先駆者パルコが語る、“生成AIで広告”制作の勘所 クリエイターに残る「重要な役割」とは:パルコ×博報堂対談(2/2 ページ)
2023年と2024年にパルコでは生成AIを使った広告制作を実施。しかし、主導したパルコ 草刈洋氏は「人間のすごさを逆に実感する経験となった」と語る。それはなぜなのか。
AIエージェントに人格を持たせると面白いのでは?
嶋氏: AIエージェントの登場で、コミュニケーションの仕方も変化が予測されます。検索から会話へと、情報の探し方が変わっていくでしょう。これにより、ブランドと生活者の距離感が近くなると考えられます。
また、AIエージェントと話しているうちに、その人の潜在的な思いに気付かせてくれるかもしれません。例えば「週末に旅行へ行きたいんだけど、どこがいいかな」とたずねていたはずなのに、いつの間にか読書する週末になっていた、というような。AIDMA(消費者の購買決定プロセス。Attention、Interest、Desire、Memory、Action)やAISAS(消費者の購買決定プロセス。Attention、Interest、Search、Action、Share)といった、これまでのマーケティングが不要になり、想定外の場所にAIが連れて行ってくれる時代になるのではないでしょうか。
草刈氏: AIDMAの時代はマスメディアが強かった時代。それを1本の木の幹と考えるなら、葉脈のような細かな、一人一人にピッタリ合わせるマーケティングの時代になるんでしょうね。
嶋氏: 会話をしていると、いろいろな方面に内容が飛んでいくものですが、それを生活者と企業が行えるようになる。企業の情報が会話の中にどう介在していくようになるのか、生活者がそこからどんな答えを得るようになるのか、と考えると非常に興味深いですね。
嶋氏: いくつものAIエージェントが住んでいる“AI村”を持ち歩けて、「旅行のことは、このAIに聞こう」という具合に、知りたいこと別に会話できるようになるといいですよね。
また、人はキャラの合う人と会話したいと感じるものなので、個性のあるAIエージェントをどう作っていくか、というのがブランディングのチャンスにつながるのではないかな、と考えています。
草刈氏: 確かに、全方面知っているAIエージェントに「パリに1週間旅行に行くんだけど、どこがいいかな」と聞くより、自分好みの雑誌に精通しているAIエージェントにたずねる方が、自分に最適化したフィルターをかけた提案をしてくれそうですよね。
嶋氏: 雑誌のように、特定の視点を持ったAIエージェントがある。AIエージェントに人格というか、“ブランド格”をもたせることで、面白いマーケティングができるようになるのではないかなと興味を持っています。
AI時代、クリエイターの仕事は取って代わられるのか
嶋氏: 次のトピックは「AI時代のブランドの姿勢はどうあるべきか?」というものです。
草刈氏: AI時代になって、プロセスが変わっていっても、それは可能性が増えるだけでブランド自体が変わるわけではないと思います。
例えば、パルコではインサイトを追いかけるのではなく「先取りする」ことを重視しています。通底しているのは「クリエイターの才能を信じること」。旬を表現できるクリエイターと組んで、彼らの嗅覚で未来のインサイトを予見してもらい、それを顕在化させるということです。
AI時代になったとしても、やはり一番大事なのはクリエイターという人間の能力です。その本質は、これからも一切ブレることはないと、実際にAIで広告を作って感じました。
草刈氏: 「AIって忖度(そんたく)しないんだなぁ」というのが、AIで広告を作って感じたことですね。
嶋氏: 「人間ってこうあるべき」みたいな発言を、人であればしてしまうし、「そうだよね」と同調してしまうけど、AIは「そんなことないよね」と空気読まずにはっきり言ってくれる。
草刈氏: そうそう。斜め上からの意見を提言するので、狭い箱から取り出して、視野を広げてくれるのがありがたいですよね。
嶋氏: AIだからできることと人間のクリエイターにしか分からない嗅覚を掛け合わせられるのが、AI時代のマーケティングの面白さということですか。
草刈氏: AIをテーマにしたトークセッションではありますが、AIと仕事をして分かったのは「人間ってすごい」ということでした(笑)。AIが出してくるものを直感的に「面白い」「つまらない」と判断するのは人間であり、それがクリエーションで共創していくということなのではないかなと、強く思いました。
嶋氏: AIを活用したクリエイティブ現場の今、ブランドのあるべき姿、コアの部分では人間のクリエイターの感覚が重要であるというお話をうかがいました。今日はありがとうございました。
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