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日本のリテールメディアはまず店舗から 今こそ知りたい「インストア広告」の現在今さら聞けないリテールメディアの話

今回はインストア(店舗内)広告のデジタル化という観点から、リテールメディアに注目してみたいと思います。

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 リテールメディアとは、小売業者が保有する顧客の属性情報や購買履歴などのデータを活用し、個々の顧客にパーソナライズされた広告を配信する手法です。

 米国ではオンライン領域のリテールメディアが話題になることも多いようですが、EC化率の低い日本では、小売り取引の多くが依然として実店舗で行われています。そのため、売り上げ拡大や顧客の注目を集めることを目指す小売業者、ブランド、広告代理店にとって、インストア広告について知ることは依然として重要です。

あらためて、インストア広告のメリットを理解する

 インストア広告は、店舗にいる買い物客に理想的なタイミングでリーチできるように設計されます。読者の皆さんもほぼ間違いなく、これまでにインストア広告に遭遇したことがあるでしょう。例えばスーパーマーケットの店内を歩いていて、スナック菓子売り場の棚の上方にスクリーンが設置され、そこにポテトチップスの新製品の動画広告が流れているようなケースです。

 当然のことながら、買い物客は店に来ている時点ですでに何かを買う意思を持っていると考えられます。このため、インストア広告を適切に活用することで、売り上げや買い物客とのエンゲージメントに大きな影響をもたらすことができます。

 売り場に近いというのは、他のチャネルには太刀打ちできない大きな利点です。インストア広告のメリットを整理すると以下のようになります。

  • 最も重要なタイミングで注目を集める:買い物客は購入の準備ができており、棚前に設置されているレールPOP(Point of Purchase)などを使って、買ってほしい商品に関する広告を、購入地点のすぐ近くにいる買い物客の目に触れるようにできます。
  • ブランド認知度を高める:人目を引くような大型ディスプレイやプロモーション、オーディオ(店内放送)などは、買い物客が漫然と店内を移動しているときにもブランドを常に意識させます。
  • ターゲットを絞ったメッセージングの機会を提供:例えば、ペット用品売り場にドッグフードの広告を掲示するなど、店内の特定の区画に戦略的に広告を配置することで、より効果的にオーディエンスにリーチできます。
  • 衝動買いを推進:戦略的な配置、文言での訴求と魅力的なビジュアルで衝動買いを誘います。

インストア広告のさまざまな形式

 インストア広告にはデジタル/非デジタルの、さまざまな形式があります。デジタルのインストア広告は、ダイナミックで人を強力に引き付け。対して、」昔ながらの物理的なインストア広告も、まだまだ十分な効果があります。それぞれの代表的な形式を以下に紹介します。

  • デジタル形式
    • デジタルサイネージ:デジタルPOP広告は、買い物客の目を引く、鮮やかで心を打つ広告を表示できます。最新のプロモーションや商品、ブランドメッセージを流すよう簡単に更新できます。
    • インタラクティブキオスク:買い物客はブランドとやり取りしたり、詳しい製品情報にアクセスしたり、あるいは店舗から直接注文したりできます。
    • モバイルビーコン:こうしたデバイスは、買い物客が店内を移動する際に彼らのスマートフォンにターゲット広告やオファーを送信し、パーソナライズされたショッピング体験を創出します。
  • 非デジタル形式
    • 印刷ディスプレイ:ポスター、バナー、レールPOPなどは、視覚的なインパクトがあり、特別提供品や新製品の販促に最適です。
    • 製品サンプルと実演:購入前の買い物客に商品を試してもらうことは、強力な動機付けになります。サンプル配布スタンドや実演によって、買い物客は直接商品に触れることができます。
    • 床面グラフィック:床にインパクトのあるグラフィックがあると、買い物客を特定の商品やキャンペーンに誘導でき、ショッピングのジャーニーに影響を与えます。

インストア広告の課題と進化する計測手法

 クリックやコンバージョンを簡単にトラッキングできるデジタルチャネルとは違い、インストア広告キャンペーンは効果の正確な評価が常に難しく、難航してきました。人目を引くディスプレイが実際に販売につながったかどうか、あるいは、床面グラフィックが買い物客を特定のブランドに誘導したのか、厳密に計測することに課題があります。このような疑問があるため、これまでのインストア広告はどうしてもブラックボックス化する傾向にありました。

 しかし、テクノロジーの進歩によりギャップが急速に狭まり、インストア広告をいまだかつてないほど正確に評価および分析できるようになってきています。例えば以下のような新しいツールにより、買い物客の行動をトラッキングし、インストア広告の効果を評価することが簡単になりました。

