東京マラソンでも仕掛け作り スポーツブランドの独自性を打ち出すニューバランス:マーケティング責任者に聞く(2/2 ページ)
スポーツ用品メーカーのマーケティングやブランディングに対する考え方は一般消費財メーカーとは異なる点が少なくないという。ニューバランスのマーケティング戦略から読み解く。
デジタルとリアルの融合
ニューバランスは、先日開催された「東京マラソン 2012」においても、デジタルとリアルの融合によるマーケティング施策を打ち出し、スポーツブランドとしてのプレゼンス向上を図った。
具体的には、スマートフォンサービス会社のゆめみが提供する位置情報(GPS)連動ソーシャルゲーム「MyTown(マイタウン)」と連携して、大会の数週間前から大規模な屋外広告キャンペーンを展開。駅やニューバランスの直営店などキャンペーンポスターが貼られている場所にチェックインポイントを設け、その場所でチェックインするとニューバランス関連のアイテムがゲーム上でもらえるようにした。また、MyTownのアイテムの1つである宝箱を、ニューバランスの靴箱にブランディング。「東京マラソンEXPO」の出展ブースに来場してQRコードをスキャニングすれば、靴箱が開いてアイテムを得ることができるという仕掛けにした。このキャンペーンの狙いもユーザーにブランド体験を作るということである。加えて、いつどこの場所にチェックインしたかというデータが取得できるため、キャンペーン広告それ自体の効果測定にもなる。
「直接的に店舗でのシューズ購入を促すようなキャンペーンではないが、リアルの場を通じてユーザーにブランド体験を提供できる。こうしたデジタルとリアルを融合させた取り組みによって、オフラインからオンライン、オンラインからオフラインというマーケティングの流れが出来れば面白いと考えている」(鈴木氏)
リアル店舗での購入体験をFacebook上でも実現
デジタルとリアルの融合――。この動きは商品の販売戦略にもつながっていく。ニューバランスは、リアル店舗として、直営店やシューズ専門店、スポーツ量販店などのチャネルを持ち、デジタルを活用した販売チャネルとしては、ECサイトを6年ほど前から運営する。元々は通信販売の延長だったが、昨年あたりから本格的にECサイトのマーケティングを開始した。その理由について鈴木氏は「インターネットの普及やデバイスの進化という環境の変化がECサイトの売り上げを伸ばしており、てこ入れすべきだと考えた。加えて、直接消費者に商品を販売することはブランド体験としてエンゲージメントは高い」と強調する。
実際、ECサイトの売り上げは好調で、さらに高い目標を掲げているという。しかし、あくまでもECサイトにだけ注力するのではなく、リアル店舗を含めたチャネル全体のマーケティング活動を展開することによって、ニューバランス商品の購入を通じたブランド体験を構築していくことが重要だとしている。
そうした中、ECに対する新たな取り組みとして、今年2月に立ち上げたのが、Facebookを活用したコマースサイトである。この基盤となるシステムはデジタルマーケティング事業などを展開するビルコムのソーシャルコマースサービス「ReBuy」を利用した。
ReBuyは、Facebookの特徴である友人とのつながりを生かしたサービスで、販売する商品ごとに「かっこいい!」「かわいい!」など29種類の口コミ促進ボタンを実装する。これによって、サイトを訪れたユーザーは商品に対する感想を気軽に述べたり、友人に紹介したりできるようになる。「友人に相談したり薦められたりして商品を購入する人は多い。実際の店舗で友人に相談する感覚がコマースサイト上でも実現できるのがReBuyの特徴。これによって時間と距離を超えて友人と買い物が可能になったのだ」と、ビルコムで新規事業ディビジョン担当執行役員を務める野崎耕司氏は説明する。
ニューバランスがソーシャルコマースを導入した理由もまさにここにある。鈴木氏は、リアルの場での購入体験をFacebook上でも可能だということを試してみたかったという。
「顧客によるデジタル上での購入体験というのは、ニューバランスにとってどうあるべきかと考えていた。ReBuyでは、実際に店舗に訪れて商品を見てから購入するまでのプロセスをFacebook上で視覚化できるほか、購入前に商品が似合うかどうかを友人に尋ねるなど現実の場面でも行われるような体験のデザインが織り込まれていた点を評価した」(鈴木氏)
導入して間もない現在は、ニューバランスが提供するFacebookを活用したコマースサイトの1つという位置付けだが、今後はコンテンツなどを拡充していき、例えば、キャンペーンサイトのように見せていくことも検討しているという。将来的にはここで蓄積したノウハウを自社のECサイトに横展開していく方向だ。
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