なぜかいま業績絶好調のマツダ 北米CMOが語る、地味め自動車ブランドがずっと大切に守ってきた考え方:Marketing Dive
Amazonの「Thursday Night Football」で新キャンペーンを開始する米国マツダ。広告だけでなく、CXやコミュニティーにも力を入れている。
「Choose to Be Moved」は、北米マツダの新しいブランドプラットフォーム「Move and Be Moved」から生まれた初のキャンペーンだ。
104年の歴史を持つマツダの新たな取り組みを指揮するのが、2020年9月からMazda North American OperationsのCMOを務めるブラッド・オーデット氏だ。
Marketing Diveによる独占インタビューでオーデット氏は何を語ったのか。
※本稿は「『マツダを知る人はマツダを愛するが、多くの人はマツダを知らない』 栄光を取り戻すための新戦略は?」の続きです。
マツダ復活へのプロジェクト 根底にある考え方とは?
以下のインタビューは、内容を明確かつ簡潔に伝えるため、編集を施している。
――新ブランドプラットフォームについて、そしてそれがマツダにとって今後どのような意味を持つのか教えてください。
オーデット 「Move and Be Moved」は、人生を前進させる人々との価値観の共有を称え、自動車会社としての私たちが感情的にも物理的にも人々を動かし、彼らの人生で重要なものを楽しむ手助けができるというメッセージです。それは、さまざまな意味で、より充実した人生を送るための招待状なのです。
自動車業界は現在、劇的な変革期を迎えています。競争が激化し、市場は混雑しています。このような状況で、マツダが市場において明確で独自の視点を持つことは非常に重要だと思います。パンデミックが収束しつつある今、人々はより人間らしいつながりを求めています。質の高い体験を求める声も増えています。このプラットフォームは、そのようなニーズに応えるものです。
――新プラットフォームの立ち上げは、多くの広告主がパフォーマンスマーケティングからブランド構築へと回帰するトレンドの中で行われました。マツダは両者バランスをどのように保っていますか。
オーデット パンデミック中は、全ての企業がパフォーマンスマーケティングに力を入れたと思います。過去10年間におけるテクノロジーの出現は人々に、以前には気づかなかった新たな機会を与えました。だから、振り子がパフォーマンスマーケティング側に振れ過ぎたのかもしれません。しかし今、人々はブランドが顧客にとって価値のあるアイデアに根ざしている必要性を再認識していると思います。
私たちがパフォーマンスマーケティングに極端に偏ったとは思いませんが、販売最適化に注力するあまり、ブランド強化に十分な注意を払っていなかったとは言えるかもしれません。現在、両者のバランスを取った方程式を見つけました。私たちのパフォーマンス最適化は、過去4年間で市場シェアを拡大するのに役立ちましたが、今回の取り組みはそれにさらに加速をもたらすでしょう。
――「Choose to Be Moved」キャンペーンのクリエイティブプロセスについて教えてください。
オーデット 私たちは、WPP傘下のVMLをリードクリエイティブエージェンシーとして起用し、長い時間をかけてこのプロジェクトに取り組んできました。私たちは誰もが通る通常のプロセス通り、市場においてどこにオポチュニティーがあるのか、顧客がどのような購買行動を取っているかや、ブランドとして私たちがどのような役割を果たせるのかを探ってきました。
マツダは常にヒューマンセントリック(人間中心)なブランドでした。「ヒューマンセントリック」という言葉がマーケティング用語として定着する前から、マツダは実際にその考えを実践していたのです。マツダは「人間による、人間のための」というフレーズをずっと掲げてきました。第二次世界大戦の惨禍に見舞われた広島で生まれたこの会社は常に、私たちが行う全てのことの中心に人を置かなければならないと考えてきたのです。今回の仕事にも、私たちの伝統の本質が表れていると思います。
