「Copy writing」中の人インタビュー大炎上をPR視点で考察する:【連載】インターネット時代の企業PR 第40回(1/2 ページ)
無断転載の常習犯と一部で問題視されていたTwitterアカウント運営者がメディアのインタビューをきっかけに炎上。語られた言葉より語られなかった問題行動が注目されるメカニズムをPR視点で読み解きます。
2016年1月末に、あるインタビュー記事が「Twitter」やブログなどで大きな話題になりました。この記事は、「青春基地」という、中学生や高校生が取材を行い記事を執筆するメディアに掲載されていたもので、インタビューの対象は「Fall」氏。「Copy writing」(@Copy__writing)というTwitterアカウントで心に響く名言を多数ツイートし、有名芸能人並みのフォロワー数(実に120万人!)を集めていました。いちいち「されていた」「集めていました」と書くのは、当該記事もCopy writingのアカウントも既に削除されているからです。そして2016年2月5日には「青春基地」自体も「無期限休止」がアナウンスされました。
インタビューでは、Fall氏がどのような人物なのか、ツイートだけでは分からない部分を伝えたいという思いで企画されたようです。実際、Fall氏は何を感じて名言をツイートするのか、学生時代はどのように過ごし、現在どのような毎日を送っているのかといったことを語り、その人となりを伝えることに成功しているようにも見えました。
しかし、このインタビュー記事が「大きな話題」を巻き起こしたのは、その内容が共感を呼んだからというわけではありませんでした。
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まつり上げられた人気アカウントは“パクツイ”の常習者だった
Copy writingは、かねて“パクツイ”つまり第三者のツイートを本人の許諾なく無断で自らの発言としてツイートする行為を行う常習者として問題視されていたアカウントでした。また、ツイートの中には営利目的や宣伝目的を疑われるものもあったようで、“中の人”であるFall氏は、他人の著作物で不当な利益を得る人物であると、発言を無断で転載された人々から恨みを買っていました。
そうした人々が、インタビュー記事では一切触れられなかったFall氏のそれまでの疑惑について、ブログなどで告発し始めたことで、続々と“真相”が暴かれていったのです。これまでのFall氏による数々の無断転載行為がまとめられ、さらには当該インタビューの中でもまた他人の発言の剽窃(ひょうせつ)が含まれていると指摘されるに至って、騒動は大きく拡散していくことになります。
この騒動によりCopy writingのフォロワー数は万単位で激減。ほどなく、Fall氏が運営するもう1つのTwitterアカウントとともに閉鎖に追い込まれました。そして、青春基地運営サイドによるお詫びを含む見解文が掲載され、記事についてはそのまま継続して掲載されるという考えが一旦は示されたものの、今度はその見解文の不備が指摘され、訂正と記事を書いた高校生本人の謝罪掲載を経て、最終的には青春基地自体が活動を休止するに至っています(この辺のいきさつについては「ねとらぼ」2016年2月5日の記事「『Copy writing』騒動の『青春基地』が謝罪文を訂正 高校生記者の意見が掲載されるも『内容が不穏』の声」にまとまっています)。
この騒動は、未成年者の情報発信を支援する立場にあるはずのメディアの機能不全、倫理的に問題が指摘されている人物に事前の知識なく接触するリスクなど、幾つかの論点を含んでいます。が、それらの議論は他に譲り、ここではPRの視点からFall氏のふるまいについて考察してみたいと思います。
語られたこと以上に語られなかったことが注目される
Copy writingが悪質な無断転載アカウントであることは、いわゆる被害者の人々や、その周辺の人々によって以前から指摘されてはいたものの、今回の騒動が起こるまで、多くの人々の知るところではなかったかもしれません。批判の声があることを知らない人々はCopy writingを、純粋に名言をツイートする人気アカウントの1つと認識していたのでしょう。
しかし、青春基地のインタビュー記事が出たことで、Fall氏の過去の問題行動が、氏に恨みを抱く一定数の勢力の存在とともに可視化されました。さらに、そのことがまた複数のニュースサイトで取り上げられたことにより、これまで氏を知らなかった人や、知っていても特にネガティブな感情を抱いてはいなかった人々にも、問題の所在がはっきりと提示されることになったのです。
ここでPRの視点から注目すべきは、青春基地のインタビュー記事そのものにはCopy writingやFall氏に対するネガティブな事柄は一切掲載されていないという点です。
問題の記事は、言い方は悪いかもしれませんが、Fall氏を「アゲる」内容に満ちていました。無断転載問題については全く語られず、ひたすら氏の人生に対する美学が語られていたのです。分かりやすく言えば「Fall氏カッケー!」と思わせるような文言が並んでいたわけです。
しかし、記事はFall氏に対する共感を呼ぶどころか、恨みを増幅させ、反感を生むという結果を招いてしまったのです。書いた人の思いとは正反対の反応を呼び起こしたといってもいいでしょう。
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