ライフネット生命が手掛ける「ホワイトレーベル」「オンライン保険代理店」 他社との協業に行き着いた理由とは:オンライン専業生保の販売力強化策
ライフネット生命が経営方針の重点領域として掲げるのが「顧客体験の革新」と「販売力の強化」だ。オンラインに軸足を置きつつさらなる成長機会拡大に向け先駆者の取り組みから成功のヒントを探る。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が生命保険会社にもたらしたダメージは大きい。コロナによる死亡保険金や入院給付金の膨らみは日本国内でこそ限定的だが、訪問営業が大幅に制限されたことで、2020年は大手をはじめ各社売り上げが低迷した。そうした中でも好調を維持しているのがオンライン専業の生命保険会社であるライフネット生命保険(以下、ライフネット生命)だ。
ライフネット生命のマーケティングの全体像
ライフネット生命は経営方針の重点領域として「顧客体験の革新」と「販売力の強化」を掲げる。前者の取り組みについては以前、ITmedia マーケティングでも紹介している(関連記事:「ライフネット生命が13年間で培ったオンライン専業ならではの『顔が見える接客』とは?」)。
確かな顧客体験が設計できていれば、保険会社であってもデジタルチャネル中心の顧客接点で保険商品を売ることはできる。しかし、現時点での業績が好調であっても、さらなる成長への備えを怠ることはできない。コロナ禍を機に従来型の生命保険会社もオンライン比率を高めようとしている中では、競争を勝ち抜くための戦略はますます重要になる。
オンライン専業生命保険会社は従来の保険会社のように外交員の人件費や店舗の運営費はかからない。だが、逆に訪問することもできなければたまたま立ち寄ってもらえることもかなわない。その分、Webサイトへの集客は生命線となる。
まず自分たちの存在を知ってもらい、検討候補に入れてもらい、候補の中から選んでもらう。「認知」「想起」「利用意向」というそれぞれの目的を達成するために、ライフネット生命はテレビCMとデジタル広告に加えてソーシャルメディアやブログ、オウンドメディアなど独自施策をミックスさせた積極的なプロモーションを実施している。
ホワイトレーベルとは
販売力の強化に向けて、上記のマーケティング施策に加えて最近は「ホワイトレーベル」の取り組みにも注力している。ホワイトレーベルとは小売業のプライベートブランドなどでよくあるOEMと似た概念で、自社の製品・サービスを提携先のブランドで販売することを指す。
これまで、KDDIとの協業で「auの生命ほけん」を、セブン・フィナンシャルサービスとの協業で「セブン・フィナンシャルサービスの生命ほけん」を提供してきたが、2021年2月には新たにマネーフォワードと業務提携契約を締結。マネーフォワードの家計簿アプリとオンライン生保の融合で、保険見直しによる家計改善ソリューションを2021年夏に提供予定だ。ライフネット生命 取締役副社長 営業本部長の木庭康宏氏は、販売力強化の一環としてホワイトレーベルを推進する意義について次のように語る。
「保険会社での業務は大きく『保険募集』と『保険の引き受け』の2つに分かれている。前者は保険に興味を持ってもらって契約してもらうところまでつなげる販売のこと、後者は実際に何かあったときに保険金を支払うこと。これをわれわれはディストリビューターとメーカーという言い方をしている。メーカーとしての保険提供を、ライフネット生命というブランドで費用をかけてプロモーションをしていることに加え、複数のブランドになることで、各ブランドの戦略や顧客基盤にあった集客ができる」
携帯電話キャリアと小売業、家計簿アプリと、提携先は多岐にわたる。それぞれの特性は見つつも、これまでライフネット生命単体ではリーチしにくかった層へ訴求できるという点で、ブランドが多様化するのは望むところでもある。
木庭氏がもう一つ大事だと考えるのが提携先ブランドの戦略だ。KDDIであれば、「通信とライフデザインの融合」という戦略において、auブランドでいろいろなサービスをバンドルすることで、顧客エンゲージメントを強化したいニーズがある。マネーフォワードであれば『家計の見える化』から一歩進んで『マネーフォワード 固定費の見直し』で家計を改善する取り組みにまで拡大しようとしている。既に安価な電気料金プランを提供しており、次に生命保険を検討していた。
各社が既存の提供価値を拡充する上で新たなサービスとして「生命保険」という選択肢が浮かんだとして、それを自前で提供するにはハードルが高い。そこで各社の成し遂げたい事業に貢献しつつ、ライフネット生命自身の販売機会を拡大するためにホワイトレーベルが有効になる。
オンラインの保険代理店業進出で新会社を設立
他社とのアライアンスによる販売力強化策では新たな動きもある。2021年5月にはFinTech企業のMILIZEと共同出資で新会社「ライフネットみらい」を設立、同7月にオンラインの保険代理店を開始する予定だ。
オンライン生命保険市場はまだ伸びしろがある。生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」によれば、2018年における生命保険加入チャネルに占める「インターネットを通じた加入」の割合はわずか3.3%、対して今後利用したい加入チャネルに占める「インターネットを通じた加入」の割合は12.5%だ。そこで、オンライン生命保険市場の一層の拡大を図るため、他社商品を含めて保険商品を比較検討し、販売するプラットフォームを展開する。
新会社設立の理由について木庭氏は「保険会社本体が他社商品を提供する場合、金融庁の認可が必要になるが、代理店にするとそうしたコストを抑えられる」と説明する。
2020年6月5日にいわゆる金融サービス提供法(金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律)が成立し、2021年11月には1つの登録で銀行、証券、保険という全ての分野の金融サービスを取り扱うことが可能となる「金融サービス仲介業」が新設される。新会社ではこの領域に参入して投資信託など保険以外の金融商品を取り扱うことも視野に入れている。
保険代理店業を展開することで、自社では取り扱っていない保障分野の商品も含めて提供し、より顧客のニーズに応えられるようになる。また、保険の見直し提案や契約の管理、保険金請求のサポートなどのサービスも展開する予定だ。
代理店機能の提供は顧客の課題を洗い出す中で考えられた取り組みだが、もちろんビジネスの視点からもメリットはある。ライフネット生命は「認知」「想起」「利用意向」という目的を明確にした上でさまざまなメディアを使い、マーケティング活動を展開し、Webサイトの訪問者数を着実に伸ばしている。しかし、商品構成がシンプルな分、Webサイトに来訪した人が希望する商品を扱っていないケースもある。その場合にライフネットみらいに誘導することで、コンバージョンの機会を増やすことも期待できる。来訪した人にとっては「せっかく来たのに求める商品がない」という残念体験を回避することにもなる。販売力の強化と顧客体験の革新は地続きでつながっているとも言えそうだ。
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