現在、人々はより意図的に人生を前進させています。自分の時間とエネルギーを投資する方法について、より意識的な決断をしているのです。物質的なものよりも経験を優先させるという意味で、その傾向は、X世代やベビーブーマー世代よりも、若い世代に強い。人々は充実した人生を送りたいと思っています。私たちは彼らが人生の重要な瞬間を迎えるための信頼できる伴侶であり、イネーブラーでありたいと願っています。
――なぜマツダは女子プロバスケットボールWNBAの新人選手ニカ・ミュールやプロサーファーのクリフ・カポノ、MX-5カップレーサーのヘリオ・メザを広告に起用したのですか。
オーデット 自動車業界の広告は一般的に注目を集めることが難しくなっているため、今回の起用には戦略的な意図がありました。現在、多くの企業がインフルエンサーを利用して知名度を高めていますが、マツダの狙いは単に露出を増やすことではなく、コミュニティーと真に「つながる」ことでした。この3人はそれぞれの分野で影響力を持っています。いわゆる「メガインフルエンサー」ではありませんが、それぞれが確固たるフォロワーを抱えています。彼らが自分たちの日常を見せることで、視聴者に「本物の人間」として理解してもらうことを目指しています。
――広告支出やチャネルミックスに関して、このキャンペーンをどのように拡大していますか。
オーデット 今年、私たちは米国市場において、これまでで最も多額の資金を投入しています。マツダはいまだに比較的小さなブランドですが、支出額という点ではなかなかの規模だと思います。「Move and Be Moved」キャンペーンはカスタマージャーニー全体をカバーするものとしてデザインされています。いずれはミドルファネルからロウワーファネルにおける需要創出や需要捕捉といったパフォーマンス領域にも展開される予定ですが、現時点ではアッパーファネルにおけるブランドストーリーに焦点を当てています。私たちの広告は主にテレビ、特にスポーツ番組を中心に展開します。なぜなら、人々が視聴しているのはそうしたコンテンツだからです。私たちはマルチスクリーンアプローチを取り入れ、顧客がいる場所に合わせた展開を目指しています。
私たちはAmazonの「Thursday Night Football」とシーズン契約を結んでいます。Amazonの環境は基本的に全てタグ付けされており、どのような世帯がCMを視聴しているのか、正確に知ることができるからです、視聴者にリマーケティングすることもできます。Amazonのプラットフォームの背後には、多くの優れた行動データがあります。
また、ESPNやFOXなど、従来の媒体にも出稿しているし、今秋のWNBAファイナルにも広告を出します。さらに私たちはHuluやSamsung TVでホームページの全面ジャックなどを展開しています。Samsungの環境に入るのは初めてなので、どんなデータが返ってくるか楽しみです。
私たちのブランドプラットフォームである「Move and Be Moved」は、顧客体験の設計やコミュニティ活性化など、今後の活動の原動力となります。それは単なる広告ではありません。エコシステムとファンのコミュニティーを作ることなのです。
――AmazonやSamsungから提供されるデータは、どのようにマーケティング戦略に役立っていますか。
オーデット マツダは「人間中心のブランド」であり、人間の可能性を信じているため、優れた「聞き手」である必要があります。つまり、顧客が発しているシグナルをしっかりと捉え、それを蓄積し、顧客対応をよりスマートにする必要があります。
マツダにとって日本語の「おもてなし」の概念は非常に重要です。これは他者を思いやり、相手の視点に立つことを意味しています。自分の都合より相手のニーズを優先する上で重要な要素は、相手が何を求めているのか、何が必要なのかを予測できることです。
私は顧客のデータシグナルを活用することで、顧客が何を必要とし、何を望んでいるかを事前に予測し、コミュニケーションや体験を通じて「おもてなし」を実現できると信じています。私たちはマーケターとして実際に顧客を導く責任があることを時として忘れてしまいます。多くの場合、マーケターは顧客に追随しようとしますが、私たちはそれを変えようとしているのです。小さなブランドである私たちは自重以上の力でパンチを繰り出す必要があります。それを可能にするユニークな視点を与えてくれるのがデータなのです。
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