東京マラソンでも仕掛け作り スポーツブランドの独自性を打ち出すニューバランス:マーケティング責任者に聞く(1/2 ページ)
スポーツ用品メーカーのマーケティングやブランディングに対する考え方は一般消費財メーカーとは異なる点が少なくないという。ニューバランスのマーケティング戦略から読み解く。
1906年、米国・マサチューセッツ州ボストンで偏平足などを治す矯正靴のメーカーとして産声を上げたニューバランス。その後、このノウハウを基に1960年代にはカスタムメイドのランニングシューズの製造を開始し、現在ではスポーツシューズのグローバル企業として世の中に名を馳せている。
ビジネスモデルに関して、直営店や量販店、あるいはECサイトなどで商品を販売するという点では一般的なメーカーと変わらないが、スポーツ用品メーカーならではの独自性もあるという。それは、商品を通じて顧客にブランド体験を提供するというものである。これはニューバランスのみならず、ほかのスポーツ用品メーカーでも同様であろう。「当社のようにブランドを持つ企業のリテール(小売)においては、顧客が商品を購入するということそれ自体がブランド体験になるため、(顧客とのタッチポイントにおける)トータル的なブランディング活動が重要なのだ」と、ニューバランス ジャパン マーケティング部長の鈴木健氏は話す。
デジタルを活用した顧客とのつながり
いかにしてニューバランスというブランドのファンになってもらうか。この実現に向けて同社ではさまざまなマーケティング施策を打ち出している。特に力を注ぐのがWebサイトやソーシャルメディアなど「デジタル」の活用だ。今や企業のマーケティング活動においてデジタルツールなどを使うのは珍しいことではないが、ことさらスポーツブランドのマーケティングにおいてはデジタルとの相性が良いという。
「スポーツ用品というのは、一般消費財と異なり、スポーツに取り組む人にしか必要ないもの。例えば、ランニングしない人にランニングシューズを薦めても意味がない。ターゲットとなる市場にいる消費者にしっかりとアプローチするためのマーケティングが重要で、彼らと継続的につながっていくにはデジタルが効率的かつ有効な手段といえる」(鈴木氏)
ニューバランスでは、以前からデジタルを活用したマーケティングに取り組んでいたものの、鈴木氏が2009年に入社してからさらなる強化が進んだ。これまでのマーケティングチームは、Webサイト専任やPR専任など担当が明確に分かれていたが、鈴木氏はマトリクス組織にしてスタッフ一人一人が複数の役割を持つ形に変えた。「もはやデジタルは標準的なツールになっているので、PR担当や販促担当であってもデジタルを理解してもらいたいと考えた」と鈴木氏は狙いを語る。また、こうした組織にすることで業務での横連携が活発になり、1つの仕事において今まで以上に複数のスタッフがかかわるような体制となった。チームワークの醸成にもつながったというわけだ。
ほかでは味わえない体験を!
一方で、顧客との結び付きを強くするためには、デジタルだけを使った施策だけではなく、リアルの場でのブランド体験も不可欠だという。現在、ニューバランスのマーケティング活動において多くの労力を投入しているのがランニング大会のサポートや協賛である。以前は会場に協賛ロゴを出したり、ブースを出展したりということにとどまっていたが、ニューバランスが協賛するイベントでしか味わえない体験をマラソンレースの中で作り出せないかと考えた。
例えば、昨秋に行われた「湘南国際マラソン」では、大会前にコースの動画をWebサイトで公開し、ランナーにコースを下見してもらうように情報発信した。実際、大会の数日前からサイトへのアクセスが急に上がっており、参加ランナーの多くがコースの下見を実施したことが分かった。その上でリアルの場(大会)でのランニングを楽しむことができれば、ランナーにとってニューバランスのブランド体験がより良いものになるはずだという。
「リアルの場でのイベントだからといって単にそのことだけを考えるのではなく、参加するランナーが何を考えていて、どの時期にどういうことを望んでいるのかを全体的な視点から把握することが肝要だ。そのためにデジタルツールやソーシャルメディアは効果的であり、デジタルとリアルの融合を図ってターゲットとなる人たちに対してきちんとコネクションを作っていくのがこれからの戦略となろう」(鈴木氏)
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