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「生成AIで作った広告」が物議 そのとき、コカ・コーラはどう動いた?Marketing Dive

生成AIを広告制作に活用し、議論を呼んだCoca-Cola。この経験から何を学んだのか。

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Marketing Dive

 飲料業界の巨人であるThe Coca-Cola Company(以下、Coca-Cola)は、生成AIをブランドマーケティングの分野にいち早く取り入れた先駆者だ。同社の生成AI部門責任者であるプラティク・タカール氏はMarketing Diveが主催したバーチャルイベントで、これまでの取り組みについて語った。

※本稿は「『AI専任部門は不要』 コカ・コーラが生成AIを真っ先に使ってみて学んだこと」の続きです

誤解された生成AI コカ・コーラはこの経験から何を学んだ?

――生成AIの社内利用と消費者向け活用、それぞれのニーズをどのようにバランスを取っていますか。

タカ―ル 一つ例を挙げましょう。生成AIはすでに広く普及しているし、誰でもアクセスできる環境が整っています。そのため、社内の誰もが新しいアイデアを思いつく可能性があります。私たちはそうした社内のニーズを整理するための仕組みを作りました。生成AIを活用したいと考える社員は、簡単な申請フォームに記入し、それを私たちのチームが少人数でチェックします。「これはAIに最適な活用法だ」と判断する場合もあれば、特定のツールが適さないこともあります。その場合、社内のガイドラインに準拠した代替ツールを提案することができます。また、過去に似た事例がある場合は、その経験を生かすことで無駄な重複作業を避けられます。さらに、私が関わる外部パートナーシップから学ぶこともできます。

 私の役割には、消費者向けの体験を創出することに加え、AI技術の最先端を追い続けることも含まれています。具体的には、AI分野のイノベーターと連携し、彼らのβ版あるいはα版の製品にいち早くアクセスすることで、次にどのような革新が起こるのかを把握しています。こうして、まだ世の中に知られていない技術を活用しながら、新しいプロダクトや消費者向け体験を先行して開発します。最終的に、その技術が一般公開されるタイミングには、すでに私たちのプロダクトが準備完了の状態になっている、というわけです。

――生成AIを活用したキャンペーンについて具体的に教えてください。

タカ―ル クリスマスは、グローバル規模で展開されるCoca-Colaブランドにとって象徴的なテーマです。今回のキャンペーンでは、私たちの生成AI活用の取り組みをさらに拡張し、パートナーと共に技術の限界を試すことを目的としていました。

 このプロジェクトには2つの視点がありました。まず1つ目は、1990年代のCoca-Colaの名作CM「Holidays are Coming(ホリデーがやってくる)」を、生成AIを使って再構築することでした。このCMには、非常にリアルでありながら幻想的なビジュアルとストーリーテリングが求められましたが、これは生成AIが得意とする分野です。最終的に、3種類のバージョンを制作し、それを消費者に公開しました。結果として、どのバージョンも消費者から非常に良い反応を得ることができました。

 もう1つの試みは、「Create Real Magic」プラットフォームの一環として、1931年に誕生したCoca-Colaのサンタクロースを活用して"サンタと会話できる"という新しい体験を生み出すことでした。私たちの着想は、「誰もがサンタと握手をしたり、一緒に写真を撮ったり、プレゼントをもらったりしたことはあるが、サンタとじっくり話をしたことはない」という洞察に基づいています。

 このプロジェクトでは、OpenAI、Microsoft Azure、Mimicと協力し、1931年のクラシックなサンタの3Dデジタルツイン(デジタル上の複製)を作成し、それにOpenAIの対話型AIを組み込みました。これにより、世界中のユーザーが26の言語でリアルタイムにサンタと会話できるようになりました。さらに、対話の内容に応じて、個別にカスタマイズされたスノードームが生成され、SNSでシェアできる仕組みも導入しました。

 このような体験は、生成AIだからこそ実現可能なものであり、Coca-Colaのブランド理念とも合致しています。この技術を活用することで、私たちのブランドのビジョンをより忠実に体現できると確信しています。

――このテレビCMは大きな注目を集め、生成AIの活用を巡る議論の的にもなりました。人々は生成AIをどのように誤解したのでしょうか。そして、この経験から何を学びましたか。

タカ―ル まず誤解を解いておきたいのは、「広告を作る」と一言入力すれば、AIが自動的に広告を生成するわけではないということです。クリエイティブに関する決定の多くは、最終的に人間が行っています。今回のプロジェクトでは、ロサンゼルス、サンフランシスコ、そしてマレーシアのクアラルンプールにある3つのスタジオと協力しました。各スタジオには「クリエイティブテクノロジスト」と呼ばれる、エンジニアであり早期導入者でありストーリーテラーでもある専門家が所属しています。

 また、今回のプロジェクトでは複数のツールを活用しましたが、どのツールを使用するかについては明確な基準を設けました。私たちはパートナー企業と契約を結ぶ際に、それぞれのツールの開発背景や法的側面を理解し、それに基づいて社内ガイドラインを策定しました。チームにも、このガイドラインに従ってツールを使用するよう指示しました。さらに、音楽についてはAIではなく人間の作曲家と協力し、オリジナルの楽曲を制作しました。

 完成した3種類のCMについては、北米、欧州、ラテンアメリカの消費者を対象に、少なくとも3つの異なる調査機関を通じて徹底的にリサーチを行いました。その結果、消費者の受容度、理解度、エンターテインメント性のいずれの指標においても非常に高い評価を得ることができました。

 もちろん、このCMを気に入った消費者もいれば、そうでない人もいました。人々の視点は多様であり、特に新しい技術を用いた取り組みには賛否がつきものです。ジャーナリストからも私たちの立場を聞きたいという問い合わせがありました。また、3〜4の異なる調査機関が独自にこのCMについて研究を行い、その結果を発表しました。確かに、一部の人々には受け入れられなかったかもしれません。しかし、それは自然なことであり、全ての人が私たちの取り組みに賛同するとは限りません。重要なのは、多様な意見を尊重しながらも、ブランドとしてのビジョンを貫くことだと考えています。


 インタビューが行われたイベント全編のリプレイはこちらから視聴登録が可能だ(外部リンク/英語)。

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