「アイデアはどこからでも生まれる」 ペプシコ幹部が語るクリエイティブ内製化の重要な意義:Marketing Dive
PepsiCo Foodsのクリス・ベリンジャー氏は「Advertising Week New York」で常時配信されるコンテンツ戦略の要求について語った。Marketing Diveはその後、ベリンジャー氏に独占インタビューを実施した。
Marketing Diveは米ニューヨークにあるPepsiCo(ペプシコ)のデザイン&イノベーションセンターで、PepsiCo Foodsのクリエイティブ責任者であるクリス・ベリンジャー氏にインタビューを行い、変わり続ける役割と社内エージェンシーであるD3、スーパーボウルなどの大規模イベントに向けた計画について話を聞いた。
※本稿は「『同じCMばっかり』を逆手に ペプシコが実践した超斬新なクリエイティブ発想の意図は?」の続きです。
PepsiCoのインハウスエージェンシー「D3」の役割は?
以下のインタビューは、内容を明確かつ簡潔に伝えるため、編集を施している。
――以前、「Groundhog Lay's」キャンペーンについて話をうかがいました。Advertising Weekでのプレゼンテーションでも話題に出ましたが、このキャンペーンは、PepsiCo Foodsで目指していることを示す名刺のようなものと考えていますか。
ベリンジャー 深く考え過ぎることなく作ることができたという点が気に入っています。私たちの業界では、6カ月から1年かけてプロジェクトに取り組むことがありますが、それでは公開する頃には愛着が薄れてしまいます。「Groundhog Lay's」は、私たちの他の活動にインスピレーションを与え、制作やパートナーシップにおいて新しい方法を解き放ちました。不慣れな状況に飛び込むことをためらわなくなったことで、チーム全体の創造性が刺激されました。アイデアを徹底的に分析し、会議にかけて何度も議論を重ねるというやり方もありますが、小規模なチームで迅速に動く方が、アイデアの本質を損なわずに実行できるものです。
――今月でちょうど、CCO(チーフクリエイティブオフィサー)に就任して1年が経過しました。このポジションを今、設立することが重要だった理由は何ですか。
ベリンジャー コンテンツやクリエイティビティーに対する世界の関わり方が変わったからです。従来であれば、1年に1本広告を出せれば幸運という状況でした。しかし今では、ソーシャルメディアやデジタル広告、さらにはカルチャーまで含めて、コンテンツは絶え間なく変化しています。会社がCCOの役割に投資することを決断したという事実は、クリエイティビティーがマーケティングにおいてどのように重要な役割を果たしているか、そして私たちのブランドと消費者との関係において、いかにそれが密接に結びついているかを示しています。コンテンツは、今や地球上のどこにいてもいつでも消費できます。従来のように、特定の場所や時間に依存することはなくなりました。私たちが言う「ボーダーレスなコンテンツ」とは、こうした変化に対応し、より集中した戦略的なアプローチを取ることを指しています。
――PepsiCoの社内エージェンシーであるD3の役割が大きいようですが、そもそもこのチームはいつ立ち上がったのでしょうか。また、それはあなたの役割とどう関連していますか。
ベリンジャー D3は、現在の北米飲料部門のCEOであるラム・クリシュナンが立ち上げたもので、もともとはYouTubeなどでショート動画を制作するためのエグゼキューション(実行)部門でした。2018年に私が参加したときのD3はメディアチームの一部にすぎず、専任のスタッフは1人だけでした。当時の私の役割は、社内チームのクリエイティブIQを向上させると同時に、迅速かつ効果的にクリエイティブを実行できるインハウス機能を構築することでした。過去6年間で、このチームは約140人のフルサービスクリエイティブスタジオに成長しました。現在では食品部門のコアな存在となり、クリエイティビティーをスピード感を持って実行できる体制が整っています。
ブランドチームが2週間に一度しかクリエイティブをチェックしないのとプロセスに直接関与するのでは大きな違いがあります。プロセスに直接関わることで、ブランドチームはこれまでとは違う視点でクリエイティブに取り組むようになりました。私は今、CCOとして社外のエージェンシーとも協力しながら、このスピード重視の考え方を推し進めています。ブランドチームとエージェンシーチームの間で「翻訳者」の役割を果たし、より早く良いアイデアにたどり着くこと、そしてそのプロセスで無駄な混乱を減らすことが目標です。全員が他のチームに嫉妬するような、そういう環境を作りたいですね。他のチームがどのようにしてあんなにすごいことを実現したのかと思ってもらえるような。
――D3が社内で手掛ける仕事の割合と、外部パートナーが担当する仕事の割合は変動していますか。社内で完結する仕事が増えているのでしょうか。
ベリンジャー 基本的なルールとして、強制的にD3を使わなければならないということはありません。社内チームも外部のエージェンシーと同じように評価される必要があります。私は外部のエージェンシー出身なので、以前は社内チームを嫌っていたこともありました。社内チームには不公平なアドバンテージがあると思っていたからです。私が参加した際に決めた基準の1つ目は、社内チームが外部チームと競り合わないこと、2つ目は、全員が自由に選択できることです。このフェアな基準によって、全てのプロジェクトが公平に評価されています。
社内チームが勝ち取る仕事が最近増えているのは事実ですが、それはチームが成長し、質が向上したからです。ただし、社内チームが外部チームに敗れることもあります。社内で納得のいく結果が出なければ、外部に依頼することもあります。
