ANAはなぜデジタルでの顧客体験向上を重視するのか:航空券を売って終わりではない(1/2 ページ)
27万ページ超の巨大Webサイトを「動的」なものにするために何が必要なのか。ANAの担当者に、その考え方を聞いた。
英国の航空サービスリサーチ会社Skytraxが毎年発表する「World Airline Star Rating」において、最高評価となる「5スター」を 2013年から5年連続で獲得している全日本空輸(ANA)。航空業界の激しい競争に勝ち残るため、同社はリアルな顧客接点のみならず、デジタルマーケティング分野にも積極的に投資している。
2017年12月には、Webサイトを支えるCMS(コンテンツ管理システム)を、アドビ システムズ(以下、アドビ)が提供する「Adobe Experience Manager」に刷新し、デジタルコンテンツ管理についてはホスティングサービス「Adobe Experience Manager Managed Service」を利用することを発表した。
同社の大規模なWebサイトにおいて、デジタルコンテンツ基盤を刷新する狙いと今後の展望について全日本空輸 マーケットコミュニケーション部 マネージャー 石川圭太氏とアシスタントマネージャー 永山 裕氏に話を聞いた。
4つのR
――航空券購入にとどまらず、旅行前後や空港や機内での行動も意識した顧客体験を意識しているのはなぜでしょうか。
石川 ANAのWebサイトで提供しているサービスの中には、航空券の購入機能だけではなく、チェックイン、搭乗案内や運行遅延時の対応など、さまざまなものがあります。デジタルマーケティングを意識したとき、航空券を購入した後の人的なサービスにプラスアルファとなることをやりたいと以前から考えていました。ANAはSkytraxの航空会社ランキングなどで高い評価を得ていて、人的なサービスについては自信を持っています。しかし、お客さまへのサービスをもっと良いものにするためには、デジタル環境をより整備する必要があります。航空会社を取り巻くグローバルな競争環境では、デジタルに強い競合も多いからです。デジタルでもリアルでも一貫したサービスを提供できるようになればと思いました。
永山 お客さまとのコミュニケーションでは4つのR(Right)を意識しています。正しいお客さま(Right Person)に、正しい情報(Right Content)を、正しいタイミング(Right Timing)で提供する。そして、正しいチャネル(Right Channel)でコミュニケーションを取るということです。企業都合ではなく、お客さまが必要としている情報を提供しないと、ゴミになってしまいますし、PCを持たずにスマートフォンしか持たないお客さまのご都合にもきちんと合わせる必要があるということです。
――「Adobe Analytics」に始まって、「Adobe Target」「Adobe Campaign」「Adobe Social」も導入していますね。Webやメール、ソーシャルと、マルチチャネルでのコミュニケーションはできていたように思われるのですが、この上どのような課題があったのですか。
石川 Webサイトに関しては、運用プロセスに課題があると感じていました。ANAのWebサイトは総ページ数が約27万にもなる大規模なもので、ページの更新も頻繁にあります。例えば、エンターテインメントのプログラムは毎月、機内食のメニューは3カ月に1度は新しいものに変更しています。航空運賃は毎日の混雑状況に応じて変動しますし、悪天候で運行遅延が発生したら、状況が変わるたびに最新のお知らせも必要になります。前々から、もっと時間をかけずに効率的に更新ができないかと考えていました。
永山 多言語対応も課題でした。国際線は世界各国に就航していますから、日本語サイトだけでなく、48カ国に対応する12言語のサイトで更新内容を正確に反映させながら運用しなくてはなりません。日本語のページを作って、さらに言語別のページを1つ1つ作らないといけないのは非効率ですよね。
石川 旧来型のCMSの運用負担が無視できないものになっていたという問題もあります。これは、静的なコンテンツを運用する分には良い製品でしたが、お客さまにパーソナライズしたコンテンツを動的に提供することには限界がありました。
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