第3回 仮想空間で試着できる時代――拡張現実技術のマーケティング応用事例:【連載】ARをマーケティングに応用する(1/2 ページ)
実物と見間違うほどのAR腕時計「TISSOT」、帰宅途中のビジネスマンが地下鉄のホームで商品を購入できるTESCO(テスコ)のAR事例……。今回は主に海外の拡張現実導入事例を紹介する。
海外では拡張現実技術を使用した販売促進やさまざまなプロモーションが行われている。もちろん日本においてもかなり利用されることが多くなっているが、まだまだ特別なユーザー向けの「ワオ体験」であったり、試しに1回だけやってみましたということが多く見受けられる。
今回は、海外を中心に効果的に利用されていると思われる拡張現実の導入事例をいくつか紹介する。効果がどのくらいあったのかを知りたいという問い合わせもあると思うので、それらの数字が公開されている事例については併せて記載する。
1. 実物と見間違うほどのAR腕時計「TISSOT」
スイスの腕時計のブランドであるTISSOT(ティソ)は、パーソナルコンピュータでユーザー自身がWebCameraを使用して実行できる時計のフィッティングと、街頭に設置したKIOSK端末のフィッティングの2種類の方法で2010年5月頃からプロモーションを実施した。
一例として、トロントのクイーンストリートの街頭で行われたプロモーションの事例をご紹介しよう。店舗の前を通りかかった人に、紙でできた黒い時計型のARリストバンドを手渡す。
そのリストバンドをしてもらい、店舗の外側に設置してあるKIOSK端末のWebCameraにかざしてもらうと、まるで腕時計をしたかのように本物そっくりの腕時計があなたの腕に出現する。他のいくつかのARとの違いは、秒針が現在の時間そのままで表示され動く位のリアリティさだろう。利用シーンを動画で見せてくれるという点も効果があると感じる。
1つのARリストバンドで何種類も試着できるようになっており、一通り試着を行うと、2300ドル相当の新しいTISSOTの時計を獲得するチャンスが与えられる。
また、ロンドンのセルフリッジでも、このようなプロモーションが行われ3週間で83%の売上増加となったと報告されている
TISSOTと似たような事例にはジュエリーなどもある。いずれもパソコン向けだ。
参考
2. 常に新しい体験を提供するTESCO(テスコ)のAR事例
本社を英国に置く小売店のTESCO(テスコ)は、2011年から拡張現実技術を使用したいくつかの取り組みを開始している。これだけの規模の企業が積極的に拡張現実の技術をマーケティングに活用している点については決して無視ができないところだ。ここでは、TESCOで実際に実施された3つの事例を紹介する。
帰宅途中のビジネスマンが地下鉄のホームで商品を購入
ソウルの地下鉄の乗り場を使用した画期的なウォールショップ(2011年7月頃実施)。HOME PlusのWebサイトと物流の仕組みを連動させたスマートフォンアプリによって実現した。拡張現実ではないが、拡張現実的な手法であるため紹介しておきたい。
韓国のビジネスマンは忙しく、そして疲れ果て、スーパーで買物をする体力も時間もないというコンセプトから始まっているようだ。ここでの事例は、帰宅途中に地下鉄の乗り場の壁が商品選択を行なうエリアになっている。壁はモニターではなく商品が印刷された紙を一面に貼っているため、定番の商品が対象になるのだろう。それぞれの商品写真に対してユニークなQRcodeが印刷されている。
スマートフォン向けの無料アプリHOME Plusを起動し、QRcodeリーダー機能を選択して購入したい商品を次々に読み取っていく。必要な商品を全てカートに入れたら即決済。自宅に到着する頃には商品が届いているという仕組みだ。
この結果、オンラインでの売上高が最初の3カ月で130%に増加し、新たなサイトへの登録者が76%以上増加したという報告が挙がっている。
参考
- TESCO PRESENTA “HOMEPLUS SUBWAY VIRTUAL STORE”(Clicker 360)
- Tesco Homeplus: la spesa virtuale in metropolitana(future retail design)
YouTubeも見ていただけるとその取り組みは一目瞭然だ。
自宅で商品を手にしたかのようなAR体験を提供
英国のTESCOで2011年11月頃から実施された事例である。パソコンのWebブラウザとWebCameraを通して、自宅にいながら玩具や電気製品の利用/設置方法を仮想体験することができるというものだ(3DCGをARで見ることができる)。
インターネットでは実物を見ることができないが、実物と近い状態で商品を見ることができるため、実物を見たことや触れたことがなくても、ある程度商品のことを理解することができるため、安心して購入することができる。返品率の低下にもつながったのではないだろうか。ユーザーのIT利用のスキルにもよるため、万人向けとはいえないが、このような業界において多品目で展開した小売での初の事例だったと記憶している。
商品カタログとスマートフォンによりWebサイトですぐに購入
英国のTESCOで2012年7月頃にリリースされた。カタログ連動のスマートフォン(iOS、Android OS)向けアプリケーション「TESCO discover」がTESCOの最も新しい取り組みだろう。利用している技術は、英国Aurasma社の画像認識型ARプラットフォームだ。
「TESCO discover」を起動してカメラモードの状態とする。対象となっている「realfood」などのカタログをめくりながら、そのページ全体をスマートフォンのカメラでかざしてみる。すると、そのページに対して設定されている動画や画像ボタンが表示され、カタログという媒体からデジタルの世界に容易に誘導してくれる便利な仕組みを実現している。拡張現実技術であることは確かだが、画像認識の精度と便利さに注目するべきだろう。画面が小さなスマートフォンは、利用できる機能が限られてしまう。商品を選択する際、商品コードやキーワードを入力するよりも、画像を認識することですぐに目的の商品にたどり着けるとなるとかなり便利だろう。
以下のサイトから対象カタログの1つrealfoodマガジンのPDFのダウンロード可能
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