検索
連載

「単なるスポーツ広告ではない」 Nikeの27年ぶりスーパーボウルCMは何がすごかった?Marketing Dive

Nikeが27年ぶりにスーパーボウルCMに復帰し、注目を集めた。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
Marketing Dive

 第59回スーパーボウル(スーパーボウルLIX)はフィラデルフィア・イーグルスがカンザスシティ・チーフスを40対22で圧倒する結果に終わった。試合自体は特に白熱した展開とはならなかったが、その舞台裏では広告主たちが視聴者の注目を集めようと、さまざまな手法を駆使していた。しかし、その中には時代遅れに感じられるものも少なくなかった。

「Just did it」 スーパーボウルLIXで成功したNikeの広告から何を学ぶ?

 全体的に見て、ブランドは今後、視聴者を飽きさせないために広告戦略を見直す必要があるかもしれないという証拠が増えている。広告クリエイティブの効果測定ツールを提供する「Daivid」によると、スーパーボウルLIXの広告の効果は過去5年間で最低レベルだった。同社が選出したトップ10の広告のうち7本は、パーパスを持った、あるいは深刻なテーマを扱ったものだった。

 Daivid創設者兼CEOのイアン・フォレスター氏は「今年のスーパーボウル広告の大半は笑いを狙ったものだったが、定番の“セレブ×ユーモア”というスーパーボウル広告のテンプレートを避けたブランドが、最も好意的な反応を得たのは興味深い。多くのブランドが同じ手法を試みる中で、差別化を図るのがいかに難しいかを物語っている」とコメントした。

 例年通り、2025年もスーパーボウルの放送は有名人を起用したCMのオンパレードとなった。マシュー・マコノヒーをはじめ複数のCMに登場するセレブもいる。また、最先端の生成AIをアピールする広告が数多く放映され、今日のテクノロジーの状況を物語っていた。肥満治療で注目されるGLP-1受容体作動薬を前面に押し出したCMも目立った。

 一方で、スーパーボウルLIXでは「パーパスドリブン」を前面に押し出したマーケティングも存在感を示した。近年、DE&I(多様性、公平性、包括性)への取り組みが逆風を受ける中で、この手法の影響力は低下しているように見えた。しかし今年は、女性をターゲットにした広告が成功を収めた。これは、多様化が進むNFLの視聴者層に適した戦略だったといえる。

 今回のスーパーボウル広告の中には、国の分断を超えて互いに歩み寄るよう訴えるものもいくつか見られた。政治的な違いを乗り越えようとするメッセージを発信する試みだ。ドナルド・トランプ大統領も、ニューオーリンズのシーザーズ・スーパードームに一時的に姿を見せたが、全体としては特に大きな波乱はなかった。唯一、ハーフタイムショーでケンドリック・ラマーがライバルであるラッパーのドレイクに向けてカメラ越しに直接メッセージを送るという場面はなかなかドラマチックだった。もしかすると、広告主たちが今必要としているのは、このようなほんの少しの「ドラマ」なのかもしれない。

 「今年のスーパーボウルで、これが勝者だと言えるCMを選ぶのは難しい。クリエイティブの新鮮さや、スーパーボウルならではの壮大で楽しい演出が、期待したほどには見られなかった」と、広告代理店DNA&Stoneのマット・マケイン氏とマイケル・ボイチャック氏は、共同でのメールコメントで述べた。

女性たちが主役となった夜

 NFLの女性ファン層拡大に貢献してきたポップスターのテイラー・スウィフトは、この夜は比較的静かに過ごした。彼女が応援するチーフスがイーグルスに3連覇の夢を打ち砕かれたためだ。しかし、広告の世界でスーパーボウルLIXの勝者となったのは女性たちだ。中でもNikeのカムバックは特に印象的だった。30年近くスーパーボウルから遠ざかっていたNikeは今回、ブランド再構築の一環として大々的な広告キャンペーンを展開した。これは、同社がブランド力を取り戻すための戦略(関連記事:「NikeがD2C偏重を見直し 新たな戦略は?」)における大きな決断といえる。そしてそれが成功したことは、今後の取り組みを進める上で重要な一歩となった。

 スポーツウェアの巨人であるNikeは、ラッパーのドーチーによるナレーションをバックに、モノトーンの力強いスポットCMを放映した。このCMにはジョーダン・チャイルズ、ケイトリン・クラーク、シャカリ・リチャードソンといったアスリートがカメオ出演しており、彼女たちが「女性にはできない」とされてきた記録更新やスタジアムを満員にすることなどを次々と成し遂げる姿を描いた。「So Win」と題されたこの広告はWieden+Kennedy Portlandと共同制作されたものだ。そのストーリーテリングやコピー、そして大胆なスタンスは高く評価され、スーパーボウルで最も優れた広告に贈られるスーパークリオ賞を受賞した。

 「Nikeは今この瞬間を理解し、完全に自分たちのものにした。ジェンダー平等が攻撃を受けているこの時代に、彼らは遠慮せず、はっきりとした立場を示した。これは単なるスポーツ広告ではなく、文化的なメッセージだった」と、AutodeskのCMO、ダラ・トレセダー氏はメールでコメントしている。

 NFL自体もフットボールの枠を広げることを目的とした2つの広告を放映したが、そのうちの1つで、女子高校生向けにフラッグフットボールの普及を促す内容が展開された。この他にも、女性に焦点を当て、女性特有の問題に取り組んだ広告は多く見られた。Novartisの「Your Attention, Please」は、当初、女性の胸にフォーカスし過ぎて不快感を与えるかと思われたが、コメディアンのワンダ・サイクスによるナレーションが入り、乳がん検診の重要性を訴える誠実なメッセージへと転換した。

 Doveも「意外性」を生かした演出を採用した。CMでは、3歳の少女が笑いながら通りを駆け抜ける姿が映し出され、BGMとしてブルース・スプリングスティーンの「Born to Run」が流れる。しかし、その後に表示されたのは「思春期になると自己肯定感の低下により、この少女の無邪気な喜びが失われる可能性がある」という統計データだった。

 「このシンプルさと胸を打つメッセージは、他の広告の過剰なまでに豪華な演出と対照的だった」と、独立系広告代理店Young & Laramoreの社長兼CEOであるトム・デナリ氏は評価している。一方で、「残念なのは、このCMが試合の終盤に放送されたことだ。多くの視聴者がすでに興味を失っていたり、寝てしまった可能性がある」と指摘した。


 Marketing Diveは毎年、スーパーボウルの広告戦略を分析している。今回のスーパーボウルの詳細な分析については、試合中に放映されたのCM全てを網羅した「Super Bowl LIX: Tracking every ad」(外部リンク/英語)チェックするか、広告の効果測定データや視聴者の反応をまとめた「Super Bowl LIX: Analyzing the game’s advertising and engagement data」(外部リンク/英語)などの記事を参照してほしい。

(「OpenAI、Google、etc. 第59回スーパーボウルで賛否が分かれた“微妙”CMたち」に続く)

© Industry Dive. All rights reserved.

ページトップに戻る