採用を〇年までに〇人
- 離職率の低減
広報活動の目的の例
社外広報:潜在(特に〇〇業界の)顧客が、自社、自社商品の正しい情報に触れられる機会を最大化する
採用広報:エンジニア向け採用広報を強化する
社内広報:社員エンゲージメントを向上させる
上記の手順で「広報活動の目的」が設定できれば、次に目的達成のための施策を検討します。
(1)広報活動の施策の例
社外広報:プレスリリースの発信、〇〇業界のメディアとのリレーション作り、外部支援を活用したメディアアプローチ、〇〇業界向けイベント企画、顧客事例作成など
採用広報:自社で働くメリットを対象エンジニアに伝えるためのnote立ち上げなど
社内広報:社内誌で社員インタビューを実施、社内アワード立ち上げなど
適切な広報施策を検討するにあたっては、前提となる知識が最低限必要です。「何をしたらいいのかさっぱり分からない」場合は必要に応じて外部リソースを活用しましょう。最後に、以下のようなリソースや条件を踏まえつつ、今の自社の広報活動に合ったKPIを決めます。
(2)広報活動のリソース・条件の例
- 社内広報人材、ノウハウの有無
- 現状の自社や商品の知名度
- メディアとの関係性
- 外部支援を利用する予算
どうでしょうか。広報活動のKPI設計の解像度が上がってきたのではないでしょうか。何の根拠もなく「広報活動のKPI」=「月のメディア掲載本数」にして頭を悩ませるのはあまり意味がありません。
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