ウェルチが挑む体験型マーケティング やってみて得た2つの気付きとは?:Marketing Dive
伝統的なブランドであることは、古いマーケティングのやり方に縛られる理由にはならない。濃厚で甘いジュースで知られるWelch’sが新製品「Zero Sugar」を訴求するために展開する同社史上最大規模のキャンペーンの裏側について、CMOに聞いた。
ぶどうジュースの代表的なブランドとして有名なWelch’s(ウェルチ)だが、近年製品ラインアップを拡大していることに伴い、リブランディングに取り組んでいる。陣頭指揮を執るのが、CMOを務めるスコット・ウトケ氏だ。若い世代に訴求するため、ウトケ氏が重視するのが、体験型マーケティングだ。
※編注:本稿は「ウェルチのCMOが語るリブランディング 脱『ぶどうジュースの会社』なるか?」の続きです。
大規模なマーケティング投資が実現した背景
――CMOの予算が減少しているというレポート(外部リンク/英語)を読みました。過去最大規模のキャンペーンを展開されたとのことですが、以前よりもリソースが増えたと感じますか。それとも、より倹約しなければならない状況ですか。
ウトケ 私がWelch’sに来たときは、ブランドとして十分な投資ができていない状況でした。そこで、ブランドにとって適切な投資額はどれくらいか、また、その資金配分のペースをどうするべきかを取締役会に提案する必要がありました。議論の結果、投資額とスケジュールで合意しました。この数年間で、私たちはブランドへの投資を段階的に増やしてきました。そして、その中で重要な決断を下しました。大規模なキャンペーンを実施するつもりなら、資金を分散させるのではなく、一つの施策に集中投下し、最大限の効果を狙うべきだと判断したのです。
今後、他にも次々とイノベーションを起こしていくつもりですが、私たちには生産者や取締役会からの強いコミットメントがあります。彼らはこの事業への継続的な投資を約束してくれており、健全な投資水準を維持することができるでしょう。
――「小さなことをたくさんやる」というアプローチの方が一般的なようですが。
ウトケ メディアの観点から見ると、二極化が起こっています。消費者にアプローチする手段が多様化しているのは良いことです。より消費者に近づき、ターゲティングを細かく行うことができるからです。しかし、おっしゃる通り、お金のこととなると、どこに投資するのか、長期的にどのように成長を促進するのかという点で、私たちは本当に慎重に選択する必要があります。
――体験型マーケティングは過去にも実施してきたのでしょうか。
ウトケ 過去に成功事例があったわけではありません。私たちは2024年6月に「ロゼの日」に合わせて初めて試験的に実施しました。ボストンでロゼトラック(移動式ワインバー)を運営したのです。これは私たちにとって2つの重要な気づきをもたらしました。1つは、この地域でWelch’sのブランドがどれほど愛されているかを実感できたことです。そのとき、「これをもっと大規模に展開できれば素晴らしいのではないか」と考えました。もう一つは、単に商品を売るだけでなく、「この製品で何ができるのか」という会話が生まれたことです。これにより、新しい利用シーンが数多く生まれる可能性を感じました。
「Zero Sugar」のローンチに際して、どのような施策が最適かを検討する中で、今回のようなポップアップストアは単なる消費者向けの取り組みにとどまらず、メディアやインフルエンサーとの関係を強化する機会にもなると考えました。ニューヨークはハブとなる場所なので、この場所を選んだのは理にかなっていると思います。
マーケティングチームはSuperdigitalとともに、このスピークイージー(秘密のバー)の企画を楽しみました。向こう側には普通のボデガ(食料雑貨店)があり、こちら側ではまるで「オズの魔法使い」の世界があって、白黒からカラーに切り替わるような驚きの演出をしたかったのです。Welch'sは150年以上の歴史を持つブランドであり、豊かな歴史があります。私たちは新しい方向へ進んでいますが、これまでのWelch'sを知っている人々にとって懐かしさを感じられるような要素も大切にしたいと考えています。
――体験型マーケティングには特定のターゲット層がありますか。以前あまりアプローチしていなかった市場でしょうか。