  • スマートセンサーとカメラ:これらのデバイスは人の往来をモニターし、買い物客の店内での行動データを収集できるため、どの広告が彼らの注意を引いているのかのインサイトを提供します。
  • 無線自動識別(RFID)およびBluetoothビーコン:これらのテクノロジーは、買い物客が特定の商品といつ関わったかをトラッキングし、広告の有効性をより明確にします。
  • POSデータ統合:販売時点(POS:Point of Sales)データをインストア広告キャンペーンと統合すれば、広告露出と実際の購入を関連付けでき、発見と購入のギャップが埋まります。

 データドリブンなインストア広告の台頭も見られます。オンラインのリテールメディアネットワークの登場により、小売り業者は今や、以下のようにファーストパーティーデータをインストア広告の強化に活用できるようになりました。

  • 顧客ロイヤルティープログラム:ポイントサービスをはじめとするロイヤルティープログラムから得られるデータは、特定の顧客セグメントに合わせてインストア広告を調整するのに役立ち、広告をより関連性が高く効果的なものにします。
  • パーソナライズされたオファー:ファーストパーティーデータの活用により、買い物客のスマートフォンにパーソナライズされたオファーを配信でき、ショッピング体験を向上するとともに販売を促進できます。

インストアリテールメディアとは?

 インストアリテールメディアは従来のインストア広告やDOOH(デジタル屋外広告)に似ているものの、重要な違いがあります。それは、顧客データを活用してリアルタイムのターゲティングを行うことです。

 インストアリテールメディアはまだまだ新興のチャネルですが、陳列棚エンドスクリーン、スマートカートのディスプレイ、セルフレジのスクリーン、さらにはセルフスキャンハンドセットといった革新的な広告フォーマットが、米国市場を中心に見られるようになっています。

 インストアリテールメディアは、そのデータドリブンなアプローチにより、ロイヤルティープログラムから得られる顧客に関するインサイトを利用して、特定の買い物客の嗜好や行動に合わせた広告を調整できます。このパーソナライゼーションにより、適切なメッセージが適切なタイミングで適切な買い物客に確実に届くのです。

インストア広告の成功を評価するために

 では、実店舗での広告や店内アクティベーションを、デジタルチャネルの即時トラッキングやアトリビューションに合致させられない場合、小売業者や広告主はどのようにしてインストア広告の成果を評価すればよいのでしょうか。インストア広告を計画している場合に考慮すべき基本的KPIを、以下にいくつか紹介します。

  • 人の往来:入店した買い物客の人数や特定のインストア広告の近くを通った人数をトラッキングします。
  • 滞在時間:買い物客が特定のインストア広告やディスプレイの前でどれくらい長く滞在したかを測定します。
  • コンバージョン率:ある広告と触れ合った後に購入に至った買い物客の割合をトラッキングします。
  • セールスリフト:広告キャンペーンを打つ前後の売上データを比較し、商品売上の増加を測定します。
  • 顧客エンゲージメント:アンケートなどのツールやロイヤルティプログラムのデータを利用して、広告に対する顧客のインタラクションと満足度を評価します。

インストア広告はノンエンデミックブランドにも有効か

 一般的にインストア広告はエンデミックな、つまり広告が展示される該当の店舗に商品を卸して販売しているブランドのためのものだと考えられています。しかし、それが全てではありません。広告が展示される該当の店舗に商品を卸して販売していないノンエンデミックな広告主も、インストア広告で成果を期待することができます。

 例えば旅行ブランドが食料品店に広告を出すことを考えてみてください。スーパーと旅行には一見何の関係もないように見えるかもしれませんが、そこには毎日多くの人が往来します。買い物客の多くは目の前の買い物のことだけを考えて生活しているわけではありません。次の休暇の計画を練っている人も少なくないでしょう。

 見慣れた風景の中で広告を目にしたブランドは、買い物後に思い出す可能性が高くなります。さらに、同じ広告が日焼け止めクリームやスーツケースなどより関連性の高い商品の売り場近くに掲示されれば、そこにコンテクスト(文脈)が生まれます。

 そして、忘れてならないのがデータです。先述したインストアリテールメディアの進化により、広告主はより正確なターゲティングと評価ができるようになりました。例えばフィットネスのアプリのインストールを促進したいとして、それをスーパーマーケットで物理的に販売することはできませんが、そこで広告を打つことで、新しいワークアウトプログラムに目を光らせている健康志向の買い物客の目にとまるかもしれないのです。

寄稿者紹介

牧野臨太郎

牧野氏

まきの・りんたろう Criteo 日本リテールメディア事業責任者。Retail Media / Mone部門統括としてリテールメディアを推進。新卒で楽天グループ入社した後、Criteoに転職。Mid-Market Sales, Large Customer Client Partnerチームを立ち上げる。その後、SSPのIndex Exchangeに転職してアドテクのデマンド、サプライ双方を経験。2022年にCriteoに再度ジョインし、2023年4月から現職。


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