「怒り・恐怖」でクリックを生まない“ポジティブなSNS”は本当に作れるか BuzzFeedが挑戦:Social Media Today
BuzzFeedが脱「SNARF」のポジティブなSNSを立ち上げる。狙いは何か。
毎年数回、話題性のある新しいソーシャルメディア(SNS)が登場し、マーケターたちは「プロフィールを作成する価値があるか?」や「どのようなビジネスチャンスがあるか?」といった疑問を抱くようになる。通常、私がこうした新しいアプリを取り上げる基準は「ユーザー数が1000万人を超えているかどうか」だ。それ以下であれば、話題性がどれだけあっても、実際の影響力は限られているからだ。結局のところユーザー数が少なければ、誰も本当には気にしない。
しかし、今回は例外とする。なぜなら、BuzzFeedの取り組みは極めて異例だからだ。インターネット発の企業が自ら主導権を握り、独自のソーシャルアプリを作ろうとするのは、これが初めてのことだ。
既存SNSがハマった「SNARF」の呪縛を抜け出せるか
上の画像は、BuzzFeedの新しいソーシャルメディアアプリ「Island」のWebサイトに掲載されていたものだ。もっとも、正式な名称はまだ発表されておらず、URLから推測して「Island」と呼んでいるにすぎない。
分かっているのは、Webメディア企業であるBuzzFeedが現CEOのジョナ・ペレッティ氏の下、自社のソーシャルネットワークを構築しようとしているということだ。目的は、現在主流のソーシャルメディアがもたらす負の影響に対抗することにある。こうした影響の多くは、AIベースのアルゴリズムによって引き起こされている。これらのアルゴリズムは、何よりもエンゲージメントを最優先に最適化されている。
ペレッティ氏は次のように説明している。
ディープラーニングAIは、ユーザーがアプリに費やす時間を最大化するよう設計されている。アプリ運営会社がコンテンツの質を気にせず、AIに使用時間の最大化を求めれば、その結果として生まれるのは「依存性を最大化するコンテンツを奨励するサービス」だ。AIが作成・推奨するのは最良のコンテンツではなく、人間の脳が最も衝動的かつ予測可能な反応を示すコンテンツなのだ。
「感情的な反応こそがクリックを生む」ため、コンテンツのパフォーマンスを最大化するには、強い感情を引き起こすアプローチが有効になる。これはインターネット全般におけるよく知られたバグの一つだ。
さまざまな研究によれば、「怒り」と「恐怖」が最も効果的な感情のトリガーであり、その結果、メディアやクリエイターはこうした感情を煽るコンテンツを作るよう促される。そして、これこそが今日の政治的分断を引き起こしている主要な要因の一つであると考えられる。
ペレッティ氏はこの種のコンテンツを「SNARF」と呼び、AIアルゴリズムによってこれがさらに増幅されていると指摘する。
この手のコンテンツには誰もが見覚えがあるだろう。特に、日常的にオンラインに張り付いている人々ならなおさらだ。コンテンツ制作者は、コンテンツを緊急かつ実存的なものにするために、利害関係(S:Stakes)を誇張します。彼らは目新しさ(N:Novelty)を作り出し、コンテンツを前例のないユニークなものにします。彼らは怒り(A:Anger)を操作し、人々の憤りを煽ることでエンゲージメントを促進します。彼らは情報を情報を小出しにし、最後まで視聴させることで滞在時間(R:Retention)を高めます。そして、コンテンツに注目を集めるために、彼らは恐怖(F:Fear)を煽ります。
興味深いのは、BuzzFeedがこのアプローチの大きな恩恵を受けている企業の一つだということだ。
BuzzFeedはMetaの強力なアルゴリズムに合わせ、特にFacebook上でユーザーを引き付ける見出しを掲載してきた。しかし今、ペレッティ氏はこの流れに異を唱えようとしている。つまり、こうした依存性を生み出す手法に頼らない、新しいソーシャルネットワークの構築を目指しているのだ。
