「バリューエコノミー」時代を生き残るための戦略とは?:2025年のCMOの課題
製品やサービスが顧客にもたらす価値と収益が密接に結びついた「バリューエコノミー」の時代、CMOはどのようにデジタル戦略を再考すべきでしょうか。
企業の事業運営の進め方が様変わりしつつあります。近年設立される多くの企業はデジタルファーストですが、伝統的な企業でさえもデジタル体験の活用とオンラインによる事業運営に向けて、オペレーションの転換に取り組んでいる姿が見受けられます。
一方で、企業の長期的な成長を推し進めるためには、そのような活動が、一貫した価値を顧客に提供し続ける事が求められます。すでに到来しつつある、私が呼ぶ「バリューエコノミー」の新時代では、デジタルプロダクトが顧客にもたらす価値とあらゆる収益源との間に相関関係が求められます。マーケターにとって、これは戦略の転換を意味しており、パーソナライズされた体験を構築し、高次元のLTV(ライフタイムバリュー)を創出するためにより多くの時間と注力が必要とされます。
今からバリューエコノミーにおいて、マーケターがどのように戦略を再考すべきかをご紹介します。
オンラインビジネスのオーナーを特定する
どの企業もオンライン上での顧客体験の一層の改善を望んでいますが、顧客データは、複数のチャネルやシステムに散在したままの状態にあります。さらに、事態をより複雑にしている問題として、歴史的にみてもオンラインビジネスには、一貫した事業のオーナー(責任者)が存在しないケースが多く見受けられます。ある事例として、CMO(チーフマーケティングオフィサー:最高マーケティング責任者)がオーナーとなり、従来のマーケティング部門の役割に加えて、Web戦略・戦術やデジタル戦略を監督するケースがあります。
また、マーケティング部門の内外で独立したポジションとして、CGO(チーフグロースオフィサー:最高事業成長責任者)の役割を拡大するモデルケースもあります。オンラインとセールス主導の二重の収益源を持つ企業の場合、CRO(チーフレベニューオフィサー:最高収益責任者)が全ての事業収益を把握しているかもしれません。PLG(プロダクトレッドグロース:プロダクト主導の成長)型の企業の場合、プロダクトチームがビジネスの「ゼネラルマネージャー」として主導的な立場で活動するケースも考えられます。プロダクトチームが事業に対して責任を持ち、精通していることは、まさにオンライン収益を促進させるためのメカニズムそのものです。最後に、CMO、CRO、CPO(チーフプロダクトオフィサー:最高製品責任者)が共同で事業運営を担うケースも存在します。
単純明快な答えはありませんが、オーナーの決定は重要なステップです。考慮すべき重要なポイントは、企業のオンラインビジネスの成長スピードです。責任を持つオーナーを1人に任命することで、最も早くその成果を期待できる一方、事業経営を共にする方が、組織のより高い成熟度を目指す上では、強力な足がかりになるかもしれません。
カスタマージャーニー全体で各業務のバランスを取る
これまでは顧客のアクイジション(獲得)が決定的な成長指標でしたが、今ではあらゆるオンラインビジネスでリテンション(継続性)が不可欠な要素になっています。それは何故でしょうか。顧客はオンラインのほんの数クリックの作業で、スピーディーな離反・解約が可能だからです。プロダクト、マーケティング、セールスのチームが、全てのプロセスを包含したデジタル体験を通じ、顧客エンゲージメントの維持に日々取り組んでいるのには理由があります。それはほぼ人の介入なしで顧客を維持しながら、収益につなげることができるからです。
顧客が複数のデジタルチャネルに関与している場合、シームレスな体験の創造は極めて重要です。顧客の購買行動の変化は、顧客にとって、日常的な価値をもたらさないサービス・製品からの離脱を示しています。既存顧客からの収益は持続可能な成長にとって同様に極めて重要です。チームはアクイジション、マネタイズ、リテンションの各業務のバランスを取る必要が不可欠です。リテンションの方程式を達成するには、顧客の行動データの有効的な活用が求められます。こうしたデータを通じ、顧客の再訪問やリピート購入につながる可能性の高い機能や体験が浮き彫りになってきます。
データから導かれた顧客に関する考察やインサイトは、アクションにつなげることで初めてその真価を発揮します。マーケターは顧客の行動データを活用することで、ロイヤルティーと購買の向上に結びつく理想的な顧客体験に注力できます。競争の激しい市場で、顧客の行動データを有効活用する企業は、自社を差別化し、デジタルプロダクトの内外でよりパーソナライズされた体験を市場と顧客に提供できます。
デジタル体験と真のROIを関連付ける
ROI(投下資本利益率)は、ビジネス事業やあらゆる業務の中心となるべきですが、ROIを正しく測定をすることは可能なのでしょうか。 各チームは、ページビュー、直帰率、コンバージョン率などのオンライン指標をすぐに共有しますが、こうした指標は必ずしも、収益との関連性を説明してくれる訳ではありません。
むしろ企業は、こうしたオンライン指標をビジネスの成長にどのように関連付けるかを問うべきです。収益維持率、年間コストの削減、解約の減少、CAC(顧客獲得単価)の削減などの経済効果の測定が重要になる環境下にあるマーケティングリーダーである私たちは、経営幹部や取締役会にROIの報告義務があり、収益やコスト削減への影響を強調すればするほど、ビジネスの成長、信頼、予測可能性をより大きく促進することができます。
企業は、カスタマーストーリーを通じてデジタルプロダクトのROIを示すユニークな機会を持っています。私たちは昨年末、ROI指標による顧客成功を紹介するという、ターゲット型キャンペーンを立ち上げました。企業はこれまで、増収やコスト削減に関わる数字の共有に消極的でしたが、このようなマイルストーンを共有し、成功に向けた準備を整えた企業は増えています。マーケターにとって、社内の経営陣に、そして外部の顧客や見込み客にROIを明示することは、今では重要な業務の1つになっています。
バリューエコノミーの到来により、全ての変化がそうであるように、時代に順応できない企業とリーダーは取り残されてしまいます。人々が求めているのは、自分たちの嗜好に合わせてきめ細やかに調整された最高のデジタルプロダクトであり、適切なデータを活用することで、マーケターは自社の戦略を調整し、高次元の顧客体験を提供できます。オンラインビジネスにおけるリーダーは、オンラインビジネスのオーナーを決定し、顧客のアクイジションとリテンションの原動力となるデータを最大限活用しながら、真のROIを明確に示すことで、ビジネス全体で成長を促進し、社内の経営幹部と同様に市場における顧客にも生涯価値を実証することが可能となるでしょう。
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