Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?:「マルチリターゲティング」入門【後編】
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向上のメカニズムや、より精度の高いターゲティング手法、KPI設定、予算戦略などを掘り下げて解説する。
前編「Cookieレスの時代 「リターゲティング広告」にできることはまだあるか?」では、主にプライバシーを巡る昨今のデジタルマーケティングの動向に触れつつ、複数のリターゲター(リターゲティング広告を専門とする広告配信プラットフォームやプロバイダー)を併用する「マルチリターゲティング」の概要について解説した。
後編となる今回は、マルチリターゲティング戦略の鍵となるAI技術を活用したリターゲティング広告に焦点を当て、ROI(投資対効果)向上のメカニズムや、より精度の高いターゲティング手法、KPI設定、予算戦略について掘り下げる。
また、RTB Houseによる調査結果などを基に、AI技術が広告のパフォーマンスをどのように最適化し、マルチリターゲティング戦略を成功に導くのか、具体的なデータとともに紹介する。
AIベースのマルチリターゲティングが広告ROIに与える影響
前回のおさらいとなるが、リターゲティング広告は、Webサイトを訪れた潜在顧客に再アプローチできるデジタルマーケティング手法として広く活用されている。このリターゲティング広告にAI技術を活用することで、複数のリターゲターを組み合わせることが可能になる。マルチリターゲティングが実現したことで、単一のAIエンジンでは捉えきれないユーザー層にもアプローチできるようになり、広告の精度は向上する。異なるリターゲターのAI技術が相互補完することで、購買傾向の分析やクリエイティブ最適化が強化され、広告効果が持続的に高まっているからだ。
マルチリターゲティングの効果は、実際のデータからも明らかである。RTB Houseが2つのリターゲターを導入した企業群へ行った調査では、最初の3カ月間で広告インプレッションが2倍(各社の平均)に増加したことが確認できている。この傾向は継続し、6カ月後には37.3多くの潜在顧客にリーチしていることが確認された。分野別に見ると、ファッションでは75.05%、不動産では67.69%、ヘルス&ビューティーでは45.95%と、それぞれインプレッション数が大幅に増加した。マルチリターゲティング広告により広告の到達範囲が広がり、より多くの見込み客に接触できるようになったことが分かる。
広告の平均クリック数に着目すると、マルチリターゲティング広告展開から6カ月後に約30%増加という結果となった。コンバージョン数も大幅に増加した。2つ目のリターゲターを追加後、3カ月で104.96%増、6カ月で118.44%増となった。ユーザーに対する広告の関連性の向上が相乗効果を生み出したことが推測される。
広告主が最も注目すべき指標の一つであるROAS(Return On Ad Spend:広告投資収益率)も、マルチリターゲティングにより向上した。2つ目のリターゲターを導入してから6カ月後、ファッション分野では188.57%増、不動産では72.47%増、ヘルス&ビューティーでは66.59%増となった。
マルチリターゲティングによるROAS向上の要因は3つある。1つ目は、異なるリターゲターのAI技術を活用することで単一の手法では届かない潜在顧客にもリーチできたこと。2つ目はリターゲター間の競争により、広告パフォーマンスが最適化されたこと。そして3つ目は複数のAI技術が相互補完し、ターゲティング精度が向上したことだ。
マルチリターゲティング戦略に対する懸念事項
マルチリターゲティング戦略でよくある懸念の一つが、広告の表示頻度である。「ユーザーが広告を頻繁に目にしすぎて、ユーザーエクスペリエンスやブランド認知に悪影響を与えるのではないか」という疑問が生じるのかもしれない。しかし、この懸念は、リターゲターの広告配信モデルを正しく理解していないことによる誤解でもある。
リターゲターは、広告主の予算内で最適な成果を出す必要がある。そのため、クリック率が低く成果につながらないインプレッションを無駄に増やすことは自身の利益にも反する。無駄を防ぐには過剰に広告を表示するのではなく精密なターゲティングを行い、パーソナライズされた広告を表示する方が理にかなっている。「数打てば当たる」戦略は、広告コストの浪費につながるだけでなく、ユーザー体験を損ねるリスクもある。以上の理由から、関連性の高い広告を適切な頻度で表示することは、広告主にとってもプラットフォーマーにとっても最も効果的なアプローチとなるのだ。
カニバリゼーションも懸念されるポイントだ。カニバリゼーションとは、同じターゲットユーザーに対して複数の広告が競合し、効果が相殺される現象を指す。複数のリターゲターを利用することで成果が分散してしまうのではないかと考えられているのだ。
