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インタビュー

サブスクリプションは「定額制」ではない 頭打ち感を打破して成長し続けるための考え方ZuoraのCEOに聞く

サブスクリプションエコノミーの拡大が続くが、市場が飽和する中で淘汰も起こり始めている。停滞を打ち破って飛躍するために今何が必要なのか。ZuoraのCEOでベストセラー書「サブスクリプション」(ダイヤモンド社)の著者でもあるティエン・ツォ氏に聞いた。

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 製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)の意思決定を調整して顧客のニーズを満たすことは、組織の目標を達成するための基本だ。いわゆる「マーケティングミックスの4P」として知られるフレームワークだが、ZuoraのCEOでベストセラー書「サブスクリプション」(ダイヤモンド社)の著者でもあるティエン・ツォ氏は、サブスクリプションエコノミー(モノ売りよりもサービスを中心に構築されたサブスクリプション体験が消費者のニーズを満たす世界)において、4Pの在り方はこれまでと大きく異なると指摘する。

 とりわけ鍵になるのが価格(と、パッケージング)だ。顧客との信頼関係を築き、最高の体験価値を提供する見返りに収益を最大化するための考え方について、ツォ氏に話を聞いた。インタビューにはZuoraのユーザーである弁護士ドットコムで取締役クラウドサイン事業部長を務める橘大地氏も同席した。

サブスク疲れを超えてゆけ

――2022年のITmedia マーケティングのインタビュー(関連記事:「サブスクリプションビジネスを成功に導く鍵は『CRO』『CPO』『CFO』三位一体の連携」)では、コロナ禍で成功してる企業とそうでない企業の差が出始めてきたというお話をうかがいました。パンデミックが収束する中で現在のサブスクリプションエコノミーの状況をどう見ていますか。

ツォ氏 パンデミックによって、サブスクリプションは非常に伸びましたが、市場が成熟するに従って競争も激しくなっています。流通業や金融サービスなどはまだこれからですが、ストリーミングビデオやSaaSなど、すでにサブスクリプションがかなり進展している領域では“サブスク疲れ”ということも起こっているようです。持続可能な成長のためには正しい戦略を考えていかなければいけません。適切な戦略を立ててきちんと実行している企業は勝ち続けていますが、戦略がフェイク(偽物)であった場合、やはりうまくいかなくなっているというのが実情だと思っています。

――具体的には何がフェイクに相当するのでしょうか。

ツォ氏 本来、サブスクリプションビジネスは顧客を中心に据えて、顧客のニーズを分かった上でサービス提供をするものです。間違った戦略というのはただ単に画一的なプロダクトを顧客に提供し、それを定期で払ってもらうというだけのビジネスになっていることです。新規獲得には注力するのに、いったん獲得してしまった顧客のことは忘れてしまう企業が少なくありません。一方、持続可能なサブスクリプションビジネスを実行している企業は、既存顧客のニーズをより深く理解し、それぞれの顧客に合ったきめ細かいサービスを提案し続けています。例えば「New York Times」は既存顧客のエンゲージメントを重視しており、パーソナライズされたオファーやバンドルを提供することで解約率を低く押さえています。

――2019年に最初にインタビューさせていただいたとき、サブスクリプションを単純に「定額制」と捉えてはいけないとおっしゃっていたことをよく覚えています(関連記事:「本物の『サブスクリプション』の話をしよう――Zuora創業者ティエン・ツォ氏インタビュー」)。単純な分割払いではなく、その時々の顧客ニーズに合ったサービスを適切な価格で提供することが顧客満足と継続率の向上、そしてCLV(顧客生涯価値)増大につながるということですね。

ツォ氏 おっしゃる通りです。ただ単に月額10ドル支払ってもらえばいいというようなビジネスではないということです。顧客の置かれた状況は常に変化しています。そうであればオファーもダイナミックに変えていかなければいけません。

