「ダミー選択肢」――なぜか高額商品を選ばせてしまう不思議な力:【連載】行動経済学で理解する次世代マーケティングキーワード 第3回(1/2 ページ)
売り上げ向上のポイントは単純にいえば「より多く」そして「より高く」買ってもらうことに尽きる。良いものを作りその価値を適切な形で訴求するのはもちろん、他にできることといえば?
マーケティングの有用性を誰の目にも明らかに、そして端的に表す出来事としては、「それによって売り上げが伸びる」こと、まさにこれ以上に説得力があるケースもないだろう。今回は、私たちの身の回りのごく日常的な事例で、行動経済学的なマーケティングがまさに売り上げを上げる、その施策の1つを紹介していく。
新聞購読したい読者の選択は
例えば、あなたが新聞の定期購読を思い立ったとしよう。昨今の全国紙では紙の新聞だけでなく電子版を発行している場合もある。そのとき、実際に購入するメニューには大抵、以下のような複数の選択肢があることだろう。
1 | 紙版 | 月額3000円 |
---|---|---|
2 | 電子版 | 月額4000円 |
紙の新聞の利点は、何といってもそのレイアウトによって記事の重要度が直感的に分かるように工夫されているところにある(その価値を生み出すために編集委員や論説委員は毎日議論している)。読者は皆それを基準に、読むべき記事をあらかじめ推し量ることができる。そして、一部丸ごと読むまでもなく効率的に情報収集ができる。新聞を毎朝読む習慣のある人同士ならば「今日の一面のアレ、見た?」でコミュニケーションが成立してしまうというメリットもあるだろう。そうしたニーズを満たし、しかもリーズナブルであることを考えれば、1の選択肢は魅力的だ。
とはいえ、当然のことながら紙版の新聞は、かさばる。持ち運びにも不便だし、どんどんたまっていく古新聞の処理は面倒だ。また、読み捨てを前提とした紙の新聞が日々大量に発行されることを環境破壊的と感じてしまう人もいるだろう。その点、電子版はスマートフォンでも読めて荷物にならない。さらに、過去の全ての記事にアクセスし、検索機能を使って自由に参照できる。故に料金設定は少々高額にはなるが、こうしたことにメリットを感じる人であれば、1よりも2の選択肢の方が魅力的だろう。
しかし、違いは提示されても、実際にいざ契約をしようとすると、1か2か、すんなりと決められない人もかなり多いのではないだろうか。電子版のメリットは想像できても、既に知っている紙版のメリットも捨てがたいとなれば、取りあえず結論を先延ばしにするかもしれない。また、電子版導入に積極的な気持ちはあっても、やはり金銭面の負担が大きくなるならば、結局は価格の安い紙版を選ぶかもしれない。というわけで、結局は多くの人が1を選び、2を選ぶ人は少数にとどまるのも自然流れではある。
しかし、ここで新たに、次のような選択肢が目に入ってきたらどうだろうか。
3 | 紙版と電子版のセット | 月額4000円 |
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上記3つのメニューの中でならば、両方必要な人は迷わず3を選ぶだろう。紙版の方が好きだが電子版にも興味があるという人も3を選ぶかもしれない。電子版だけでいいという人も、価格が同じなら紙版の方は誰かにあげてもいいということで、2よりは3を選びそうだ。紙版愛好者だけは1を選ぶことになるかもしれないが、それでもプラス1000円の追加料金で電子版も手に入るとなれば、考えを改める人も何割かは出てくるかもしれない。
つまり、3の選択肢があれば、多くの人がそれを選ぶことになる。そして1を選ぶ人はより少数になり、2を選ぶ人はほとんどいなくなるだろう。
1 | 紙版 | 月額3000円 | 少数 |
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2 | 電子版 | 月額4000円 | ほぼゼロ |
3 | 紙版と電子版のセット | 月額4000円 | 大多数 |
企業側から見た選択肢の設定プロセス
新聞社のセールス戦略チームの選択肢は、当初は1と3だけであった。実際、ユーザーの立場から考えても、その2つがあればよいからだ。ただ、実際に選択肢が1と3だけだったとすると、既存読者の大多数はやはり1を選びそうな気がしてしまう。プロであり慎重な新聞社のセールス戦略チームはそう考えて、事前リサーチを行うことにした。その結果は、以下となった。
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