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OpenAI、Google、etc. 第59回スーパーボウルで賛否が分かれた“微妙”CMたちMarketing Dive

スーパーパーボウルLIXでは、有名人やユーモア、政治を前面に押し出した広告について、賛否が分かれる結果となった。また、「生成AIが主役になる」と予測されていたが、実際には目立った成功例はほとんどなかった

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Marketing Dive

 第59回スーパーボウル(スーパーボウルLIX)では例年通り、有名人を起用したCMが多数放映された。また、最先端の生成AIをアピールする広告も流れた。しかし、いま一つパッとしたものが少ないというのが専門家の見方だ。広告クリエイティブの効果測定ツールを提供する「Daivid」によると、広告の効果は過去5年間で最低レベルだった。

※編注:本稿は「『単なるスポーツ広告ではない』 Nikeの27年ぶりスーパーボウルCMは何がすごかった?」の続きです。

セレブ頼みの広告はもはやオワコン化

 スーパーボウルの広告主はここ数年、有名人を起用する戦略に依存してきた。iSpot.tvのデータによると、2020年以降のスーパーボウル広告の約3分の2以上に有名人が登場しており、この傾向は今年も続いた。だが、この戦略は次第にマンネリ化し、創造性に欠けるものになりつつある。特に、セレブとブランド(または共演者)とのつながりが欠けている広告では、その問題が顕著に表れている。

 マーケティング支援会社Metaforceの共同創業者アレン・アダムソン氏は「本当に驚いたのは、多くのブランドがスーパーボウルの『セレブのわな』にはまっていたことです。まるで『サタデー・ナイト・ライブ』の劣化版のようなCMを作り、単に一番笑いを取ろうとしているだけでした。どの広告のクリエイティブブリーフにも『有名人を見つけて、無理やりジョークを作れ』と書かれていたかのようでした」と、メールでコメントした。

 「セレブのわな」に落ちた中でも最悪だったのが、同じスターを使い回した広告主たちだ。特にMSC CruisesのCMは、ドリュー・バリモアとオーランド・ブルームという脈絡のない組み合わせが疑問視された。また、マシュー・マコノヒーはSalesforceやUber Eatsなどの広告に計3回も登場し、視聴者に過剰な印象を与えた。

 「(マコノヒーは)優れた広告塔ですが、あまりにも多くのCMに登場したことで、それぞれの特別感が薄れてしまいました。スーパーボウルのCMは“一瞬の特別な体験”であるべきですが、同じ顔が何度も登場すると、新鮮さが失われます。インパクトがあるどころか、やり過ぎに感じられてしまいます」と、Keplerのカーリ・ユルチンスキー氏はメールでコメントしている。

 適切なペアリングが成功した例もある。例えば、デビッド・ベッカムとマット・デイモンが「双子」役を演じたStella ArtoisのCMは、有名人×意外性×ユーモアのバランスが絶妙だった。一方で、Michelob UltraのCMに登場したキャサリン・オハラとウィレム・デフォーがピックルボールをするという設定は、ブランドとの関連性が薄く、混乱を招いた。

笑えないユーモア

 スーパーボウルのCMは奇抜なユーモアを競う場でもある。しかし、単に変わっていることが効果的であるとは限らない。例えば、コーヒーや紅茶に入れるクリーマーを製造しているCoffee MateのCMは、シェナイア・トゥエインの楽曲をBGMにしながら、不気味なCGの舌がうねる映像を流し、その夜の最悪の広告の一つだと批判された。

 「こんな気持ち悪い舌の動きを見せられて、誰が(この会社の)クリーマーをコーヒーに入れたくなるというのでしょうか」と、アダムソン氏は疑問を呈した。

 広告付き無料動画配信サービスのTubiは、2023年のスーパーボウルでは、最も注目を集めた広告の一つを放映して高評価を得た。しかし、今回のマーケティングはうまくいかなかった。「肉付きのよいカウボーイハット型の頭を持つ男」をテーマにしたCMは、同社のコンテンツラインアップが多様であることをアピールする狙いだったが、結果的には的外れな広告となってしまった。

 「視聴者の感情を動かしたり、求められていた笑いを提供した広告が数多くあった中で、TubiのCMは的外れでした。独自性を出そうとし過ぎた結果、すべってしまった形です」と、AutodeskのCMO、ダラ・トレセダー氏はコメントしている。

 奇抜な演出に使われたのは、舌や頭だけではなかったが、その結果はまちまちだった。ピザチェーンのLittle CaesarsのCMでは、ユージン・レヴィの眉毛が宙に舞い、スナック菓子のPringlesのCMでは、複数のセレブのひげが飛び去るという演出があった。しかし、どちらも似たようなコンセプトと手法だったため、強い印象を残すには至らなかった。

 一方で、清涼飲料水のMountain DewのCMは、歌手のシールの頭をアザラシ(英語でseal)の体に合成し、彼の代表曲「Kiss from a Rose」をアレンジするという異色の演出を採用した。これはシュールでありながらもブランドのアイデンティティーに忠実な仕上がりとなった。

 「ユーモアが計算されており、ただの奇抜さではなく意図的なシュールさが際立っていました。好き嫌いは分かれても、人々の話題になるCMです。しかし、それこそが重要です。話題になるCMは、ノイズをかき分ける力を持つものです」と、クリエイティブエージェンシーMādinのチーフクリエイティブオフィサーであるジェイミー・モンダー氏は評価した。

政治の波を乗りこなすということ

 ドナルド・トランプ氏が現職の米大統領として初めてスーパーボウルに出席したことで、いわゆるバイブシフト(政治的な雰囲気の変化)をどう扱うかが、広告主にとって重要な課題となった。今回のスーパーボウル広告では、さまざまな方法でこの問題にアプローチする試みが見られた。