世間は徐々に気づき始めています。このシステムが壊れていることを皆が理解しつつあります。そして、人々は今までとは違うものを求めるようになっているのです。
では、BuzzFeedの新しいソーシャルネットワークは、既存のそれと何が違うのか。
ペレッティ氏によれば、新たなプラットフォームでは「人間によるキュレーション」を維持し、「単なるドーパミンの刺激ではなく、本当に価値のあるストーリー」に焦点を当てるという。
私たちはあなたに代わってドゥームスクローリング(ネガティブなニュースを延々と見続ける行為)をします。だから、あなたは主要なトレンドを追い、隠れた名コンテンツを見つけ、重要な話題を把握しつつも、時間を無駄にしたりメンタルヘルスを損なったりすることはありません。また、怒りや恐怖に対抗する手段として、ユーモアの力を活用し、権力者たちの滑稽さやバカバカしさを笑い飛ばします。
この構想には、HuffPostやTasty、その他のBuzzFeed関連ブランドが統合される予定であり、どちらかというと「ソーシャルネットワーク」というより「ニュースアプリ」に近いものになるようだ。
しかし、ペレッティ氏はこれを「ソーシャルメディアの代替」として提案しているため、その実態がどのように形作られるのか、しばらく様子を見る必要があるだろう。
私たちは、コミュニティーの喜びや人間性を守り、それを称賛することを目指します。SNARFは確かにエンゲージメントを生むかもしれません。しかし、私たちが適切に運営すれば、ユーモアや喜び、そしてほんの少しの正義の怒りを武器に、人々の心をつかむことができるはずです。また、セレブの話題やショッピング、人生相談といった、純粋に娯楽として楽しめる低リスクなコンテンツを提供し、インターネットに再び楽しさと遊び心を取り戻します。
正直なところ、このコンセプトが本当に機能するのかどうかは疑問だ。ましてや、既存のソーシャルメディアに対抗できるようなプラットフォームになるとは考えにくい。そして、実際には「BuzzFeedの既存プラットフォームを統合し、洗練させたアプリ版」という印象が強く、純粋なソーシャルメディアとは言えない気がする。もしかすると何か別の要素が隠されているのかもしれないが。
ペレッティ氏はさらに、「このプラットフォームはAIを活用してユーザーの主体性を奪うのではなく、それを支援する」と述べている。
構想としては魅力的に聞こえるが、実際の運用を考えると「BuzzFeedのコメント欄が一つのアプリとして独立する」ようなものになりそうだ。
そもそも、ソーシャルネットワークとは「ユーザーが自由にコンテンツを投稿できる場」であり、特定のメディアが情報を一方的に発信するものではない。ペレッティ氏自身もこの点を十分理解しているはずであり、彼の業界における豊富な経験を踏まえると、この新プラットフォームにどのような仕掛けを取り入れてくるのかは興味深い。
また、ペレッティ氏の指摘する「現在のソーシャルメディアとデジタルアルゴリズムがもたらす問題」については、私もほぼ全面的に同意する。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、人々の思考を二極化させ、感情的で部族主義的なセンセーショナリズムへと誘導する構造になっている。
メディアが生き残るためには、ある種の「立場を取る」ことが求められ、その「私たちvs彼ら」という対立の構図が次第に固定化され、分断を深めてしまう。
情報のエコシステムは崩壊している。しかし、これを修正する唯一の方法は、プラットフォームの「報酬の仕組み」を変え、「エンゲージメントではなく正確性が評価されるシステム」を構築することだろう。
ただし、それでもセンセーショナルなコンテンツを求める人がいなくなるわけではないし、「正確性を優先するアルゴリズム」自体が新たな偏向を生む可能性もある。
しかし、ペレッティ氏はこうした課題を誰よりも理解しているはずだ。だからこそ、彼がこの問題にどう取り組むのかは注目に値する。
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