しかし、多くの広告プラットフォームでは「ラストクリックアトリビューション」モデルを採用しており、直近のクリックを基にコンバージョンが評価される。そのため、複数のリターゲターが同じユーザーに広告を配信しても、同じコンバージョンに対して二重の支払いが発生することはない。なお、マルチリターゲティングでは、それぞれのリターゲターが異なる手法でターゲティングを行うため、広告の分散によるカニバリゼーションの影響は最小限に抑えられる。
KPI設定と広告のパフォーマンス測定
マルチリターゲティングを効果的に活用するには、リターゲターの役割や得意な領域を正しく理解し、広告効果を適切に評価することが重要である。そのために、KPI(重要業績評価指標)や測定方法を適切に設定し、広告成果を可視化することが求められる。各リターゲターを同じ指標・条件で比較し、Google Analyticsなどの外部ツールを活用することで、ROIを正しく把握し、最適なプロバイダーを見極めたい。
主要なKPIとしては、以下のようなものがある。
- ROAS(広告費用対効果):広告費に対する売り上げの割合。最も重要な指標の一つ
- CPC(クリック単価):1クリック当たりのコスト。クリック獲得の効率性を測る
- CPA(獲得単価):コンバージョン1件当たりのコスト。目標達成のコスト効率を示す
- コンバージョン率:広告クリックに対するコンバージョンの割合。広告の効果を評価
- インプレッション数とリーチ:広告の表示回数とユニークユーザー数。リーチ拡大の指標
KPIの活用には、適切なアトリビューションモデルの選択も欠かせない。一般的なラストクリックアトリビューションは最終クリックのみをコンバージョンとして記録し、二重計測を防ぐ。一方で、ファーストクリックモデルやポストクリックモデルを活用することで、広告接触の影響をより詳細に分析できる。適切なKPIとアトリビューションモデルを選び、定期的にパフォーマンスを分析することで、マルチリターゲティング戦略の最適化を継続的に進めることが可能となる。
予算戦略:クローズドvsオープン
マルチリターゲティングにおける予算管理は、キャンペーンの成功に直結する重要な要素だ。ここでは「クローズドバジェット」と「オープンバジェット」の2つのアプローチについて紹介する。
クローズドバジェット:限られた予算で最大成果を狙う
固定予算内で最適な成果を目指す方法。例えば、1万ドルの予算をリターゲターAとリターゲターBに分配し、効果を比較しながら配分を調整する。これにより、新しいユーザー層へのリーチが拡大し、1コンバージョン当たりのコストが削減される可能性がある。効果が低いリターゲターへの配分を減らし、パフォーマンスが高い方へ予算を集中することで、投資対効果を高めるアプローチだ。
オープンバジェット:売り上げ最大化を目指す
コンバージョンが増えるほど売り上げが伸びる状況で、予算を柔軟に拡大するときに有効な方法だ。例えば、リターゲターAが1コンバージョン当たり10ドルで1000件の成果を挙げている場合、リターゲターBを追加し、獲得単価を維持しつつコンバージョン数を増やすことができる。それぞれのリターゲターが異なるユーザー層をターゲットにするため、市場カバー率が拡大し、売り上げの最大化が期待できる。
クローズドバジェットは限られた予算内での効率向上を目的とし、新規ユーザー層の開拓やターゲティングの精度向上が狙いだ。一方、オープンバジェットは広告効果を維持しつつ売り上げの最大化を目指し、成長フェーズの企業に適している。どちらを選ぶかは、ビジネス目標と予算の制約次第だ。両方のアプローチを試しながら最適な戦略を見極めることも有効だ。
未来のマルチリターゲティング戦略
Cookie規制が行われる一方で、AIやディープラーニング(深層学習)の技術の進展が広告配信の精度と柔軟性を大きく向上させている。複数のAIエンジンを競争させるマルチリターゲティング戦略は、それを実感できる有効な手法の一つだ。最新技術を複数活用することで、プライバシーに配慮しながらターゲティング精度を飛躍的に向上させるとともに、柔軟で効果的な広告運用が可能となることを説明した。
従来のターゲティング手法に限界を感じているなら、新たなアプローチを試す絶好の機会だ。マルチリターゲティングを導入することで、異なるAIエンジンの強みを生かし、より多角的なターゲティングが可能になる。さらに、広告の最適化プロセスが進化し、コンバージョン率やROASの向上が期待できる。データに基づいた施策を重ねながら、広告の成果を最大化するための一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
今後もデジタル広告はさらなる規制強化と技術革新を繰り返していくだろう。先進的なマーケティング戦略を構築し、変化に適応できる体制を整えることが、競争優位性を確立する鍵となる。技術の進化を味方につけ、より精度の高い広告戦略を実現することで、ぜひ成功をつかんでいただきたい。
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