 米国のキリスト教系団体が支援し、キリスト教を現代文化の中でより身近なものにすることを目的としたマーケティングキャンペーン「He Gets Us」は、3回目のスーパーボウル出稿となった。60秒のCMのBGMにはジョニー・キャッシュによるデペッシュ・モードのカバー曲「Personal Jesus」を使用し、シンプルで多様性に富んだ映像を通じて「人々が助け合う姿」を描いた。壁に書かれた「Go Back(出て行け)」の落書きを高圧洗浄機で洗い流す人や、プライドパレードの参加者が抱き合うシーンなどが映し出され、分断された社会に向けたメッセージ性が強調された。

 「この広告は説教臭くなく、ただ“人間的”だった。宗教を信じていなくても、何かを感じさせるものだった。この広告には他の多くの広告とは違い、確かに心を動かす力があった」と、広告代理店Think Shiftでクリエイティブバイスプレジデントを務めるリック・セラー氏は評価した。

 2024年のスーパーボウルに出稿しなかったJeepは今回、2分間の広告で復帰し、「アメリカンドリーム」「自由」「ヒーロー」といったテーマを、星条旗や広大な大自然を駆ける米国製自動車とともに描いた。ハリソン・フォードがカメラ目線で語るモノローグには、リベラル派向け(真のヒーローは謙虚で、プライドに突き動かされるものではない)、保守派向け(自由は皆のものだが、無料ではなく、努力して勝ち取るものだ)、中道向け(どの方向に進むかについて、私たちは常に意見が一致するわけではない。しかし、その違いこそが私たちの強みとなる)の要素が含まれ、政治的に中立ながらも、見る人によって解釈が変わる「ロールシャッハテスト」のような内容だった。

 「この広告は、包括性と多様な視点を祝福するバランスを保ちながら、人々が同じ国に住みながらも異なる視点を持つことができるというメッセージを、クルマを通じて伝えていました」と、広告代理店QuadのCMOジョシュ・ゴールデン氏はメールでコメントした。

 FCAS(Foundation to Combat Antisemitism:反ユダヤ主義と戦う財団)は、前年に続き2回目のスーパーボウル広告を放映。今回は「憎む理由はない(No Reason to Hate)」というテーマで、スヌープ・ドッグとトム・ブレイディが「くだらない理由で人を嫌うこと」の愚かさを語る内容だった。しかし、このキャスティングを疑問視する人もいた。

 体験型マーケティングエージェンシーVerbのエグゼクティブクリエイティブディレクターであるキンドラ・マイヤー氏は「どうしてスヌープとトム・ブレイディ(どちらも現職の大統領を支持している人物)が、反ユダヤ主義と戦う広告に起用されたのか、全く理解できない。納得できるように説明してほしい」と批判した。

期待された生成AIの大躍進は起こらず

 スーパーボウルLIXは、仮想通貨業界が席巻した2022年の「クリプトボウル」と同じように、「生成AIボウル」になると予想されていた。しかし、結果的にはAI関連の広告は意外にも少なく、また特別なインパクトを残すこともなかった。

 Googleは、最新の生成AI「Gemini」とスマートフォン「Pixel」を宣伝するため、「Dream Job」というCMを制作した。このCMでは、父親がAIの助けを借りながら面接の準備をする様子が描かれた。同CMは、彼がどのように自己アピールすべきか悩む中で、娘を育てた経験が仕事に生かせる貴重なスキルであることに気づくという感動的なストーリーに仕上げられた。しかし、「娘の成長を見守ってきた年老いた父親という設定は使い古された、大げさな感傷表現であり、AIが提供したキャリアアドバイスももありきたりな企業用語ばかりだった」と、広告代理店Mowerのシニアバイスプレジデント兼グループクリエイティブディレクターのテッド・ウォールバーグ氏はメールで酷評した。

 Googleはローカルビジネス支援を目的とした広告も作成していたが、こちらでも不正確な表現が指摘されており(※)、生成AIのマーケティングにおける一貫性の欠如があらためて課題として浮き彫りになっている。

※編注:米ウィスコンシン州のチーズ販売業者のGemini活用事例を紹介するCMのにおいて、Geminiが生成した情報に誤りがあることが指摘され、アーカイブ(外部リンク/英語)では内容が一部差し替えられた。

 初代CMOを任命したばかりのOpenAIはAccenture Songと協力し、消費者向けとしては初めての大規模なキャンペーンを展開した。「The Intelligence Age」と題したCMでは白と黒のドットが次々と変化する配列を用いて人類の主要な成果を描き、AIを最新の成果として自然に位置づけた。

 Think Shiftのセラー氏は「この広告は、複雑さとミニマリズムが完璧に融合していた。しかも、他のほとんどのCMよりもはるかに低コストだったと思う。それだけに一層印象的だ」と絶賛した。

 他の人々もこのCMが美的な面では印象的だったと同意している。しかし、人間とAIの関係を描ききれなかったと見ている人もいる。Advertiser Perceptionsのビジネスインテリジェンス担当エグゼクティブバイスプレジデントであるサラ・ボルトン氏は、NFLの若手アスリート育成プログラムを描いたスポットの直後にこのCMが流れたことで、感情的に冷めたと感じた。

 ボルトン氏は「その90秒間だけは、人間がAIよりも偉大に感じられた」とメールでコメントした。


 Marketing Diveは毎年、スーパーボウルの広告戦略を分析している。今回のスーパーボウルの詳細な分析については、試合中に放映されたのCM全てを網羅した「Super Bowl LIX: Tracking every ad」(外部リンク/英語)チェックするか、広告の効果測定データや視聴者の反応をまとめた「Super Bowl LIX: Analyzing the game’s advertising and engagement data」(外部リンク/英語)などの記事を参照してほしい。

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