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「東京は異様」──タクシー広告市場が“日本でだけ”拡大した5つの理由「OOH Tokyo Conference 2025 with WOO」レポート(1/2 ページ)

世界でも異例の発展を遂げた日本のタクシー広告。その背景と今後の展望について、業界トップ2社の幹部が語った。

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 タクシーの後部座席に設置されたデジタルサイネージ(タブレット端末)を用いたDOOH(デジタル屋外広告)サービスが注目されている。火付け役となったのは、2016年にフリークアウト・ホールディングスとタクシー配車アプリ「GO」を提供するGOが設立した、IRISの「TOKYO PRIME」だ。

 また、2018年にはPR大手ベクトル子会社のニューステクノロジーも「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」(以下、GROWTH)を提供開始し、現在はこの2サービスで約3万8000台のタクシー車両に広告を配信している。

 屋外広告の業界団体であるWOO(World Out of Home Organization)が2025年2月20日に開催したイベント「OOH Tokyo Conference 2025 with WOO」では、IRIS副社長の宇木大介氏と、ニューステクノロジーの三浦純揮社長が「日本独自の発展を遂げるタクシー広告について」をテーマに議論した。

「東京は異質」 タクシー広告が独自の進化を遂げた5つの理由

 現在、東京では約96%のタクシーにサイネージが設置されているといわれる。他国では、比較的設置率の高いニューヨークでも、その割合はせいぜい30%程度だ。つまり、世界的にはタクシー広告はさほど普及していない。にもかかわらず、なぜ日本だけで存在感を増しているのか。宇木氏と三浦氏はその理由を以下の5つに整理した。

  1. タクシー産業のDX
  2. タクシー会社の管理体制
  3. ハードウェアと通信環境
  4. 東京2020オリンピックの影響
  5. 都市部の高密度なインフラ

 日本でタクシー広告が発展した最大の理由が、タクシー産業で急速にDXが進んだことだ。「GO」「S.RIDE」「DiDi」などの配車アプリが続々と登場する一方で、キャッシュレス化も進んだ。決済手段を提供するデバイスとしてタクシー車内にサイネージを設置する流れが定着し、そこに広告を掲載することで新たな収益を得るビジネスモデルが確立した。「DXと共にタクシーサイネージが進化していった。初めから広告を流すことを主目的としてタブレット端末が増えていったのではないところがポイント」と宇木氏は話す。

 タクシー会社の管理体制が整っていたことも大きい。タクシーは営業終了後、必ず営業所に戻ってメンテナンスを受ける。決済手段を担う重要な要素であるサイネージも、もちろん保守の対象だ。不具合があればすぐに取り換えられるため、タクシーサイネージは営業中、必ず稼働している状態にある。

 三浦氏はタクシー会社の管理がうまくいっている前提として、日本の治安の良さも指摘した。盗まれたり破壊されたりすることがほとんどないから、安心して高価な端末を置いておけるというわけだ。

 ハードウェアと安定した通信環境が比較的安価に手に入るようになったことも、タクシーサイネージの普及を後押しした。IRISもニューステクノロジーも自前で端末を製造しているわけではないが、今日ではOEMで発注できる。また、端末の通信にはSIMを使うが、通信費が高ければ収益を圧迫してしまう。しかし、デジタルサイネージ向けの料金プランが普及し、ランニングコストが下がったことで、現在のように数万台規模での運用が可能になった。


IRIS代表取締役副社長の宇木大介氏<左>とニューステクノロジー代表取締役の三浦純揮氏<右>(画像提供:ニューステクノロジー、以下同)

 2020年の東京オリンピックも大きなきっかけだった。東京都は大会までの5年間に都内のタクシー1万台を、車いすのままで乗降できるユニバーサルデザイン(UD)タクシーに転換する方針を掲げ、補助事業を実施した。結果、多くのタクシー会社がトヨタの新型タクシー専用車両「JPN-TAXI」を導入した。JPN-TAXIは黒く背の高い外見が印象的だが、ゆったりとした空間設計も特徴だ。これにより、後部座席から程よい距離感で、目の高さに画面を設置できるようになった。メディア側の視点から言うと、見てもらいやすい視聴環境が整ったのだ。

 最後の理由が、タクシーが都市部のビジネスパーソンにとって重要な移動インフラであることだ。ニューステクノロジーがGROWTH利用者を対象に実施した調査では、ビジネス層の利用者比率は7割以上で、月11回以上利用する人が3割を超えた。

 メディア視点で言えば、ビジネス層に特化してオーディエンスをセグメントできる。また、この特徴的なオーディエンスは広告への接触頻度も高い。つまり、乗るたびに同じクリエイティブを見てもらうことで、メッセージを浸透させやすいという魅力がある。実際、タクシー広告にはB2Bの広告が多く、特徴のある媒体に育ったと言える。余談ながら、TOKYO PRIMEとGROWTHの両方に数多く出稿する「SKYSEA Client View」の広告は、「タクシーでよく見る藤原竜也」として、いまやモノマネ芸人の鉄板ネタとなっている。

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