Web担当者あるある――あなたがその数字を追いかけるのが不毛である理由:【連載】良いKPI悪いKPI 第1回
事業内容や体制によりKPIの考え方は異なるもの。他社と情報交換したり代理店の担当者に相談したりするわけにもいかず、しっくりこないKPIを基に施策を回しているWeb担当者に、道しるべとなる考え方を紹介します。
チームや部門をマネジメントする立場のにある人にとって、KPI(Key Performance Indicator:重要評価指標)はチームの方向性やメンバー評価の基となるものです。一方でWebマーケティングの現場において、「KPIは改善しているが売り上げが伸びてこないのはどういうことだろう」とか「新しいKPIを設定したらメンバーのベクトルがずれてしまい、目の前の数字ばかりに目が行くようになってしまった」というような悩みもよく聞きます。
また、広告代理店やサイト運用など外部パートナーと共にプロジェクトを行う場合、KPIはより重要になります。「何を目的に」「何を判断基準に」Webサイトを運用し、改善を行っていくかを考える上で、指針になるのはKPIです。KPIがうまく握れていないと、配信や納品など、おのおのが最低限の義務をこなすだけになってしまいがちで、成果につながらない予算の無駄づかいに陥ってしまいます。また最近は、インターネット広告に関して、広告代理店による広告費の不適切請求や広告のインプレッション数の水増しなど、配信実績に伴う問題がメディアを賑わせていますが、これらの原因の1つとして「業界全体としてのKPI」の在り方に課題があることは否めません。
さまざまなKPI
ここで、Webサイトやインターネット広告運用でよく使われるKPIを見てみましょう。以下の分類は私の方で便宜的に区分したものです。
- 実数系KPI
- 表示回数(リーチ)
- UU(ユニークユーザー数)
- 新規セッション数
- クリック数
- セッション数
- PV(ページビュー数)
- CV(コンバージョン数)
- 売り上げ
- ファネル系KPI
- CTR(クリック率)
- 直帰率
- 詳細ページ到達率
- カートイン率
- フォーム(カート)完遂率
- CVR(コンバージョン率)
- 回遊系KPI
- 離脱率
- セッション開始数
- 平均滞在時間
- PV/セッション(訪問別PV)
- AOV(平均購買単価)
- コスト効率系KPI
- CPA(顧客獲得単価)
- CPC(クリック単価)
- CPM(インプレッション単価)
- ROAS(広告費用対効果)
- ROI(投資対効果)
挙げ始めるとキリがないですが、多くの企業ではこういった指標をKPIとしてWebサイトや広告を運用していることでしょう。
ところで、実はこれらの中には「良いKPI」と「悪いKPI」が混在しています。どれがどうだか分かりますか。
――というのはもちろん冗談です。それぞれの指標自体は事実を示すものにすぎず、良いも悪いもありません。ただ、あなたのサイトにとって良いKPIと悪いKPIがあるのは事実です。
悪いKPIの活用例
ここで具体的に、悪いKPIの活用例を見てみましょう。
- フォーム併設型の縦長1枚ランディングページ(LP)においてトラフィックの質を「直帰率」「滞在時間」で判断する
- ECサイトにおいて「平均滞在時間」や「PV/セッション(訪問別PV)」にこだわる
- PVをKPIにしているブランドサイトやキャンペーンサイトにおいて「CPC」をKPIにリスティング広告を配信する
- リスティング広告における一般ワードのCPAとリターゲティング広告のCPAを単純比較する
これらはどれも、実際に当社(デジタルコンサルティング会社のプリンシプル)のクライアントで目にした例です。それぞれ、何が悪いのか分かるでしょうか。1つ1つ見ていきましょう。
【悪い例 1】1枚LP(フォーム併設型)なのに「直帰率」で評価
フォーム併設型のLPにおいては、コンバージョンしないユーザーはほぼ全て「直帰ユーザー」ということになります。そのため、CVR以外にわざわざ直帰率を見る意味はほとんどありません。「その瞬間はCVしなかったものの刺さったユーザー」と「ファーストビューを見ただけで離脱したユーザー」をひとまとめに判断してしまう直帰率は、縦長1枚LPにおける効果指標としてはやや不相応です。
また、「ページ滞在時間」も仕様上直帰ユーザーの値が「0」とカウントされるため、こちらも不適切といえるでしょう。フォーム併設型の縦長1枚LPでは、「Google アナリティクス(以下、GA)」の「イベント」などを活用し、「熟読率(ページの下部までスクロールした割合)」で判断することが正しい評価につながります
