Webマーケティングの「PDCA」がうまく回らないのはなぜ? 要因と対策まとめ: 【新連載】小川卓の「学び直しWebサイト改善」
Webマーケティング活動を(今度こそ)成功させるための考え方や、よくある落とし穴、そしてその回避方法、事例などを一から学び直しましょう。
この連載について
近年ビッグデータの活用が進む中で、WebマーケティングやUX改善においては、膨大なデータを分析して個々の顧客に最適な施策を実行することが求められています。CDP(顧客データプラットフォーム)やWebサイト分析ツールも多くの企業で取り入れられるようになってきました。
そこで重要となるのがWebマーケティングにおけるPDCAサイクルの回し方やKPIの設定の仕方、CROの手法、GA4でのデータ収集・分析について正しい知識を持つことです。
この連載では、Web分析のプロフェッショナルである小川卓氏が、Webサイト改善のための分析やその手法について、上流から下流まで、さまざまな視点から全12回にわたり解説します。
Webマーケティングにおける「PDCA」は当たり前のように使われている用語であり、その大切さは昔から指摘されています。私自身、アクセス解析に取り組んで約20年となりますが、PDCAの必要性は全く変わっていないと思っています。しかし、うまくくいっていないケースも、いまだに散見されます。
本連載では、Webマーケティング活動を(今度こそ)成功させるための考え方や、よくある落とし穴、そしてその回避方法、事例などを、理論だけではなくなるべく具体的に紹介します。ここで得たことを通じて皆さんの業務が少しでもスムースに進み、改善施策の実行回数と成功確率が上がれば幸いです。
Webマーケティングにおける「PDCA」とは結局どういうこと?
それでは、あらためてWebマーケティングにおけるPDCAとは何かを紹介します。
- Plan(計画)
- KGIやKPIを決める(改善するべきことと、しないことを明確にする)
- 決めた目標に対して必要なデータを明確にする
- PDCAを回すための体制を明確にし、担当をアサインしていく
- Do(実行)
- データの取得設計をして、データを取得する
- 取得したデータを分析し、検証したい仮説を施策に落とし込む
- A/Bテストを行いつつ施策を実行する
- Check(評価)
- 実行施策の結果を確認し、その内容を保存する
- 結果の原因(改善・変化なし・改悪)をデータ分析を通じて行う
- Action(改善)
- 評価を基にして得られたユーザーに対する気づきを共有
- 施策および一連のPDCAプロセスで得られた気づきを議論し、次のPlanにつなげる
PDCAのサイクルにおいてはまずPlanをしっかり決めることが、その後のサイクルの進めやすさ、施策の成功確率アップにつながります。この段階で最も大切なのは「データを可視化し、分析することで現状を正確に把握する」ことです。
とはいえ、近年のWebマーケティングでは扱うデータの種類が豊富で、それらが単一の部門で一元管理されているわけではありません。そのため、実施した施策が各種データにどのように影響を与えているのかを追い切れない場合が多く見受けられます。
例えば以下のようなデータを基にKGI(重要目標達成指標)の達成状況を評価するには、適切なKPI(重要業績評価指標)の設計と必要なデータをしっかり計測できる体制を整えることが不可欠です。
プロセスとしては以下のようなものになります。
- ビジネスゴールを明確にする(指標・値・期間の設定)
- ビジネスゴールに到達するまでのカスタマージャーニーを洗い出す
- ジャーニーを可視化するために現在取得できているデータと、取得できていない部分を洗い出す
- 数値を確認し、特に課題(離脱が多い・施策が実行できていない)部分をKPIとして設定する
- 設定したKPIのデータを取得できる状態にする
分析すべきデータ種別は多岐にわたりますが、以下は多くの企業にとって重要度が高いデータとなります。
- Webサイトの解析データ
- オンライン広告関連データ
- SNS関連のデータ
- CRMデータ(入力フォームで取得した情報やヒアリングして得た情報)
- メール関連データ
- 基幹業務データ
WebマーケティングのPDCAがうまく回らない要因と対策
WebマーケティングのPDCAが回らない要因は会社によってさまざまです。PlanするけどDoしないのか、DoするけどCheckしないのか、CheckするけどActionしないのか、ActionするけどPlanしないのか。いずれか、あるいは複数の要因が重なって、止まってしまうのです。ただ、どのようなケースであれ、どのステップで止まっているかを明確にすることが大切です。
