楽天経済圏を支えるアクセス解析の全貌(前編)(2/3 ページ)
企業において、経営視点を取り入れたデータ中心のWeb戦略が不可欠になりつつある。40ものオンライン事業を手掛ける楽天は、アクセス解析を浸透させる組織を作り、ビジネスの成功に結び付けている。楽天の取り組みの全貌を伝える。
社長が導入を指示するも進まず
その解決策がASP型のアクセス解析サービスだった。幾つかのアクセス解析ツールを検討した後、当時、日本に参入して間もないオムニチュア(現アドビシステムズ)の「Omniture SiteCatalyst」を選んだ。
決め手は、大規模サイトへの対応実績と高いカスタマイズ性、コンサルティングのノウハウだった。ツール導入の前提として、オムニチュアが日本国内にコンサルティング部門を持ち、安定したサービスとサポートを行うことを要求した。対価はツールのみに支払うものではない。ツールの活用方法、米国で培われた最適化のノウハウやサポートにこそ価値があると考えたからだ。
まず、主力の楽天市場にSiteCatalystが導入された。専門スタッフがサポートを行い、導入や運用の推進を他事業に横展開していった。アクセス解析の本格導入の先頭に立ったのは経営陣、特に三木谷浩史社長である。楽天の全サイトでアクセス解析を行い、データに基づく施策の実行と改善を継続的に行っていくことが経営意思だった。
社長はことあるごとに「もっと導入・活用せよ」と指示を出したが、最初はSiteCatalystの活用が浸透しなかった。カスタマイズを前提とするハイエンドなマーケティングスイート製品は、シンプルな解析ツールに比べて導入・活用が難しいからだ。
アクセス解析の文化を企業に浸透させるには、ツールの目的、指標の選定と計測方法を考え、アクセス解析ツールの設計・導入を進める必要がある。楽天では、経営に結び付くアクセス解析の土台作りに、2年もの月日を費やしている。以下の項目は、試行錯誤したアクセス解析の項目だ。アクセス解析を手掛けるあらゆる企業にとって、これらの項目は最初に定義しておくべきだろう。
- KPIの考え方
- どのデータをどう取得すれば事業の改善につながるのか
- SiteCatalystにはどんな機能があるのか
- 指標の算出方法は適切なのか
- 最適化を継続できるプロセス
- 動的ページへの楽な実装方法
- 設計や実装内容の情報共有の方法
横串組織の誕生と窓口の一本化
楽天では新サービスの立ち上げやM&Aが多く、2009年はショウタイム、イーバンク銀行、タイのTARAD Dot Comが新たにグループに入った。この場合、各サイトのシステム統合、デザインやユーザービリティの標準化、運用・改善プロセスを統一していく必要がある。
各事業で共通のノウハウや開発・制作物は一元管理し、水平展開することで、業務効率が上がる。これはアクセス解析においても同じことだ。そこで楽天では、各事業のアクセス解析を横断的にサポートする組織が2007年に結成された。それが著者が所属する「編成部ユーザーインターフェイスグループ」であり、その名の通り、ユーザーインタフェース(UI)の品質と効率を向上させるための標準化や全社推進を行っている。具体的には、ユーザビリティ、SEO、アクセス解析、スマートフォン対応などが含まれる。
編成部でまず着手したのは、SiteCatalystの契約の一元化だった。狙いは予算の一括確保である。各事業が個別にツールを導入する場合、(経営層からの)予算の承認が最初のボトルネックになる。すべてのサイトでアクセス解析をする上で、社内手続きの時間は一秒たりとも無駄にできない。
そこで、グループ全体のアクセス解析のコストを編成部が一括確保し、利用量に応じて社内に請求する仕組みを整備した。リソースを編成部が握っておくことで、ツールの導入やプロジェクトの開始を強力に推し進められる。オンライン事業を成功に導こうとする企業にとって、組織を横断するアクセス解析体制の整備は不可欠といえるだろう。
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