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楽天経済圏を支えるアクセス解析の全貌(後編)(3/4 ページ)

アクセス解析を浸透させるには、専門部署がそれぞれの事業で直面するアクセス解析の問題を解決し、無駄をなくしていくことが重要だ。40近くのオンライン事業で構成される「楽天経済圏」におけるアクセス解析の文化をどう浸透させていったかを振り返る。

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「段階的な導入を可能にする」というゴール設定

 アクセス解析・最適化推進チームのミッションは、楽天にアクセス解析の文化を浸透させ、PDCAを回してビジネスの改善を続けていくことである。

 これまで記述してきた通り、アクセス解析の標準化や効率改善はとても大事だ。だがそれだけでは、約40のオンライン事業にアクセス解析を浸透させ、ビジネスチャンスを作り出すことはできない。主力の楽天市場でさえ、アクセス解析の設計や実装に2年を費やしており、現在も試行錯誤を繰り返し続けている。

 そこで、アクセス解析を浸透させるための目標を設定した。(1)半年以内に全事業で購入や資料請求などのコンバージョン計測を開始する、(2)導入後に迅速に再設計や追加実装ができる状態を確立する――ことである。

 目標達成に向け、アクセス解析・最適化推進チームは予算や契約に対する責任、そしてアクセス解析ツールの管理者権限を持つようにした。短期で目標を達成するには、ある程度の権限が必要だからだ。

 計測ロジックの多くを集約しているJavaScriptファイルは、推進チームのみが管理、更新できるWebサーバに移動した。これにより、設定の勝手な変更がなくなり、計測条件を完全に把握できるようになった。新たな分析ニーズの多くは、緊迫した状況において発生する。ファイルを更新し、リリースするための調整や手続きの時間を無駄にはできなかった。

 仕様書のフォーマットも統一し、アクセス解析用のイントラネットで一元管理できるようにした。各事業の計測ファイルや仕様書、レポートを1カ所に集め、内容の把握や検索対応、標準化を進めた。フォーマットや運用の方法を固めておくことで、仮に解析担当者が他事業に移動しても対応しやすくなる。

 このように、アクセス解析・最適化推進チームが進めてきたのは、地道な仕組み作りである。だがこうした土台の整備は、アクセス解析の担当者に大きなメリットをもたらすものだ。

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アクセス解析の導入を完了させたオンライン事業。導入期間は半年だった(出典:楽天)

手戻りではなく新発見

 設計と導入を繰り返すと、新たなパターンや仕組みもよく発見できる。例えば、Webサイトへの流入を大きな単位で把握するプラグイン「ChannelManager」は、グループ標準のデフォルト機能に格上げし、導入済みのサービスにも再適用した。1カ月前に自分が担当した設計や実装でさえ、「今ならこうするのに」と思うことがよくあるが、この気付きは自分たちが学習しながら前進している証拠でもある。

 経験の蓄積は、新たな発見を導き出す。そこで不備や漏れを発見した場合でも、「標準パターンの精度が上がった」「新たな発見ができた」と前向きにとらえることにした。前述のように、設計や実装を変更しやすい状態にしているため、管理者権限や計測用JavaScriptファイルの一元化における手戻りのコストも高くならなかった。

集約した業務を各事業に戻す

 アクセス解析の導入が順調に進む一方で、各事業からの問い合わせやリクエストが増えてきた。これがアクセス解析・最適化推進チームの負荷となり、改善や運用のボトルネックになっていった。このころの推進チームは7人(3人増)になっていたが、1人が10以上の案件を同時進行していた状態だ。

 そこで、一度推進チームに集約した権限や責任を、各事業部に戻すことにした。推進チームの役割を、各事業のサポートに徹することに改めた。

 JavaScriptコードは、カスタマイズ可/不可の部分を分離し、管理者権限の一部は事業部側の代表者に開放した。アクセス解析やデータの抽出は各事業の解析担当者の責任とし、ツールのユーザー登録は事業部側のアカウント申請担当者が推進チームに代理申請するフローに変更した。

 一見、各事業の負担が増えるように見えるが、推進チームが業務を引き受け、手順を固めたことで、無駄がそぎ落とされている。このころには、アクセス解析をしないと各事業が成り立たない状態になっていた。このようにアクセス解析の重要性が社内に幅広く認識されると、各事業のアクセス解析担当者の任務が公になり、動きやすくなる。結果、アクセス解析の成果が正当に評価され、予算を確保したりプロジェクトの優先度を高めたりしやすくなった。

 アクセス解析などの新たなツールを社内に浸透させるには、アクセス解析・最適化推進チームのような各事業部門の業務を巻き取る組織が、各事業の試行錯誤を肩代わりすることが重要だ。現場がメリットを受けられる状態にしてから、役割分担や手続きを社内の各組織に浸透させる進め方が最も効果的といえるだろう。

アクセス解析の標準化と推進の三本柱
アクセス解析の標準化と推進のために、楽天が掲げた「三本柱」(出典:楽天)

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