――最近の取り組みの中で、どの分野に力を入れてケーパビリティーを高めているのでしょうか。また、クリエイティビティーの変化を踏まえて、何を実験的に試みていますか。
ベリンジャー 今では誰もがある程度はクリエイターである必要があります。これが私たちのチームのルールです。何かを作れる人であってほしい。それは、ソーシャルメディア向けのコンテンツからフルプロダクション、あるいはアイデアそのものまで含まれます。私は「アイデアはどこからでも生まれる」と信じています。社内では特定の専門分野が指揮を執るということはなく、全員が平等な意見を持ち、平等な投票権を持っています。ブランドチームに対しては、エージェンシーパートナーを信頼してもらうことを目指しています。エージェンシーが提案をしているなら、それには理由があり、そのために彼らに報酬を支払っているのです。私たちはこれを「議論、決定、提供(Debate, Decide, Deliver)」と呼んでいます。誰もわざとひどいものを作りたくないはずなのに、同じような趣向に落ち着いてしまうということは容易に起こり得ます。それは依然として難しい課題ですが、それがクリエイティビティの興奮と挑戦の本質でもあります。
――フットボール選手のトム・ブレイディ、ロブ・グロンコウスキー、ジュリアン・エデルマンが出演したTostitosのNFLキャンペーンについて、以前のインタビュー(外部リンク/英語)でその期待について話されていましたが、実際の反響はどうでしたか。「Groundhog Lay's」と同様に、その過程から学びがあったのでしょうか。
ベリンジャー 広告主やクリエイターは、どうしても自分たちのアイデアに恋してしまいがちです。私たちは、なぜそのアイデアが理にかなっているかについて、すでに脳内で全ての結びつきを作ってしまっています。しかし、一般の人に見せると、彼らはどうしてそのアイデアに至ったのか全く理解できないことがあります。Tostitosのキャンペーンでは「フットボールを見るときはTostitosのトルティーヤチップスが欠かせない」というシンプルなメッセージに絞り込みました。このおかげで、2日間で6つの異なる広告を作ることができました。これは今の時代では非常に珍しいことです。
ベリンジャー このキャンペーンでは、Tostitosがこれまでとは異なる「荒唐無稽さ」のレベルをテストする意図がありました。Tostitosは伝統的にそういった方向性を取っていなかったためです。私たちにとっての課題は、普通の人々が楽しめるシンプルな「人間的な発見」を見つけることです。それは、業界人が好むものとは必ずしも一致しません。よく言うのですが、ブロックバスター映画とアカデミー賞を取る映画は別物であり、それぞれ異なる観客層をターゲットにしているのです。
―― Doritosが「クラッシュ・ザ・スーパーボウル」(※)を再び開催することになりましたが、そのアイデアに戻るきっかけは何でしたか。
※Doritosがかつて毎年実施していた勝手広告コンテスト。優秀作品は世界で最も多くの視聴者がいるとされる「スーパーボウル」で放送される。
ベリンジャー Doritosが多くの人にとって象徴的なブランドとなったのは、私たちが消費者をあらゆる活動の中心に置いたときでした。今、再びその手法を取り、新しい世代のクリエイターたちに門戸を開くべきだと感じました。クリエイターエコノミーは完全に変化しました。今の世代は、初めて携帯電話を手にしたときからコンテンツを作り始めています。今では、iPhoneで4Kや8Kの映像を撮影できる時代です。私は、消費者がどんなコンテンツを作ってくれるか非常に楽しみです。なぜなら、私たちでは初回のプレゼンテーションにも通らないような作品がたくさん出てくるはずだからです。
――長い歴史があるものの、しばらく磨かれていなかった戦略をもう一度取り入れようと考えているものは他にもありますか。
ベリンジャー 私は「車輪の再発明」はしないことを大切にしています。新しいものを作る前に、既存のアイデアでも良いものがあれば、それを活用しない理由はないと思っています。それが再び機能するかどうか試してみましょう。というのも、新しい世代にはそれを体験する機会がなかった可能性が高いからです。私たちはしばしば、きらびやかで新しいもの、オリジナルなものにこだわりがちです。しかし、私は1.0よりも2.0を作る方がはるかに難しいと考えています。
――Advertising Week のチャレンジャーブランドのパネルに出席しましたが、彼らの多くがDTC(Direct to Consumer)で、特に若い消費者に支持されています。彼らはあなたの戦略にどの程度影響を与えていますか。
ベリンジャー チャレンジャーブランドには限られたチャンスしかありません。私たちのブランドのいくつかには、その精神を取り入れてもらいたいと考えています。なぜなら、大きな予算や大きな機会にとらわれすぎることがあり、もっと工夫を凝らして、スマートに考えるべきだからです。そこにこそ、クリエイティブなブレイクスルーが生まれます。膨大なコンテンツとノイズがあふれている現代において、私たちは消費者にとって面白いもの、彼らがシェアしたくなるようなものを提供する責任があります。誰かが友人に「これ見た?」とメッセージを送るほどの内容を作ることができれば、それは私たちにとって金のように価値があるのです。「いいね」をお金で買うことはできても、コメントやシェアを買うことはなかなかできません。だからこそ、それは私たちにとって真のエンゲージメントの指標となるのです。
© Industry Dive. All rights reserved.