神田昌典×フィル・フェルナンデス(Marketo会長兼CEO)――「明日のマーケター」の役割について語り合う:【連載】企業戦略としてのマーケティングオートメーション 最終回(1/3 ページ)
マーケティングオートメーションの本質は単なる「効率化」にあらず。大好評連載の最終回は「日本一のマーケター」こと神田昌典氏とMarketo会長兼CEOフィル・フェルナンデス氏の対談を公開。
「日本一のマーケター」が語るデジタルマーケティングの真骨頂
『不変のマーケティング』や『ストーリー思考』などのロングセラーを数多く生み出し、「マインドマップ」や「フォトリーディング」など、ビジネスの生産性を高める先駆的な手法を日本に紹介してきた神田昌典氏。『GQ JAPAN』(2007年11月号)で「日本のトップマーケター」に選出されるなど、マーケティングの領域で強い影響力を持つ神田氏だが、当然デジタル化の最新動向にも目配りを怠らない。2016年5月には米Marketoが主催するイベント「The Marketing Nation Summit 2016」に参加し、同社会長兼CEOのフィル・フェルナンデス氏との対談も実施している。その際のレポートを今回、ITmedia マーケティングのために特別に全3回の短期集中連載で寄稿してもらった。
ここまで2回の連載で私が最も伝えたかったことを、まとめてみよう。
今、マーケティングオートメーション(以下、MA)が注目を浴びているのは、顧客の振る舞いの変化をデータ化し、分析することで、会社の売り上げを効率的に上げられるというビジネスツールとしての側面からだ。しかし、この一連の作業が人工知能により自動化していく先には、さらに全く違った世界が浮かび上がる。
顧客の心が動く瞬間に、あなたの会社の社員全員の心も動くようになる。顧客が痛みを感じた瞬間にあなたも痛みを感じ、顧客が喜びを求める瞬間に、あなたも喜びを分かち合う――すなわち、全ての社員が顧客の一挙一動を、自分の身体のように感じ取れるようになるのだ。
マーケティングのプロセスの自動化がさらに進み、そのテクノロジーがさらに洗練されていく先には、商品コンセプトを表現するシナリオに対してどういった市場があり、どの程度の顧客が反応するのかが事前に見通せる世界が待っていると私は予想する。そうなると、もはや「コンセプト」が生まれた瞬間に、「富」が生まれる社会が到来する。
そして、今のスピード感でいえば、このSFのような話が遠い未来ではなく10年後、あるいは5年後の東京オリンピックの頃には、かなり具体的な形となって、私たちの目の前に提示されていてもおかしくはない。
これほど社会変革に関わるのだから、私たちは今、このマーケティングMAの普及を推進するグローバル企業のトップが何を考え、何を成し遂げようとしているのかを知っておかなくてはならないの。そこで、最終回となる今回は、Marketo会長兼CEOのフィル・フェルナンデス氏とラスベガスで行った対談をお届けしよう。
歴史の中のマーケティングオートメーション
神田 昨日のスピーチ(※)は、「Tomorrow's Marketer」というキーコンセプトを掲げ「昨日のマーケター」と「明日のマーケター」を対比させることでマーケティングの未来を分かりやすくひもとく、素晴らしい内容でした。フェルナンデスさんは、シリコンバレーの典型的な創業経営者と異なると聞いています。エンジニアであるだけではなく、スタンフォード大学で歴史を学び、今も歴史書を読むのがお好きだそうですね。その知見から、非常に長い時間軸でマーケティング業界を俯瞰し、Marketoのビジネスを構築されていますが、マーケティングの歴史という観点から見て、現在取り組んでいるMAの影響力はどのようなものだとお考えでしょうか。
※2016年5月9日に米国ラスベガスのMGMグランドホテルで開催された「The Marketing Nation Summit」における基調講演。同イベントはその後日本でも開催された(関連記事:「ABM、予測分析、そしてメンタリズム!? これが『明日のマーケター』の生きる道」
フェルナンデス MAのインパクトは何かといえば、マーケターの組織内での地位を大幅に向上させたことです。
これまで、企業のマーケターは、限られた業界を除いては、経営幹部のサポート的な役割にとどまっていました。ところが、米国企業でMAが当然のように導入され始めると、マーケターは経営陣に対して、データの観点から経営戦略に関するアドバイスを与えることができるようになりました。すると、大幅な予算が振り向けられるようになり、マーケター自身も今までに考えられないほど組織内での地位が引き上げられたのです。
MAは現代のビジネスにおいて、マーケターが戦略的に大きな貢献を果たし始めるきっかけとなりました。
神田 MAは、過去500年分のマーケティングの進化を、わずか5年間で起こしたといわれています。マーケティングの歴史において、フェルナンデスさんご自身はどのような役割を果たしたとお考えでしょうか。
フェルナンデス これは難しい質問ですね。宇宙の歴史に関わるような話ではないでしょうけれども、ビジネスの領域で考えてみましょう。
今から30年前に、Oracleの幹部であったトム・シーベル氏が、セールス分野において、CRM革命を起こし始めました。それによって、セールスは単なる人と人との関係だけでなく、予測可能で管理可能、そして計画可能なサイエンスとアート(共有可能な技術)へと変わり始めたのです。
組織における人と人との活動をデータによって大きく改善させることは、さまざまな領域で行われてきましたが、最後の領域として残されていたのがマーケティングでした。
それを踏まえると、MAを手掛ける私たちは、最後の領域を前に大きく進める役割を担っているのではないかと思います。
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