ウォンツの因数分解――ゲームクリエイター水口哲也氏による「未来構想力ワークショップ」レポート:ゆめみの社員がワークショップに参加
ゲームデザインの考え方を使えばゲーム以外のサービスも産み出すことができる――。ゲームクリエイター水口哲也氏の持論は、ゲーミフィケーションのコンセプトと非常に近しいものに感じられます。そんな水口氏のワークショップにゆめみの社員が参加しました。さて、その結果は? ゆめみの深田浩嗣氏がレポートします。
先日、ゲームクリエイター水口哲也さんにゆめみの社員向けにワークショップを開催してもらいました。水口哲也さんと言えば最近では「Child of Eden」を発表、「Rez」「ルミネス」「スペースチャンネル5」「セガラリー」などを作られた世界でも有名なゲームクリエイターの方です。そんな方にワークショップを開いてもらえるなんて感動です!
実は水口さんには今年からアドバイザーとしてゆめみに関わってもらっていて、ゲーミフィケーションの事業に対しても色々な助言をいただいています。そんな中、水口さんがこれまでのご自身のゲーム作りの中で培ってこられたゲームデザインメソッドをゲーム以外の領域に応用しようということでこのワークショップを行なっていただきました。
水口さんはこれまでもこうしたワークショップは何度も実施されているそうで、新しいサービスのアイデアが参加者からどんどん出てくるという体験をされているとのことです。ご本人の了解をいただけたので、今回はその内容をレポートします。
ちなみにこれがなぜゲーミフィケーションと関連するか? ということですが、水口さんのこの発想(ゲームデザインの考え方を使えば、ゲーム以外のサービスも産み出すことができる)自体がまさにゲーミフィケーションを地で行くものだと思います。実際、ワークショップ中に何度もそういう気付きがありました。この後のレポートをご覧いただければ、考え方の根本にあるものはゲーミフィケーションと同じだな、とみなさんも感じられるのではないでしょうか。
ただ、引き出しの量、これまで突き詰めて取り組んでこられた時間の量、そしてその量が産み出す質の高さが、さすが世界の水口さん。とてもエキサイティングなワークショップでした。
では早速レポートに入りましょう。本来は3日間で取り組まれるそうなのですが、今回は時間の都合もあって午後をまるまる使って、2日間でスケジュールを組んでいただきました。大まかには
- 1日目:「欲求」について考える頭にする
- 2日目:その頭で新しいアイデアを出す
という構成でした。
1日目:「欲求」について考える頭にする
まずは「欲求」についての基本的な説明です。
このワークショップでは「人間の欲求や本能を知る」ということに強いフォーカスを当てていきます。人間の行動はすべて、何かしらの動機が元になっている。動機を深く見ていくと、その人の中にしかない理由があり、それはその人の欲求や本能に根付いていると水口さんは話されます。ただ、普段、僕らはそうしたことにあまり目を向ける機会はありません。自分でも無意識のうちに行動したり、行動を選択したりしています。それを理解することができれば、欲求を満たすためにどんなやり方があるのかを考える発想が湧いてくる、ということのようです。
このような欲求、本能、あるいは夢といったものを「ウォンツ」と水口さんは呼びます。集めたい、育てたい、競争したい、解明したい、愛されたい、踊りたい、歌いたい、車が好き、野球が好き……。欲求にはさまざまな形があります。こうした欲求を理解すること、そしてなるべく深いところにあるウォンツを見にいくことを教わりました。
中でも印象的だったのは「ウォンツの因数分解」という言葉です。例えば前述の車が好き、という趣味嗜好は「なぜ車が好きなのか?」と問うことで、もっと多くの欲求に分解することができます。好きなところに行きたい、早く移動したい、技術と一体感がほしい、1人の時間を持ちたい……など、同じ「車が好き」でも人によって分解した結果は色々ありそうです。
水口さんは、分解していくと、そのうちこれ以上分解できないところまでいきます、と言います。それ以上分解できない先天的な欲求まで辿り着いて、それを満たすことができれば非常に強いサービスを産み出すことができる。ポケモンを例に出されていたのですが、広く受け入れられるものは先天的な欲求を満たすものが多いとのこと。「集める」「育てる」など、こうした欲求は人間なら世界中どこでも共通です。そこに訴えることができるサービスは国境を超えて受け入れられる。ギャンブルや性産業もそういう性質がありますね。
「欲求」についてひとしきり説明をされた後に、ウォーミングアップです。自分の好きなことを1つ挙げてみて、なぜそれが好きなのか、その裏にどんなウォンツがあるのかを人に説明する時間を取りました。これが面白いんです。自分でも普段そんなに考えないことなのですが、改めて説明してみると色々な気付きがあります。相手の話を聞いていても「なるほどそこに刺さっているのか」とその人の個性が見えてくる気がします。