ウトケ Welch’sはこれまでやや古いブランドだったと思います。主なターゲット層は年齢層が高めでした。しかし、今後はブランド全体でミレニアル世代やZ世代といった次世代の消費者層にアプローチしていきたいと考えています。特に「Zero Sugar」シリーズに関しては、単なる世代別のターゲティングではなく、「砂糖不使用の商品を求める人々」というセグメントが重要だと分かりました。このシリーズは、砂糖を控えたいと考えているものの、しっかりとした風味を楽しみたい人々に向けた商品であり、幅広い層にアピールできると考えています。
――Superdigitalが体験型マーケティングを担当し、Fitzcoがクリエイティブを手掛けているとのことですが、FitzcoはAORとして契約しているのでしょうか(※)。
ウトケ はい。私たちは複数の代理店と協力していますが、大規模なリブランディングの際には、Fitzcoが「Let’s Fruit Stuff Up」キャンペーンを担当しました。基本的にはFitzcoがAORという位置づけですが、柔軟な体制をとっています。
※編注:「ウェルチのCMOが語るリブランディング 脱『ぶどうジュースの会社』なるか?」で言及した通り、その後、Welch’sはAORモデルからの脱却を決定した。
――Welch’sのような伝統的なブランドが代理店との関係を築く方法は、現在ではかなり変化しているようですね。AORという概念自体の意味も変わってきているのでしょうか。
ウトケ その通りです。従来のAORの定義では、一つの代理店が全業務を担当し、長年にわたって協力関係を維持するのが一般的でした。しかし、現在の私たちは「目的に合った最適な代理店を選ぶ」という考え方をしています。Fitzcoはリブランディングに最適なパートナーでした。課題への理解とブランドへの情熱が選んだ理由です。しかし、次のイノベーションに向けては、別の方向性を考える可能性もあります。
ある意味、これは少し自己中心的な考え方かもしれませんが、ブランドにとって最高の成果を生み出すことが最優先です。限られた予算を最大限に活用するためにも、どこに投資するかを慎重に選ぶ必要があります。代理店だけでなく、リテールメディアネットワークやナショナルメディアなど、最適なタッチポイントを見極めながらリーチを拡大する戦略を取っています。ただし、一方でより特定のニーズに応える領域もあります。私たちは、長期契約に縛られず、最適なパートナーを選び、ブランド成長を最大化できる体制を築いていきたいと考えています。
――リテールメディアは急速に進化していますが、CPG(消費財)企業の間では、その高度化が投資レベルに見合うものなのか疑問視する声もあります。最大の課題とチャンスは何だと考えますか。
ウトケ 最大のチャンスは、多くのリテールメディアネットワークが消費者と直接つながっており、購買までのプロセスが明確に定義されていることです。例えば、Walmartのような企業は非常に広いリーチを持ち、消費者を深く理解する能力に優れています。そのため、広告費用対効果(ROAS)や購買データを提供してくれます。
一方で、リテールメディアにおける課題は、ブランド構築と売り上げへの直接的な貢献のバランスをどう取るかという点にあります。リテールメディアはコンバージョンに強くフォーカスされる傾向があり、長期的なブランド価値の向上とどのように両立させるかが常に課題となっています。また、リテールメディアへの投資が新たな売り上げに繋がっているかを見極める必要もあります。
――TikTokには積極的に取り組んでいますか。また、TikTok禁止措置に関する議論についてどう考えていますか。
ウトケ TikTokは、現時点では当社の主要なチャネルではありませんが、特に次世代の消費者にリーチするという観点では、間違いなく重要な領域だと考えています。最終的に、消費者はTikTokの代替となるプラットフォームを見つけるでしょう。それが新たなオーナーによる新バージョンになるのか、TikTokが現在提供しているのと同じメリットを享受できる別のメディアになるのかは分かりませんが、いずれにしても似たような環境が生まれると思います。私にとっては、これは一時的な問題にすぎず、長期的に見ればそれほど大きな懸念ではありません。
――AIにはどのように取り組んでいますか。
ウトケ 私たちは常に予算の10%を、これまでやったことのないことに挑戦するために割り当てようとしています。AIによってすでにいくつかの効率化が見られており、今後もさらに向上していくでしょう。とはいえ、AIが戦略的思考と消費者理解を学習するには、ある程度の時間がかかるでしょう。
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