“代理店任せ”の限界とは? 「HOME'S」運営のネクストがWeb広告運用のインハウス化に挑む理由:広告ROI向上に独自システムを開発(1/2 ページ)
大手不動産・住宅情報サイト「HOME'S」などを運営するネクストが広告運用のインハウス化に取り組んでいる。巨大Webサイトを軸にした事業会社が広告代理店依存からの脱却を目指す真意はどこにあるのか。
大手不動産・住宅情報サイト「HOME'S」などを運営するネクストでは2016年10月にヤフーからYahoo!プロモーション広告のAPIの提供を受けて自社内でWeb広告の運用をスタートさせている。
これまで、広告代理店がAPIの提供を受けることはあったが、事業会社がこれを利用するのは異例のこと。広告運用のインハウス化推進の目的と背景について、ネクスト 取締役執行役員 HOME'S事業本部マーケティング戦略部長の久松洋祐氏と同マーケティング戦略部の菅野勇太氏に話を聞いた。
自社開発のシステムで広告運用を自動化
HOME'Sは全国約806万件(2016年10月度平均)の不動産物件情報を擁する巨大メディアだ。これを中心とした各種Webサービスが収益源の大部分を占めるネクストにとって、認知拡大、利用促進を目的とした広告投資は必要不可欠なものといえる。
一方で、Web広告の運用は、数千万パターンにも上るキーワードやコピーを扱う業務であり、入札から入稿、レポーティングに効果測定と、多くの作業を要する。これまでネクストでWeb広告運用をハンドリングしてきたスタッフは約20人。そしてその先に広告代理店がいるため、全体では相当のスタッフが関わってきた。
煩雑な作業とそれに伴う属人的なスキルの増大が生産性の低下につながるのは言うまでもない。また同社が手掛けているWeb広告の数は膨大であるため、マンパワーで回していると目の届かないところも出てくる。出稿したまま放置され、見直しに手が回らないキャンペーンが存在するなど、改善の余地が多かった。
こうした状況を改善するため、ネクストでは2016年6月から、入札、レポート生成、入稿までWeb広告運用の一連の作業を自動化する独自システムの開発を進めている。このプロジェクトの契機になったのは2014年11月、世界46カ国で不動産情報を中心とした業種特化型の検索サイトを提供するスペインのTrovitを子会社化したことだった。
約100人の社員(当時)のほとんどをエンジニアが占めるTrovitでは、独自開発のBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使って広告運用を自動化しており、オペレーションに人手を割くということがない。これに刺激を受け、ネクスト社内のエンジニアとデータサイエンティストが自社に最適なアルゴリズムを組み、Trovitのノウハウも応用して自前のシステムを作り上げた。
ネクストではこれを使い、GoogleからAPIの提供を受けて入札の自動化に取り組んでいる。その結果、オペレーション作業に掛かるリソースは飛躍的に削減された。具体的には20人が1日当たりそれぞれ0.7時間、合計14時間を費やしていた業務が3人でのべ2時間になった。
パフォーマンスにおいても、取り組み前に比べて同コスト当たりのCV数(物件問い合わせ数)が賃貸分野で約30%増加、中古売買分野で約50%増加してきたという。今回、Yahoo!プロモーション広告においても同様の効果を期待している。
社内の全データを広告運用に活用するためにはインハウス化が必須
ネクストのWeb広告の出稿費は年間数十億円にも上る。自動化が収益に直結することは言うまでもない。だが、それをインハウスで行うに至ったのは、ROI(投資対効果)改善以外にも理由がある。
同社は中期経営戦略において「DB+CCS(データベース+コミュニケーション&コンシェルジュサービス)でGlobal Companyを目指す」という方針を掲げている。人々の暮らしに関連するさまざまな分野において、大量のデータベースを用いてワンツーワンのコミュニケーションを提供するというコンセプトである。
ここで重要になるのが、各種データの分断を解消し、シームレスに連係させることだ。同社ではこれまでも、Webサービスや実店舗、コールセンターなどから集約されたCRMのデータと基幹システムなどにある社内データを統合する取り組みを進めてきた。しかし、サービスをまたがったユーザー行動のトラッキングとなると、まだ完全には程遠いのが現実だ。
ことにWeb広告に関する部分では、「社内にあるCRMにはセンシティブな要素も含まれるので、情報の全てを代理店に渡せるわけではない」(菅野氏)という事情もあり、データ統合が思うように進んでいなかったという。
具体的には、既にメルマガ会員になっている人に対して何度も広告を露出させてしまったり、既に成約している人に対していつまでも同じ提案を続けていたりというムダが生じてしまっていたということだが、単に非効率というだけでなく、そうしたちぐはぐなコミュニケーションがユーザーに悪印象を与えていたとしたら、より問題は深刻だといえる。
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