「自社の宣伝」をするマーケターは“二流” 押さえておくべき「編集記事」と「広告記事」の違い:広報兼務マーケターの「そこが知りたい」
マーケターとしてタイアップ記事広告を出稿する場合と同じ感覚で記者の取材に対応するのは、広報担当者としては不合格です。メディアに記事にしてもらうとはどういうことなのか。記事と記事広告は何が違うのか。詳しく解説します。
Webメディアや雑誌などでは、メディア側が取材して作成する編集記事の他に、広告主とのタイアップで記事広告が掲載されることがあります。見た目があまり変わらないため、読者の立場では特に区別せずに読んでいるかもしれません。しかし、そこで取り上げられる企業の側は、両者の成り立ちの違いをよく理解する必要があります。
編集記事は記事広告と何が違う?
見た目は似ていても、記事広告は広告主がメディアにお金を出して掲載してもらうものであり、編集記事は記者が取材し、メディア独自の基準で、読者の利益につながると判断した内容を掲載するものです。
取材される企業側の立場で言えば、記事広告にはある程度自社の言いたいことを自由に反映してもらうことができます。ただし、その内容は広告であることを明示する必要があります。
一方、編集記事は必ずしも企業が載せてほしい情報が載るわけではありません。あくまで読者の利益が最優先なので、その大前提として客観性が強く求められます。企業の一方的な主張をうのみにして書くわけにはいかないし、読者の興味関心と異なることを掘り下げてくれることもありません。だからこそ、読者はその内容を信頼しやすいと言えます。
もし大手メディアに自社のポジティブな情報が掲載されれば、読者は自社を好意的に受け止めてくれるでしょう。逆に言えば、記事広告を編集記事のように装って掲載することは読者をだますのと同じことになります。記事広告に「PR」「AD」などの明示が求められるのはそのためです。
記事広告と編集記事はこのように成り立ちや記事が及ぼす影響力が大きく異なります。
「自社の宣伝」をするマーケターは“二流”
両者の違いを踏まえた上で、広告出稿に慣れているマーケターの方が編集記事の取材対応をする際に最も気を付けなければならないことが「自社の宣伝をしようとしない」ことです。
自社の商品、サービスの売り上げをいかに上げるかを日々考えているマーケターの皆さんには奇妙な話かもしれません。だからこそ要注意なのです。
メディアが優良な記事を数多く出そうとするのは、メディアというビジネスを継続させるために顧客である読者の満足度を高めることが必須だからです。読者にとって有益ではない記事が増えて読者が離れると、ビジネスとして成り立ちません。そのために記者はたゆまず情報収集を続け、情報を精査して取材先や取材内容を決めるのです。
つまり、基本的に編集記事には取材される特定企業の宣伝を載せる余地はありません。当然、ただ記者と仲良くしていれば取材してくれるわけでもありません。
読者に有益な情報を提供することはメディア企業の生命線です。よくメディアの方が「会社の宣伝をしたかったら広告でお願いします」と言うのはこのためです。あくまでも「メディアの読者にとって価値のある情報でなければ取材はされない」ということを広報担当者としてしっかりと頭に置いておきましょう。
どうすれば自社を好意的に取材してもらえるのか?
ここまでメディア側のインサイトをご紹介しました。しかし、筆者も長く企業広報として仕事をしてきましたが、企業にも企業側の言い分があります。
取材対応は社内の多くの人を巻き込んで行うもので、かなりの手間と時間がかかります。もしメディア取材が自社のビジネスに何の好影響も与えないなら、企業は必ずしも取材対応などしないでしょう。広報担当者には、メディア取材をしっかりと自社のメリットにつなげていく能力が求められます。
そこで広報担当者が持たなければならないのが、「メディアの読者にとって有益な情報」かつ「自社が(潜在顧客などに)伝えたい情報」をメディア向けに発信していくという視点です。
自社が発信したい情報がメディアにとっても取材したい情報だったら、メディア、企業、読者全てのステークホルダーにとってちょうど良いわけです。
メディア(の読者)にとって有益な情報で、かつ自社がステークホルダーに伝えたい情報の例としては以下のようなものが挙げられます。
例:人事業務DXを支援するSaaS「人事業務パワーアップくん」を提供するA社の場合
人事業務DXについて取材しているHR専門メディアに、「人事業務パワーアップくん」を使って業務改革で大成功を収めた顧客事例の取材を提案。取材されるのはA社の顧客の人事業務だが、そのDXを成功させたサービスとして「人事業務パワーアップくん」を取り上げてもらうことができた。
このような内容であれば、メディアは読者が人事業務DXを推進する際の参考になる情報を取材することができ、自社にとっても商品・サービスをポジティブに取り上げてもらえる良い機会となります。
こうした情報発信を行うために、広報担当者としては日頃から以下の点に気を付けて情報収集、取材提案をすることをお勧めします。
メディアに有益な情報提供ができる広報がしていること
(1)取材されたいターゲットメディアが普段どんな記事を掲載しているのかよく理解する
- 記者に話を聞く、記事を読む、媒体資料を読む、など
(2)自社の商品・サービスの内容、事業の進捗を把握するにとどまらず、自社のビジネスと業界や社会との接点、与えている影響まで把握する
(3)メディアが取材したい内容のなかで、自社のビジネスが影響を与えている部分があればそのことについて取材提案をする
今回は、記事広告と編集記事の違い、また広告出稿に慣れたマーケターが取材対応の際に気を付けたい点について解説しました。次回もお楽しみに。
執筆者紹介
松田純子
まつだ・じゅんこ リープフロッグ合同会社代表。早稲田大学卒業。求人広告のコピーライターを経て、2007年からワークスアプリケーションズ、博報堂グループのスパイスボックスで広報業務に従事。ゼロから広報部を立ち上げたスパイスボックスでは、初年度から400媒体以上の露出を実現、「広報活動によって1億円の売り上げに貢献した」として局長賞(社内アワード)を受賞。経営戦略室マネジャーを経て2019年3月に、BtoB企業向けに伴走型、人材育成型で広報部立ち上げ支援を行うリープフロッグ合同会社を設立。 「外から来る広報マネジャー」をコンセプトに多くの企業を支援。広報勉強会の主催や登壇、メディアでの寄稿、連載多数。著書「小さな会社の広報大戦略」(日経BP 日本経済新聞出版)
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