広告はなぜ嫌われるのか? クリエイティブの視点から考えてみる:SNSのフィードになじむ広告 前編
SNSは今や企業とユーザーを結ぶ重要な接点だが、最適なターゲティングに基づき配信された広告が利用者に快く受け取られるとは限らない。このギャップをどう埋めるか、専門家が解説する。
昨今、広告に嫌悪感を抱くユーザーが増加しており、広告業界の大きな課題になっている。それは、広告を発信する企業側の思惑と、ユーザーが広告を受信する感覚との間に大きなズレが生じているためだ。このズレが解消されることがないまま、メディアは日々増え続けてきた。これは、ユーザーの広告嫌いを加速する業界全体の悪循環といえるのではないだろうか。
SNS広告の「押し売り感」
広告が嫌われる問題点として、「押し売り感」が顕著であることが挙げられる。かねてユーザーは広告を「邪魔だ」と感じることはあったものの、嫌悪感を抱くまでには至らなかった。PC用Webサイトのバナー広告やアプリのウォール広告であれば、ユーザーが「嫌なら見なければいい」という判断ができたからだ。
しかし、現在は、コンテンツとコンテンツの間に広告が表示される「インフィード型」が主流となりつつある。つまり、表示された広告への興味の有無にかかわらずユーザーの視界に入ってくるのだ。さらに、広告の表示場所は変化してもそのトーン&マナーは以前のままだ。これでは、ユーザーの「無理やり見させられている」という意識が強くなってしまう。たとえ今まで好きだったブランドだとしても、煩わしく感じるようになりかねない。
このままでは、商品の本当の価値や魅力を伝えることができず、広告の存在意義が失われてしまう。これは広告業界全体の大きな課題であり、特にSNS広告を中心に費用対効果に苦しんでいる広告主があふれている一因でもある。
こうした広告主とユーザーとのギャップを埋めようとする試みの中で、昨今では、運用型広告におけるクリエイティブの重要性がとても高くなっている。ここ数年、アドテクノロジーが目を見張るほどのスピードで広告業界を席巻した。広告代理店はもちろんのこと広告主も、アドテクノロジーをどう使うのか、どう最適化の技術を深掘りしていくのかに注力し、その結果、アドテクノロジーは大きく進化した。
一方で、アドテクノロジーによるインプレッション単価の下げ幅には限界が見え始めており、今まで以上の広告効果を改善するためにはクリエイティブを見直すべきではないかという機運が高まってきている。
SNS広告に求められるクリエイティブとは
クリエイティブは最後に残された発展途上の変数といえる。実際、SNS広告運用を専門で行う当社アライドアーキテクツの研究でも、ユーザーがSNSを見る状態を想定して制作した広告クリエイティブは大きな効果を生んでいると分かっている。
では、一体どんなクリエイティブが効果的なのか。それは「フィードになじむクリエイティブ」である。ユーザーにとってSNSのフィードは、友人や好きな有名人などの投稿を楽しみに訪れる場だ。そんなフィード上に、ユーザー体験に全くそぐわない広告が現れても、ユーザーは全く興味を示さないだろう。これがフィードになじみ、他のコンテンツを邪魔しない広告クリエイティブであれば、嫌悪感を抱かせることはない。
SNS広告はユーザーの属性や興味関心から割り出されたセグメントに対して出稿することが多い。広告に触れるユーザーはもともと商材との相性がいい人が多く含まれるはずなので、メッセージの訴求の仕方さえ間違えなければ、興味や関心を自然に喚起することができる可能性さえある。SNS広告においては、あえて「売らない」広告クリエイティブこそが「売れる」広告クリエイティブになれるといえるのだ。
UGCを広告に活用する意義
フィードになじむ広告クリエイティブを追求する上で、UGC(ユーザー生成コンテンツ)は極めて重要な存在である。ユーザーが購入商品の検討に利用する情報源は、今やキーワード検索の結果ではなく、他者からの口コミやSNS、比較サイトなどのUGCだ。これまでもブログやSNSへの投稿という形でUGCのマーケティング活用の概念はすでに存在していたが、広告クリエイティブは広告代理店の専有領域だったこともあり、UGCを活用した広告は未開拓のままであった。
しかし、ここにきてようやくUGCの広告クリエイティブ活用が注目され始めてきている。当社はSNS広告のクリエイティブプラットフォーム「Letro(レトロ)」を開発した。これはユーザーが撮影した写真や動画を収集し、利用許諾を得た上で広告の素材として提供するものだ。ユーザーとの金銭の授受はなく、あくまでも自発的に投稿されたコンテンツを活用できる。
