「顧客ターゲット」を捨て去る勇気――神田昌典、MAで変わるマーケティングの“新常識”を語る:【連載】企業戦略としてのマーケティングオートメーション 第2回(4/4 ページ)
「日本一のマーケター」と呼ばれる神田昌典氏の目に映るマーケティングオートメーションの「真の革新性」とは何か。短期集中連載第2弾。
MAから新たな雇用が生まれる可能性
MAは、新しい雇用も生み出している。
例えば前回紹介したように、ブラインドの製造販売を行う3 Day Blinds(スリーデイブラインズ)では、デザインコンサルタントが訪問営業を兼ね、顧客と接する役割をワンストップで担うようになっている。売り上げを伸ばすためには彼らの存在が欠かせない。もちろん、せっかくデザインコンサルタントを養成しても仕事がなければコストが見合わないことになるが、見込み客をMAで探し出す仕組みがあるため、人を育てたけれども仕事がないというミスマッチは少ないという。
私は「生涯学習協議会」という多様な職業を担う人材を育てるプラットフォームに関わっているが、この例を応用して、好きなことを仕事にした専門家と見込み客のマッチングができないかと考えている。例えば「片付けコンサルタント」や「食育マスター」「マネーマネジメントコーチ」などの見込み客を探し出し、マッチングするといった具合だ。
これがうまくいけば、自分が興味を持ったことをしっかり学びさえすれば、自分の良さを生かせる顧客と出会えるようになる。収入的に大きな事業にならないまでも、あらゆる才能を生かす形で市場を開拓し、雇用を生み出す循環に入っていく。しかも、個々が自分のペースで働ける、柔軟な社会を作り出していく可能性も秘めている。
マーケティングリテラシーを持つ人材教育が決め手
米国ではMAによって大きな変革が起きている。一方、日本は明らかに後れを取っており、その差はさらに開いていきそうな気配だ。
ラスベガスで開催された「The Marketing Nation Summit 2016」に集まった5000人は、年齢も性別も幅広かった。パッと見た印象では来場者の6〜7割は女性で、20〜30代の人が多かったと思う。前回、事例として紹介したように、IT、住空間、ナイトクラブまで、導入する業種の幅も多種多様だ。
それに対して、日本からの参加者は9割が男性。業種もシステムインテグレーターや金融、経営コンサルタントなどに偏っていたように思う。実際のMA導入企業を見ても、まだ一部の感度の高い企業が試験的に導入している段階にすぎない。
米国企業では優秀なマーケティング人材を集めるため、日本企業の何倍もの投資をしている。日本企業も、今からでも決して遅くはないので、マーケティングリテラシーを持った人材の育成に取り組むべきだ。
MAが実現する顧客理解に基づいたきめ細かい対応は、「おもてなし」や「ふれあい」といったウェットな関係性として、もともと日本企業が得意としてきた分野である。それをデジタルのプラットフォームで担う人材を育成できれば、世界のマーケティング分野での主導権を日本が握れる可能性は大きいと考える。
LTV(顧客生涯価値)を増大させる対価として、あらゆる顧客が幸福な存在として成長するよう導き、人生という旅に伴走するのが、明日のマーケターの役割だと私は考えている。そうであるならば、より高いマーケティングマインドを持つ人材が、大量に必要になる。そうした人材教育は、日本企業が成長する重要な鍵となるだろう。
最終回となる次回は、MarketoCEOのフィル・フェルナンデス氏へのインタビューをお届けする。
寄稿者紹介
神田昌典
株式会社ALMACREATIONS 代表取締役。経営コンサルタント・作家。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカーの日本代表として活躍後、1998年、経営コンサルタントとして独立。『GQ JAPAN』(2007年11月号)では、「日本のトップマーケター」に選出。2012年、アマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位。2014年5月、米国ウォートン校が主催する「ウォートングローバルフォーラム東京」における特別講座にて、唯一の日本人講師を務める。2014年9月「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2014」ではモデレーターとして登壇。日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』発起人も務める。著者累計400万部を突破。主な著書に『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社文庫)、『ザ・マーケティング』(監訳/ボブ・ストーン、ロン・ジェイコブス著、ダイヤモンド社)、『ザ・コピーライティング』(監修/横田 伊佐男著、ダイヤモンド社)、『人を動かす、新たな3原則』(翻訳/ダニエル・ピンク著、講談社)など。
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