「Adobe Sensei」はマーケティングをどう変える? 「Adobe Experience Cloud」におけるAIの位置付け:「Adobe Summit 2017」レポート(1/2 ページ)
マーケティング基盤からエクスペリエンス基盤へ。新たに誕生した「Adobe Experience Cloud」における人工知能(AI)の役割とは? 「Adobe Summit 2017」を取材したITアナリストの冨永裕子氏が振り返る。
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2016年11月にベールを脱いだAdobe Systems(以下、Adobe)の人工知能(AI)プラットフォーム「Adobe Sensei」。この名前はAIが継続的な学習を前提としていることにちなんで付けられたという。Adobe Senseiは、マーケターの業務をどのように支援するのか。本稿では、Adobe独自のAI戦略やビジョンについて、2017年3月20日(米国時間)より開催されている「Adobe Summit 2017」の基調講演やブレイクアウトセッションの内容から振り返ることにしたい。
新たな製品体系におけるAdobe Senseiの位置付け
Adobe Summit 2017においてAdobeは、「Adobe Marketing Cloud」を機能強化し、Adobe Marketing Cloudと「Adobe Analytics Cloud」「Adobe Advertising Cloud」を包含する「Adobe Experience Cloud」専用の基盤として提供することを発表した。このアーキテクチャー変更に伴い、Adobe SenseiがAdobe Cloud Platformを構成するコアコンポーネントの1つであり、インテリジェントレイヤーの機能を担うフレームワークとして位置付けられることが明確になった。
マーケティングプラットフォームを超えて
Adobeが旧Marketing Cloudを拡張し、新しくExperience Cloudの傘の下に3つのクラウドを配置するリブランディングを行った理由について、同社最高技術責任者(CTO)のアベイ・パラスニス氏は「Adobeのクラウドサービスをマーケティング業務に限定することなく、『顧客体験』を切り口に広く使ってもらいたいからだ」と説明する。
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)は、デジタル変革に取り組む企業にとって差別化の源泉となる重要な考え方だ。マーケターにとって究極の目標は、一人一人の顧客を理解し、それぞれが求めるコンテンツを適切なタイミングで提供する「マスカスタマイゼーション」である。このことは基調講演でも強調されていた。
マスカスタマイゼーションは、従来主流であったマスマーケティングの対極にある考え方だ。そして先進的な企業ほど、パーソナライズしたコンテンツをリアルタイムかつ大規模に顧客に提供する取り組みを進めようとしている。このような取り組みの背景には収益の増大への期待もあるが、それを実現するためには企業内外のデータやコンテンツ資産を統合し、アプリケーションに供給するためのインテリジェントな処理基盤が不可欠だ。
Adobe Experience Cloudを支えるAdobe Cloud Platformは、さまざまなシステム内の顧客データやコンテンツを集約し、顧客体験価値の向上に取り組もうとする企業を支援する基盤を提供するものである。
AdobeのAI戦略はここが違う
図1で示されたAI機能提供のためのアーキテクチャを競合他社のそれと比較すると、アプリケーションを最上位、継続的な学習材料として必須のデータレイヤーを最下位に置き、間にインテリジェンスレイヤーを挟む配置は共通している。
では、AdobeのAI戦略における差別化のポイントはどこにあるのか。この点について、パラスニス氏は3つのポイントを指摘した。
第1の違いはシステムにある。Adobeでは100 兆のトランザクションを処理できるアナリティクスシステムと1億の画像コンテンツ資産にアクセスできるユニークなアーキテクチャ戦略を採用している。
第2に、AdobeのAIは「クリエイティブ」「ドキュメントインテリジェンス」「顧客体験」の3つのドメインに関連したアルゴリズムに特化していることだ。競合他社がもっと広い領域で水平展開を狙っているのと比べると、同社のAIは大きな違いがあるとパラスニス氏は解説する。
さらに第3の違いは、外部のベンダーが参加しやすいようなオープンな基盤にしていることだ。パラスニス氏は、パートナー企業とのエコシステム構築強化を意識したポイントとして、オープンAPI(Application Programming Interface)を利用してデータ統合をできるようにしていると述べた。
Adobe Senseiを含むAdobe Cloud Platformの提供開始は、これまでアドビが重点的に取り組んできたマーケター向けのアプリケーション重視の製品戦略を見直し、企業の顧客体験強化のための基盤を強化する方向性が示されたとみられる。
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