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「プロダクトレッドグロース」が非SaaS企業にも重要である理由とは?AmplitudeのCPOが語る

製品・サービスそのものが成長を促すプロダクトレッドグロース(PLG)が注目されている。AmplitudeのCPOが、現在あらゆる企業にPLGが必要とされる理由と、それを支えるプロダクト分析の価値について語った。

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 企業の成長戦略として、プロダクトレッドグロース(PLG:Product-Led Growth)が注目されるようになっている。これは、プロダクト(製品・サービス)そのものにユーザーを獲得、育成、拡大する仕組みを組み込むことで、ユーザーの自発的な利用を促すという考え方だ。

 PLGを実践するためには優れたプロダクトが不可欠であることは言うまでもない。優れたプロダクトとは直感的で使いやすく、価値をすぐに実感できるものだ。結局のところそれを決めるのは製品を利用するユーザーであり、プロダクトを提供する側はユーザー行動に関する詳細なデータの収集と分析を通じて、ユーザー体験のよしあしを判断するしかない。このプロセスを支えるソリューションがプロダクト分析であり、2012年に創業したAmplitudeは、プロダクト分析ツールの草分け的存在として知られている。

 プロダクト分析の重要性や従来のWeb分析との違い、そしてAmplitudeがどのようにプロダクト分析を支援しているかについて、AmplitudeのCPO(チーフプロダクトオフィサー)であるフランソワ・アジェンスタット氏に話を聞いた。


フランソワ・アジェンスタット氏

プロダクト分析は従来のWeb分析とどう違うのか

 プロダクト分析は、分析対象と目的において従来のWeb分析と大きく異なる。

 一般的なWeb分析は、Webサイトへのトラフィックやページビュー、コンバージョンといったセッション軸のデータを用いて、ユーザーがWebサイトとどう接しているかを把握し、マーケティングキャンペーンの効果測定やWebサイトの最適化に役立てることが主な目的とされる。

 一方、プロダクト分析は、ユーザー軸でアプリやWebサービス内での行動、機能の使用状況、エンゲージメントを把握・分析し、特にプロダクトの使用状況や価値向上の指標にフォーカスしながら、プロダクトの改善やユーザーエンゲージメントの向上させることを目的とする。

 Amplitudeのデジタル分析プラットフォームは、ユーザー行動の一つ一つをイベントとして記録し、コホート分析、ファネル分析、リテンション分析など、詳細な分析を提供する。データの収集から分析までをリアルタイムで行い、分析結果がダッシュボードで分かりやすく可視化されるのも大きな特徴だ。それに加えてセッションリプレイ(ユーザー行動の再現)やA/Bテストなどの機能もあり、それらを組み合わせることで、迅速な意思決定やアクションにつなげることができる。

 「Amplitudeは、完全なカスタマージャーニーを理解するためのプラットフォームを提供しています。私たちの使命は非常にシンプルです。私たちは、顧客がより良い製品とより良いエクスペリエンスを構築できるように支援します」(アジェンスタット氏)

Amplitudeの強み

 Amplitudeを主に使うのはプロダクト開発に関わる部門だが、過去5年間でマーケティング部門の利用も増大した。CPO、CMO(チーフマーケティングオフィサー)、そして現在ではCDO(チーフデジタルオフィサー)まで顧客が拡大している。背景にあるのは、企業のデジタル戦略の高度化だ。「企業がデジタルを重視するほど、カスタマージャーニー全体を可視化しなくてはならない。収益増大に向けては、社内の関係部門全てが相互に協力しなければならないことが理解されてきました」とアジェンスタット氏は説明した。

 アジェンスタット氏はAmplitudeが選ばれる理由として3つの強みを挙げた。

 1つ目はセルフサービスでの使い勝手が優れていること。これにより、プロダクト部門だけでなくマーケティング部門やデザイン部門などでも容易に使える。

 2つ目はマーケティング、プロダクト分析、さまざま実験を行うための機能を1つにまとめた統合プラットフォームを提供していること。Googleアナリティクスで得られるような基本的なレポートだけでなく、ユーザー行動の全体像を明らかにする、より深い洞察を得られる。

 3つ目は、オープンで柔軟性を備えたプラットフォームであることだ。これにより、「Snowflake」上からデータを移行せずクラウド上で顧客インサイトの分析が可能になっていたり、セグメンテーションや実験が顧客体験に与える効果を測定して、「Braze」でリアルタイムに調整できたり、他のテクノロジーとの連携を可能にしている。


Amplitudeがプラットフォームで提供する機能群(画像提供:Amplitude、以下同)

 Amplitudeが使いやすさと同様にもう一つ重視しているのが「アジリティー」だ。プロダクトの観点から顧客体験を改善する上では、多くのアイデアを試す必要がある。ユーザーの行動からインサイトを得て、何度も改良のアイデアをテストし、うまくいったらすぐ実装する。この積み重ねのプロセスに遅れがあってはならない。Amplitudeの単一のプラットフォームは、スピード感を持って継続的改善を支えている。