そしてさらに長めに時間をとって、自分の欲求を色々と書き出すというワークを行います。自分の欲求を思いつくままに書き出してみたり、それを因数分解してみたりということを個人ワークで行います。書き出した欲求は自分だけのもの、誰にもシェアは行いません。ちょっと安心です。
さて、ここまでで1日目半分くらいが終了しました。だいぶ欲求についてつかめるようになってきた段階で、今度は欲求をみんなで洗い出していきます。思いつく限りの欲求をポストイットに書き出していきました。
各テーブルごとに、どんどん増えていきます。こんな感じ。テーブルが埋まるくらい書き出したら、今度はそれを分類していきます。欲求の分類にはスティーブン・リースの基本的な欲求を参考にします。
彼の「16の基本的な欲求」についてはgamification.jpでも記事にしたことがあります。今回はそれを元に少し拡張して20くらいに分類する作業を行いました。すると、こんなふうになります。
分類してみると、意外に出にくいタイプの欲求があったりしますので、今度はそれを増やすべく皆で欲求を出し合います。そんな感じでどんどんと欲求の書き出しを進めていくワークです。
一応、「広く人間の欲求を出してください」というお題なので、自分の欲求である必要はないのですが、やはりどうしても自分の欲求がついつい出てきてしまいます。自分にはないけど人から聞くことはあるよな、という欲求も書いてみるのですが、不思議なものでどうもしっくりきません。
今回は約20人での参加だったので、全員分を合わせるとかなりたくさんの欲求が出てきました。今度はそれをカベにペタペタと、分類ごとに分けて貼り付けていきます。
こんな感じで仕上がってきました。
ひと通り貼り上がった段階で、水口さんからこれらの欲求とゲームデザインと結びつけた説明がありました。曰く、「ゲームデザインとは欲求の達成への道筋をデザインすること」。また、「その達成への道筋にリワードを用意すること」。すると循環が始まって欲求の達成に近づいていけるようになるということでした。
この辺りの説明はまさにゲーミフィケーションの考え方そのものだと思いました。ゲームデザインという言葉をゲーミフィケーションという言葉に置き換えて「ゲーミフィケーションとは欲求の達成への道筋をデザインすること」「その達成への道筋にリワードを用意すること」と言ってもなんの違和感もありません。むしろとっても自然です。これからゲーミフィケーションを説明する時にこのフレーズ使おうかな、と思っちゃうくらいです。
最後に明日への総括として、1日目に洗い出した欲求を満たすという観点で、サービスのアイデアを考えてみようというお題が出されました。今回は、「全く新しいゆめみのサービスを考えてみる」というお題に決定。各自がアイデアを企画にして、それぞれ発表することを2日目のワークにするとアナウンスされ、1日目が終了しました。
2日目:その頭で新しいアイデアを出す
さて、2日目です。2日目は最初の2時間でアイデアを企画書に落としこむというワークをまず行い、その次に1人5分で順に発表していくということを行いました。
写真はゆめみのCTO中田が発表しているところです。僕ももちろん発表しました。普段はどちらかというと偉そうに(!)話すことが多いので、こういう皆と同じ立ち位置での発表はけっこう新鮮だったりします。さらに各自が全員のプレゼン内容を採点し、順位付けを行います。上位入賞者には水口さんチョイスの賞品が……!
20人いるので全員分を聞くだけでも2時間近くかかります。普段社内でこうした新サービスについての話をしていると、技術ありきの発想が色濃く出ることがあります。ゆめみはエンジニアが多い会社ですし、自然にそうなってしまうところがあるのですが、今回面白かったのは、そういう企画が出てこなかったことでした。ウォンツ起点でアイデアを出すことでこういう結果になるのか、というのは大変勉強になりました。
さて、いよいよ結果発表です。各自の採点結果を集計して順位を出します。このワークショップには役員が3人も参加しているので意外にドキドキします。賞品は6位の人からもらえます。
結果は……! 役員は一応3人とも入賞、賞品をゲットすることができました。ただ残念ながら誰も1位ではなかった!! こちらは賞品にいたずらトイレットペーパーを受け取るゆめみ役員の國府田。ちなみに僕は3位でした。
以上で2日間に渡った水口さんのワークショップは終了です。今回はいきなり企画のプレゼンとなりましたが、本来は1人ひとりの企画内容のレビューをされるというブラッシュアップの時間をあと1日取られるそうです。時間があればそれもやりたかった!
全体を通して非常に学びの多いワークショップでした。何より応用性がとても高い内容だと感じました。B2Bのサービスだとクライアント企業の方やエンドユーザーの方も交えてやってみたり、B2Cのサービスだと実際のユーザーも交えてやると面白いというアドバイスもいただきました。今後色々な場面でこのメソッドは使ってみようと思っています。
水口さん、2日間ありがとうございました!
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