2025年のマーケターが「生成AIでテレビCMを作る」よりも優先すべきことは?:Marketing Dive
AIが生成した広告に対する反発が続いた1年を経て、マーケターはパフォーマンス重視で非難を受けにくい「裏方」の機能にこそ注目し始めている。
マーケティング担当幹部の間では、生成AIに対する意見が、熱狂的な支持から警戒的な見方まで幅広く分かれている。しかし、多くの人が共通して感じているのは、2025年に向けてこの技術が「以前ほど魅力的ではなくなっている」ということだ。ただし、それは必ずしも悪いことではない。
2024年に生成AIを活用したキャンペーンが厳しい批判にさらされたことを受け、現在では自動化ツールによって効率性を高め、規模を拡大し、消費者からの反発を避けるといった「裏方の機能」に注目が集まっている。OpenAIの「Sora」のような最新ソフトウェアを試すよりも、カスタマージャーニーの分岐点を分析したり、合成オーディエンスデータを用いたターゲティングのテストを行ったりする方が、少なくとも短期的には、有意義な成果をもたらす可能性がある。
今後数カ月の間に、具体的な成果を求める声が高まり、AI市場における勝者と敗者が明確になっていくだろう。また、DeepSeekのR1モデルのような新興の破壊的イノベーションがコスト削減の圧力を強めることも考えられる。
生成AIに乗り遅れたくないマーケターがたどる末路
デジタルエージェンシーRazorfishのCEO、ジョシュ・カンポ氏は「『AIが勝手にテレビCMを作り始めるか』というのは、飲みながら議論するには面白い話題だ。しかし、私たちが今いる現実の世界では、生成AIにできることは他にもっとたくさんある。それは生産性に劇的な影響を与えるような使い方だ。人間がやりたがらない作業こそ、AIが最も得意とするところだからだ」と語る。
生成AIは、マーケティング担当者が長年直面してきたジレンマを浮き彫りにしている。それは、最新のテクノロジートレンドをキャッチアップする必要性と「シャイニーペニー(光る新しいもの)」に飛びついて失敗するリスクとのバランスだ。
実際、ここ数年でマーケターは何度もこの「シャイニーペニーシンドローム」にはまってきた。例えば、メタバースのような一大ブームに賭けたものの、すぐにその野望を放棄し、結果としてデジタルの廃墟を生み出してしまったケースも少なくない。
AIは、これまでのトレンドとは異なり、変革をもたらす可能性が極めて高い技術と見なされている。この分野には莫大な投資が流れ込んでおり、当面の間、その勢いが続くことは確実だ。ドナルド・トランプ大統領は、前政権が導入したAI規制をあっさりと撤廃し、AIを政権のインフラ政策の重要な柱に据えている。しかし、こうした追い風はあるものの、技術が高い期待に応えられなければ、むしろビジネスの成否を分ける要因になりかねない。2025年には単に「AI搭載」とラベルを貼るだけでは通用しなくなるだろう。中国のDeepSeekは、わずか数日で業界に衝撃を与えた。同社のモデルは、従来の米国先行企業に比べ、はるかに低コストで高品質な出力を実現している。コスト削減を迫られる大企業にとって、このアプローチは非常に魅力的に映るだろう。
「顧客は、AIが顧客の望む結果を生まないのであれば、AIを導入しても誰も関心を持たないと思います。今年は、業界が本当にその成果を出さなければならない年です」と、広告プラットフォームYieldmoのCMOを務めるリンジー・ディジョルジオ氏は語った。
不安の増大
2024年、生成AIに対する消費者の熱狂はしぼみ始めた。この技術を使って制作された広告や、その利点を宣伝する広告が繰り返し嘲笑の的となったためだ。GoogleやAppleといったテック大手は、視聴者にディストピア的な警告を発するようなコマーシャルを撤回するまでに至り、Coca-Colaが年末に実施したホリデーキャンペーンは、特に物議を醸す結果となった。
これらの試みは、豊富なリソースと高度な技術力を持ち、長い歴史を誇るブランドマーケターたちによって行われたものだった。しかし、その実績はあまり意味をなさないようだった。一部のブランドは引き続きAI生成の広告クリエイティブに積極的な姿勢を維持するだろうが、2024年の冷ややかな反応は、今後数カ月の市場の雰囲気を左右する可能性がある。実際、最近の消費者調査でも、こうした傾向が浮き彫りになっている。
NielsenIQ(NIQ)が2024年12月に発表した調査結果(外部リンク/英語)によると、消費者は一貫して、AI生成の動画広告を従来の広告よりも「わずらわしい」「退屈」「混乱を招く」と評価した。AI生成のコンテンツが高品質と認識された場合でも、調査対象者にはそれほど強い印象を与えず、視聴者は無意識のうちに何かがおかしいと感じていた。
AIにクリエイティブの主導権を握らせることへの不安の高まりには、「不気味の谷」の問題が関係している可能性がある。YieldmoとAscendant Networkのレポートによると、マーケターの3分の1以上(38%)が、生成AIを大規模なマーケティングキャンペーンに適用することに強い抵抗を感じているという。このため、AIを前面に押し出すのではなく、既存の映像を補強する形で活用する「ハイブリッド」なアプローチを選ぶマーケターが今後増えていくかもしれない。
クリエイティブエージェンシーAnomalyのクリス・ネフ氏(新興エクスペリエンスとテクノロジー担当グローバルヘッド)は「生成AIを使っていることは、今後ますます目立たなくなっていくと思います。手法はよりハイブリッド化し、組み合わせて使われるようになるでしょう。そして、その結果としてコストも下がるはずです」と語る。
マーケティングリーダーの間では、AIが瞬時に大量の似たようなコンテンツを生成できることが、ブランドの独自性を損なうリスクにつながるのではないかという懸念も広がっている。特に、顧客のロイヤルティーが重要視される今、この問題は深刻だ。American EagleのCMOであるクレイグ・ブロマーズ氏は最近の業界カンファレンスで、AIによって生み出されるコンテンツが「画一的なクリエイティブ(generic creative)」になりがちだと懸念を示した。さらに、ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(包括性)を重視するAerieのようなブランドにとっては、これがブランドの本質的な価値を損なう可能性があると指摘した。業界関係者の中では、AIが人間の持つ偏見をさらに助長するのではないかと警戒する声もあり、こうした不安は広く共有されている。
NIQのBases Advertising担当バイスプレジデントであり、AIと広告に関する研究の著者でもあるメーガン・ベルデン氏は「この問題には、ダイバーシティとインクルージョンという観点も大きく関わっています。AIは既存のデータを基に学習するため、必ずしも最善の表現を生み出せるわけではありません」と語る。
(続く)
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