これを運用して分かったことは、ユーザーの興味や気持ちを動かす要因が、既に企業側の発想や常識を超えてしまっているということだ。
サンスターの「緑でサラナ」という特定保健用食品の広告を見てほしい。ここで使用されている画像の1つ1つは、ユーザーが撮影したものだ。商品ロゴが一部しか写っていなかったり、全体が暗かったり、商品と関係のないものが写真の大部分を占めていたりと、プロフェッショナルが作るクリエイティブの常識と懸け離れているものばかりだ。しかし、これが広告として役に立たないのかというとそうではない。CTR(クリック率)は従来の1.2倍アップ、CPA(顧客獲得単価)に至っては19.7%の改善という驚異的な数字をたたき出した。
興味深いのは、数ある画像の中で一番効果が良かったのが、商品全体が写っていなかったものであったことだ。企業の広告制作者はどうしても「商品をいかに美しく見せるか」を第一に考えてしまい、クリエイティブの創造性にビジネス的な配慮が優先してしまうところがある。しかし、もともと一般ユーザーがオーガニックに投稿したコンテンツでは、自分が感じたことを自由な発想でそのまま表現しようとする。商品の配置や使い方も自由にした結果、企業が作るよりもユーザーの気持ちに寄り添ったクリエイティブとなり、訴求力も高いのだ。
ユーザーが作ったクリエイティブがユーザーを一番動かす――。ならば企業はUGCを広告として届けることに注力するべきではないか。この発想は、広告の新しい常識として、今後広く提唱していきたい。
量×質×スピードを実現する「Creative tech」という考え方
UGCの「質」については、かなりの効果が期待できることをお分かりいただけたと思う。次に考えてみてほしいのは「量」だ。クリエイティブは摩耗する。どんな優れた広告でも、時間がたち、繰り返し消費されるにつれ、効果が低下することは避けて通れない。それはUGCを活用した広告でも同じことだ。故に、広告効率が下降しそうなタイミングで、新たなクリエイティブを投下して広告効率を保持するという論理は変わらない。
しかし、従来の広告制作では、キャンペーンを継続するために新たなクリエイティブ素材を調達することが困難な場合も多く、いいタイミングで新たなクリエイティブを仕掛けることが難しい場面もあった。また、アクティブ率が高いモバイルのフィードは、その分クリエイティブの摩耗スピードも他の媒体と比べてかなり早い。従来の制作体制では、このスピードに乗れずに供給が追い付かない。こうした点からも、UGCの広告活用は有望だ。UGCを使えば、いつでも大量の素材を調達、確保することが可能になる。
UGCの広告活用は「質」と「量」、そして「スピード」の全てにおいて、かなり有効な手段であるといえる。しかし一方で、無数にあるUGCの中から、しかも企業側の「常識」では有効だと判断することが難しい素材を探し、選んでいくには、膨大な時間とコストがかかってしまう懸念がある。
これを解決するのが、「Creative tech(クリエイティブテック)」という新しい概念だ。例えば過去の膨大な出稿データを蓄積し、ここからUGCの構成情報を基に、何が企業にとって広告効果の高いクリエイティブとなるかをAI(人工知能)で予測することができるようになっている。これにより、企業は大量のUGCの中から有効な素材を探すコストを削減し、質の良いクリエイティブでの広告出稿が可能になる。
私は、これがクリエイティブを進化させるための第1のアプローチであると考えている。実際、テクノロジーとUGCの相性はとてもよい。これまで、クリエイティブの選定に当たっては、広告代理店との折衝やクリエイティブの確認、素材の調達などの運用コストが肥大化してしまう傾向があったが、UGCやCreative Techを活用することで、不要なコストを大幅にカットできる。
今後は、広告効果の低下時期などの予測もCreative Techが担い、企業は顧客との接点創出や顧客体験をより充実させる取り組みに注力することができるだろう。顧客体験を継続的に創出するUGCをテクノロジーによって分別・最適化し、効率低下に先駆けて新しいクリエイティブとして投下する。ユーザーにとって広告は邪魔な存在ではなくなり、広告主にとってはコストが削減されて運用効率も上がる。媒体は、広告によるユーザー離れを心配することがなくなる。広告業界に好循環が生まれ、顧客ととことん向き合うことができるようになる。
UGCとCreative Techはこのような「未来の広告の理想的な世界」をもたらすことができると確信している。
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