 プロダクトの成長に伴う複雑性の増大にも対応しなくてはならない。見なければならないシグナルが増えることは、新たなデータソースとの連携が増えることでもある。オープンで柔軟なAmplitudeは2024年11月時点で130超のデータソースを集約した分析が可能になっている。

「PQL」は「MQL」の8倍のパフォーマンスを生み出す

 PLGをSaaSスタートアップなどデジタルネイティブ企業のための成長手法というイメージで捉えている人もいるかもしれないが、それはいささか見方が狭い。現在では、非デジタルネイティブな伝統的企業であっても、顧客接点を拡大するためにEコマースを展開したり、店舗アプリを提供したりすることが当たり前になっている。むしろ、デジタルプロダクトを一切持たずに新たな需要を創出する方が難しい時代だ。

 こうした状況を反映して、Amplitudeの導入企業も多岐にわたっている。業種や企業規模もさまざまであり、新興のスモールビジネスだけでなく、日本のNTTドコモのような大企業にも採用されている。

 なぜプロダクトが重要なのかといえば、アジェンスタット氏が言うように、それが顧客体験の質に直結するからだ。カスタマージャーニーは、顧客がプロダクトを購入した時点で終わるものではない。特にデジタルプロダクトの場合、購入後こそが本番だとさえ言える。

 アジェンスタット氏は「営業組織が成長の中心的役割を担うセールスレッドグロース(SLG:Sales Led Growth)に対して、PLGはプロダクトそのものがセールスパーソンとして成長エンジンの機能を担います。プロダクトを効果的に使うことで顧客とのエンゲージメント機会を増やせるからです。マーケティング由来のリード(MQL:Marketing Qualified Lead)と比べて、プロダクト由来のリード(PQL:Product Qualified Lead)のパフォーマンスは8倍高いという調査結果もあります」と語る。

プロダクトがよければマーケティングや営業は不要か

 プロダクトがよければマーケティング部門や営業部門は不要かといえば、決してそうではない。プロダクト部門と協力することで、マーケティング部門は全ての顧客のトレンドを把握し、キャンペーンに活用できる。例えばプロダクトから得られるユーザーのシグナルを、キャンペーンの対象セグメントの抽出に利用することもできる。逆にプロダクト部門も、マーケティングが展開したキャンペーンでユーザーがどう行動したかを理解し、プロダクト改善の意思決定に利用できる。

 B2Cビジネスでは、プロダクトのトライアル体験がどれだけ快適であるかが、その後の購入や本登録に直結する。一方、購入プロセスが複雑なB2Bビジネスでは、営業部門のコミットがより重要になるのは言うまでもない。しかし、成長期においては、そのペースに合わせて都合よく営業人員を増やせるとは限らない。営業リソースの制約が続く場合、多くの企業は商談規模の大きいハイエンド顧客への対応を優先せざるを得ない。その一方で、セルフサービスで対応可能な顧客セグメントに対しては、プロダクトが登録を促す役割を担えれば、取りこぼしを少なくできる。

 こうした役割分担により、B2Bにおいても営業リソースを効率的に活用しつつ、成長のスピードを維持できる可能性が高まる。制約後も利用状況をモニタリングすることで顧客体験を改善し、エンゲージメントを維持することができる。

 「Amplitudeはプロダクトの営業担当者にも、カスタマーサクセス担当者にもなれる」とアジェンスタット氏は話す。


プロダクト分析は顧客獲得にも顧客維持にも貢献する

Amplitude自身のKPIとは?

 当然のことながら、Amplitude自身もプロダクト改善のためにAmplitudeを使っている。

 「私たちは、常に成長のドライバーを探していて、多くの仮説を思い付きます。テストをしたくなったらやってみる。そのプロセスを繰り返す。パワーユーザーが誰か、イライラしているユーザーが誰かを把握することで、そのユーザーに合ったカスタムソフトウェアを用意できることもできます。それまでになかったユーザービューを得られることは大きな力になります」(アジェンスタット氏)

 Amplitudeのプロダクト部門がモニタリングしているKPIの一つに、ユーザーによく使われている機能(と、使われていない機能)がある。冒頭で述べた通り、Amplitudeではさまざまな機能を提供しており、その一つ一つの利用状況から機能改善のヒントを得ている。企業単位では、リテンションをリスクの判断材料として重視しており、LTV(顧客生涯価値)も全て把握している。アジェンスタット氏は「マーケティングとプロダクトは親友になれる。協業を続けるには、1つのプラットフォーム上で両方を同時に可視化できることが重要」と強調した。

執筆者紹介

冨永裕子

冨永氏

とみなが・ゆうこ フリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタント。2つのIT調査会社でエンタープライズIT分野におけるソフトウェア分野の調査プロジェクトを担当する。その傍ら、ITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトも経験する。新興領域、テクノロジーとビジネスのギャップを埋めることに関心あり。


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