【悪い例 2】ECサイトで「平均滞在時間」や「訪問別PV」にこだわる
「平均滞在時間」や「訪問別PV」は、GAで標準レポートとして見える指標であるため、つい目を奪われがちですが、ECサイトなどで活用する際は注意が必要です。同じサイトで、以下のような行動をしたユーザーがいたとします。
A | 滞在時間10分 | 訪問時10PV | 5000円分の商品を購入 |
---|---|---|---|
B | 滞在時間45分 | 訪問時35PV | 5000円分の商品を購入 |
このような場合、Aのような行動の割合が多いケースとBのような行動の割合が多いケースのどちらが良いか判断できるでしょうか。
平均滞在時間や訪問別PVの判断は、訪問の質を評価するのかユーザーエクスペリエンス(UX)の質を評価するのかによって変わってきます。ECサイトは購入完了がゴールです。その過程でサイトを長時間見るということは、コンテンツが魅力的だった可能性もないとは言い切れませんが、単に商品や情報が探しにくくユーザーを迷わせていただけという可能性もあります。複合要因に左右されるこれらのKPIを判断基準に動くことは有効ではありません。
【悪い例3】PVをKPIにしたWebサイトで「CPC」をKPIにリスティング広告を配信する
認知度やブランディングを上げることが目的のブランドサイトやキャンペーンサイトでは、多くの場合「PV」が重要なKPIとなります。明確なCVポイントがないケースが多いため、これは致し方ありません。ですが、こういったブランドやキャンペーンの認知度を上げるために広告露出を行う際に、リスティング広告で「CPC」をKPIに、つまり同じ予算でより多くの人に流入してもらうように運用することは、得策ではありません。
リスティング広告でCPCをKPIすると、当然CPCが低いキーワードにどんどん配信が寄っていきます。CPCが低いワードは一般的に、誰も入札をしていない購買意思の低いワードと考えられます。故にCTRも低くなり、品質スコアも極端に低くなりがちです。結果的に関心度の低いトラフィックを割高のCPCで集めてくることになってしまうのです。
また、ミスマッチも起こりやすく、そうなると広告を見せられるユーザーの心象も良くないでしょう。いずれの点においても、本来実現したかった「ブランディング」や「認知度向上」には結び付きにくいことになります。
こうしたケースでは、便宜的でも良いのでCVに相当するもの(例えば「非直帰セッション」や「特定ページ到達」)を設定し、それに対するCPAを追いかけることが、キャンペーンに対して効果的な露出を追求することにつながります。
【悪い例4】リスティング広告とリターゲティング広告のCPAを単純比較する
広告においては多くの企業でCPAをKPIに運用を行っているでしょう。CPAは分かりやすい指標ですが、決して万能ではありません。GoogleやYahoo! JAPAN、各種DSPなどを含む広告ネットワークにおいては、媒体側で計測されるCVは一般的に「ラストクリック」にひも付きます。商材にもよりますが、多くのユーザーは1回の検索・訪問で購買や申し込みまで行うことは少なく、他社サービスや商品も含めて比較・検討していく中でCVに至ります。検討期間が長ければ長いほど、この傾向は顕著です。
こういったユーザーの一連の行動において「初回接触につながりやすい経路」と「ラストクリックになりやすい経路」を同じCPAという基準で比較し、予算配分を行っていくと、新規ユーザーを連れてくることのできないリターゲティング型の広告(Googleでは「リマーケティング」と呼ぶ)が過剰に評価され、徐々に全体のCPAが悪化していくことにつながります。このような事態を避けるためには、サイトへの流入ごとに貢献効果を分配する「アトリビューション分析」を行い、真の貢献効果に近い指標で広告の貢献効果を判断する必要があります。
アトリビューション分析と聞くと専門的で難しいものと感じるかもしれませんが、簡易的なものであればGAを使って見ることができます。
以上、今回は悪いKPIの一例を紹介しましたが、この連載ではWebマーケターがKPIにどう向き合っていくべきなのか、さまざまなケースを取り上げつつお伝えしていきます。ぜひ「自分ごと」として一緒に考えてみてください。
次回は、「KPIの基本的な考え方」をお届けします。
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