手軽なツールの導入でマーケティングを余計に難しくしていないだろうか:【連載】コンテクストマーケティング序論 第2回(2/2 ページ)
企業のWebサイトにおいて、コンテンツを的確に届けるというニーズが高まっています。今回はそれを実現する上で、どういうツールを選定すればよいのかを考えます。
パーソナライズの実践に「省力化」の視点は不可欠
それではパーソナライズを実践するためのプロセスを見てみましょう。Webサイトでコンテンツの表示を切り替えるに当たって、実装方法としてはJavaScriptなどを活用してブラウザ側で表示する内容を切り替えるパターンと、サーバ側でユーザーの情報に合わせて表示する内容を切り替える2つのパターンがあります。
前者は、SaaS形式のマーケティングツールを利用する場合、もしくはWebサイトで動的コンテンツを扱うことができない場合に採用される仕組みです。この仕組みの欠点としては、ページに対しての作業量が増えてしまい、運用が複雑になります。一方で後者は、サーバ側での開発が必要と考えられることが多いのではないでしょうか。
この段階で、あらためて「データ連係」と「コンテンツ提供」の2つを組み合わせた運用を検討する必要が出てきます。シンプルなパーソナライズのシナリオでは、例えばAというコンバージョンを達成した訪問者に対してBというコンテンツを表示します。この際、コンバージョンの取得とパーソナライズに関する設定だけでなく、実際に表示するコンテンツを用意する必要が出てくるので、CMSの仕組みによって、どういう形で連係部分を省力化するかが重要になります。
なぜ省力化が必要か。理由は単純です。デジタルマーケティングを実践していくに当たっては、PDCAサイクルをしっかりと回していく必要があるからです。その際、コンテンツを考える人とページの作成をする人、マーケティングツールの設定をする人が分かれていると、それぞれの仕事が専門化し、関連性が薄れていきます。もしWebサイト担当者の仕事が「コンテンツの整理」と「アクセス解析のレポート作成」だけになってしまえば、サイト訪問者がどういう属性かを見極めるのは他の人の仕事となり、リアルタイムでの顧客像の把握が難しくなってしまいます。プロジェクト推進のためのコストがツールのコストに加えて実際に掛かってくることになるでしょう。
上記の課題解決として、例えばSitecoreでは単にWebサイトのコンテンツ管理だけでなく、アクセス解析の機能やユーザーの行動履歴からプロファイルを作成する機能が一緒に搭載された製品を提供しており、これらのデータを基にパーソナライズやメール送信などができるようになっています。A/Bテストツールも付属しているため、コンバージョンやデザインの改善なども手軽に利用できるよう、必要なツールが最初から含まれているのです。また、「Microsoft Dynamics CRM」や「Salesforce」と連係して顧客データを活用できるような仕組みも提供しています。
それぞれのツールはシステムとして一貫性のある利用ができるようになっているため、運用の省力化が可能となります。システム連係の作業が最小化されることにより、どういったコンテンツを提供するべきか、どういうユーザーが訪問をしているかといったサイト改善に時間をかけられるようになります。
Danoneの事例
今回はこのような取り組みを成功している事例として、乳幼児栄養食品を提供しているDanone Nutricia(ダノン ニュートリシア)の事例を紹介します。Nutriciaには「妊活中」「妊婦」「乳児」「幼児」という形で、ステージの異なる母親に対して最適なコンテンツを提供していくという課題を持っていました。具体的にはNutrilonの調製粉乳、Bambixの離乳食、Olvaritの乳幼児の食品などのブランドを、子どもの成長に合わせて次のステージのブランドにうまく引き渡していく必要がありました。
そこで、母親におけるカスタマージャーニーを設定し、訪問者だけでなく購入者の情報も合わせたデータを蓄積する仕組みを構築し、そのデータを参照しながら顧客が求める関連する情報を提供することができるようにしたのです。結果として、ユーザーエクスペリエンスにおいて一貫性のある運用が可能となり、関連性の高いコンテンツを配信できるようになりました。
ツールの採用に際しては、マーケティングを手軽にするという視点だけでなく、将来的な運用も含めて考えることが重要というわけです。
執筆者紹介
原水真一
サイトコア セールスグループ プリセールスマネージャー。2000年1月にマイクロソフトに入社、Microsoft.com/japan の担当を7年、Microsoft MVP Program のプログラムマネージャーなどを担当。2010年7月からデジタルマーケティングプラットフォームのパッケージを提供しているサイトコアに入社、営業、マーケティング支援、プリセールス、パートナープログラムなどの業務を担当。2015年10月〜2016年3月まではFIXERでマーケティングなどを担当したのち、2016年4月にサイトコアに復帰。プリセールスを中心としつつ、日本でのビジネスをより大きくするために、さまざまな業務を担当しています。
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