以下に、それぞれのステップが止まってしまう理由と対策をまとめました。
- PlanからDo
- ActionableなKPIを設定できていない。
- 施策が思いつかない・実行ができないKPIを設定している場合は、KPI自体を見直す必要がある。施策が実行できなければ改善は行えない。
- 効果が予測出来ずに施策のDoが承認されない。
- 最低改善ラインを決める(+10%や過去数カ月に移動平均を超えるなど)。誰も未来を読むことはできないので、必要なのは精度ではなく判断材料。
- そもそもPDCAプロセスが明確ではない。
- PDCAを回すためのフローチャートを作成し、必要な関係者に共有。実行するための環境を整備する。
- ActionableなKPIを設定できていない。
- DoからCheck
- 施策を実行することが目的となってしまっている。
- レポートの(半)自動化。施策を共有するミーティングの開催
- 確認の仕方が分からない。
- 解析ツールの使い方の教育、アナリストの内部OR外部活用、施策実行前に現状の数値を確認するルール作り。
- 確認を忘れている、報告しなくてもよい体制になっている。
- 施策管理表の記入整備やミーティングを実施する。
- 施策を実行することが目的となってしまっている。
- CheckからAction
- 数値変化あるいは無変化の原因が分からない。
- 外部パートナーの活用、分析スキルの向上(勉強会など)、ABテストやヒートマップでの検証、施策管理表の記入整備する。
- KGIに与えたインパクトが分からない。
- データ環境の整備、KPIの設定し直し、KGIに影響を与える箇所の施策を優先的に行う体制を整える。
- 数値変化あるいは無変化の原因が分からない。
- ActionからPlan
- 次の施策が出てこない。
- 施策の報告会などでブレストを行う、施策管理表の運用による事例(後から作るのではなく、管理表を埋めれば自動的に事例化)を促進する。
- 今回の施策は今回限りで次に生かされない。
- 施策でユーザーについて理解できたことを優先的に整理する、PDCAプロセス自体の振り返りを行い、次に生かす。
- 次の施策が出てこない。
目的を見失わないために
流入目標は達成したもののコンバージョンが思うように伸びなかったり、単価は上がったが新規流入が少なくて期待していたほどスケールしなかったりすることがあります。これらの課題に直面した場合、問題の所在を明確にし、改善策を見つけることが重要です。 実際、最終的な目的は施策を実行することではなく、“売り上げを〇〇円に上げる” ことにあります。そのためには、施策を進める過程で分析を行い、シミュレーションを重ね、適切に評価・改善を繰り返せる体制を作ることが大切です。
そのために、必要なデータをしっかり確認できるレポーティング環境の整備が求められます。データが不十分な場合、改善に関する会議を開いても、結局その場でデータを再調査する時間が多くなってしまいがちです。限られたリソースや予算、時間の中で施策を実行している場合、次の施策が後回しになり、PDCAサイクルが滞ってしまう原因になります。
例えば私たちの場合、クライアントとのPDCAをしっかり回すために、以下の準備を行っています。
- ユーザー動向を測定できる判断基準となるデータを定義する
- 事前にシミュレーションを行い、中間ゴール(KPI)を設定する
- KGI達成に必要なKPIのデータを日々確認できるサマリーシートやダッシュボードを作成する
- サマリーシートやダッシュボードを使って定期的にミーティングを実施する
PDCAを回す最大のメリットは、もし進捗が思わしくない場合でも、どの段階に問題があるのか、どの施策(仮説)で改善できるのかを具体的に特定し、次のアクションにつなげられる点です。もし参考になる点があれば、ぜひ実践してみてください。
連載第2回目となる次回は「Webサイト改善を実現するための「登る山(ゴール)」と「登り方(KPI)」の決め方について、解説します。
執筆者紹介
小川卓
おがわ・たく UNCOVER TRUTH CAO(Chief Analytics Officer)。Webアナリストとしてマイクロソフト、ウェブマネー、リクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパンなどで勤務。解析ツールの導入・運用・教育、ゴール&KPI 設計、施策の実施と評価、PDCAをまわすための取り組みなどを担当。全国各地で講演を毎年40回以上行っている。
UNCOVER TRUTHについて
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