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バイデン大統領の息子の事件をフェイクニュース扱い 「モデレーション」はなぜ難しいのか?Social Media Today

Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は過去に米国政府から不適切な投稿を検閲するよう圧力をかけられていたことを認めた。特に論点となったのはCOVID-19に関連する投稿と、ジョー・バイデン大統領の次男であるハンター・バイデン氏のノートPC事件関連の投稿だ。

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Social Media Today

本稿は「コロナ禍での政府の圧力への対応をMetaは後悔 “反ワクチン”投稿制御はやり過ぎだった?」の続きです。

 ハンター・バイデン氏のノートPC事件(※)についても触れておこう。

 これは現代史上最も物議を醸した政治事件の一つであり、保守派の視点から見ると、ソーシャルメディアプラットフォームが民主党と共謀して現職大統領の次男であるハンター・バイデンの事件をもみ消し、その拡散を阻止しようとしたという認識がある。この事件がバイデン氏の大統領選挙運動に影響を与えることを避けようとしていたというわけだ。

※編注:2019年にハンター・バイデン氏がデラウェア州のPC修理店に持ち込んだPCに保存された電子メール記録などから同氏のさまざまな疑惑が発覚。これを発端に、2018年に銃を購入した際に薬物使用について虚偽申告した2件の罪と違法薬物を使用しながら銃を所持した罪で2023年9月に起訴され、2024年6月に有罪の評決が下された。また、2023年12月には所得税を故意に支払わなかったなどとして9件の罪で再び起訴されたが、公判前の2024年9月5日、ハンター氏は9件の罪状全てについて有罪を認めた。

「記事を抑えたことは間違いだった」 Metaザッカーバーグ氏も後悔

 Metaの会長兼CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は次のように説明している。

これとは別に、FBIは2020年の選挙に向けて、バイデン一家と(ウクライナのエネルギー会社である)Burismaに関するロシアの偽情報工作の可能性について警告してきた。その年の秋、当時民主党の大統領候補だったジョー・バイデン氏の家族の汚職疑惑を報じた「New York Post」の記事を目にしたとき、私たちはその記事をファクトチェックに回して返答を待つ間、一時的にその露出を制限した。その後、報道がロシアの偽情報ではなかったことが明らかになり、結果的にその記事を抑えたことは間違いだったと考えている。私たちはこのような事態を再び起こさないように、ポリシーやプロセスを変更した。例えば、ファクトチェックの返答を待つ間に記事を一時的に制限することは、米国ではもう行っていない。

 この説明の通り、全てのソーシャルプラットフォームが、この話はあまりにも荒唐無稽で現実離れした内容であると警告されていた。ジョー・バイデン氏の息子であるハンター・バイデン氏がデラウェア州ウィルミントンにあるPC修理店に機密情報を満載したノートPCを持ち込み、その後90日以上も引き取りに来ないで支払いもしなかったため、店主がそのノートPCを当局に引き渡し、ハードディスクドライブに犯罪を示す証拠が見つかったというのだ。

 事件が最初に報じられたとき、この話は真実ではない可能性が強調された。選挙運動の最中に一介のコンピュータ修理業者が偶然にもそのような決定的な情報にアクセスできたということが本当にあり得るのかと。そのため、これはロシアの偽情報作戦である可能性があるという警告が発せられ、ソーシャルプラットフォームもその警告に基づいて行動し、報道の範囲を制限した。しかし、2020年の選挙後もさらなる調査が行われ、この報道は正しいことが確認され、言論弾圧の疑いが浮上した。

 ザッカーバーグ氏が指摘しているように、ソーシャルプラットフォームはこれが偽情報であるという警告を受け、その警告に基づいて行動した。彼らは公式な情報源から受け取った情報に基づいて、バランスよく善意で運営していたのだから、問題はプラットフォームよりもむしろ、FBIによるファクトチェックの信頼性にあるということだ。

 それでも、一定レベルで記事のもみ消しがあった可能性は残る。しかし、ソーシャルプラットフォームが政府と結託して一方の側に利益をもたらしていたという主張は、この事件に関する既知の情報に基づけば、誤りであるように思われる。

 とはいえ、COVID-19の件もハンター・バイデン氏のノートPC事件の件も、ソーシャルプラットフォームの公平性とコンテンツのモデレーションの方法、そしてそのような行動を起こす動機について疑問を提起している。彼らの説明に基づけば、どちらの対応も公式情報に基づいたモデレーションチームの合理的な対応のように思える。だが、どの時点でソーシャルプラットフォームは公式情報源を拒否し、情報が真実であるか否かにかかわらず、そのまま流すべきなのかという疑問は残る。

 というのも、ソーシャルプラットフォームが誤報や偽情報を正しく制限した事例は数多くあり、そうした努力は間違いなく実社会での被害を軽減しているからだ。

 そこで再び、元Twitterの信頼安全部門責任者デル・ハービー氏の発言に戻ろう。彼はソーシャルプラットフォームのモデレーションチームの役割について、誰かが、あるいは多くの人が死ぬことになりかねない情報の拡散を阻止することであると述べた。それ以外の情報についてはラベルを貼るか、X(旧Twitter)ではコミュニティノートを追加するべきであると。

 それで十分なのか。あるいは、それも行き過ぎており、イーロン・マスク氏が考えるように、誤っているかどうかにかかわらず全ての意見を聞き、その後で公開討論で議論するのがいいのだろうか。

 これに関して簡単な答えはない。あるグループにとっては致命的な誤情報とされるものが、別のグループにとっては無害なおしゃべりにすぎないこともあるからだ。また、自由な討論のメリットに頼ることは魅力的ではあるが、特にマスク氏のような影響力の大きいユーザーが2億人近いフォロワーに何かを共有したとき、それは特別な重みを持ち、人々はそれを真実として行動するという事実がある。それが真実であろうとなかろうと。

 最も影響力のあるソーシャルメディアユーザーが、彼らが見たままのことを真実と断じられるようにすることは、私たちが望む状況なのだろうか。そしてそれは、ソーシャルプラットフォームに対する政府の干渉を許すよりもいいことなのだろうか。

 私たちは言論の自由が拡大する時代に向かっているのか、それとも単に最も失うものが多い人々が別のシナリオを作り出し、それを「真実」として提示することで物語を変えることができる時代に向かっているのだろうか。

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