――顧客のニーズに合ったきめ細かい価格とパッケージ設定を提供する上で役に立つツールが2022年に買収した「Zephr」(※)なのですね。

ツォ氏 リカーリングによる成長ということを考えた場合に、Zephrのテクノロジーは鍵になります。Zuoraはサブスクリプションビジネスの収益向上と業務の効率化を実現し、プライシングや見積、契約管理、請求・回収、収益認識、レポート・分析を一気通貫のサービスで支援します。一方、顧客は常に変わっていく、そこで、システムの中で顧客の状況を把握しながら、本当に正しいタイミングで正しいオファーを出すための橋渡しをするのがZephrだと思っています。

※編注:Web経由の収益向上を実現するツールで、世界の大手メディア企業をはじめ、SaaSなど、サブスクリプション型のビジネスで広く利用されている(関連記事:ITmedia エンタープライズ「『サブスク疲れ』を乗り越えるための新製品 Zuoraが『Zephr』を国内発売」)

「クラウドサイン」の柔軟で迅速なプライシングパッケージ戦略

――企業がZuoraを導入する際、主にどの部門が意思決定に関わるのでしょうか。

ツォ氏 私たちが直接話すのはCFO(最高財務責任者)やCTO(最高技術責任者)、つまり財務やエンジニアリングの部門の方が多いですが、ご承知の通りサブスクリプションビジネスはあらゆる部署が関わるものです。例えばサブスクリプションサービスの見積もり作成・管理に特化した「Zuora CPQ(configure price quote)」などは営業部門でも使われています。ITmedia マーケティングの読者、特にCEOやCMO(最高マーケティング責任者)やCRO(最高収益責任者)の方々には、リカーリングによる成長の力をぜひ理解していただければと思っています。ここで、Zuoraのユーザー企業の声として、弁護士ドットコムの橘さんにもお話しいただきたいと思います。

橘氏 私は弁護士ドットコムで電子契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者を務めています。当社ではRevOpsの担当者がZuora導入の責任者なのですが、私も取締役の立場で常にZuoraのデータで売り上げ情報などを見ています。クラウドサインはリリースして8年のサービスですが、これまでにたぶん30回以上、プライシングを変更しています。例えば今クラウドサインで書類を1件送ると200円ですが、これは最初50円でした。どういう金額にするとどれぐらいの受注率になるかとか、コンバージョンを見ながら経営判断して、柔軟に料金を変えてきています。変更したけど元に戻すといったこともよくあります。

ツォ氏 非常にダイナミックですよね。

――価格変更という重大きな決断を柔軟にやってのけるところがビジネスの強みになっているのでしょうか?

橘氏 SaaSですから、長く使っていただいている間に製品もどんどんエンジニアが改良していきます。去年のクラウドサインより今年のクラウドサインはものすごく進化しているので、それに合わせて価格もどんどん変えるべきだと思います。最適な価格がいくらなのかというところは、Zuoraのデータを見ながら最終判断しています。

――価値に見合った価格というところでは、選択の幅を広げることも重要ですね。

橘氏 そうです。クラウドサインも最初、有料プランは1万円プランと10万円プランの2種類しかありませんでした。そこで、高い方のプランの機能をちょっと制限して2万円プランを作って、それを2.8万円にして、さらにいろいろなエディションをどんどん増やしています。

――ありがとうございます。やはりサブスクリプションを「定額制」と捉えるのではなく、価値に見合ったプライシングを柔軟かつ迅速に実行できることが大事なのですね。

ツォ氏 オールドワールドからニューワールドに変わり、サブスクリプションエコノミーが拡大しました。しかし、市場が成熟する中でさらに新しい世界(ニューニューワールド)が待っています。顧客にとっても自社にとっても良いビジネスモデルを、持続可能なものにするためには、変化に対応するアジリティーが必要です。リカーリングによる顧客とのリレーションとリカーリングによる売り上げ、それに加えてリカーリングにより成長することの重要性を、ぜひ理解していただきたいと思います。


ティエン・ツォ氏(左)と橘大地氏(右)

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