CMOはなぜ短命? なぜ軽視される? いま向き合うべき3つの厳しい現実:2025年のCMOの課題
プロダクト分析ツールを提供するAmplitudeのCMOが、2025年のマーケティングリーダーに課せられた課題とその解決に向けた取り組みについて語る。
企業の上級役員の流動性は役職によってさまざまですが、欧米においてCMO(最高マーケティング責任者)の在職期間は一般的に短いことが知られます。また、米国では2024年の3月にコーヒーチェーンのStarbucksやモール型ECサイトのEtsyといった大手企業が次々とCMO職を廃止したことも話題を呼びました。
CMO職の入れ替わりが激しいかったり立場が軽視される主な要因としては、そもそもマーケティング活動とそれに対する投資に関して、経営陣の理解を得ることが難しく、CMO自身がマーケティング施策の効果測定に苦戦していることが、考えられます。
全てのCMOがいま向き合うべき「3つの厳しい現実」
Gartnerが2022年に実施した調査では(調査対象の)CMOのうち、自社の活動の価値を実証できると考える割合は半数未満であることが明らかになりました。
CMOにいま求められていることは、マーケティングの価値を誰もが理解し得る言語、つまり金銭的価値や収益性として提示することです。CMOはマーケティングチームを自社の成長にとっての効率的な原動力として位置付ける必要があります。すなわち、短期的には各施策を成功に導きつつ、会社に与える長期的な影響ともバランスを取らなければなりません。マーケティング活動によって自社に何がもたらされ、どのような価値となるのかを明らかにすることは、信頼を得るための必須条件です。
CMOはまず、ここで挙げる3つの厳しい現実としっかり向き合わなければなりません。
厳しい現実その1:ビジネスへのインパクトの測定なくして信頼は得られない
CMOには幅広い職責が伴います。マーケティング活動は複雑で、ブランド認知にはじまり、パイプライン作成、顧客ライフサイクル、プロダクトマーケティング、顧客コミュニティー、アドボカシーなどが含まれます。各活動を円滑に遂行することが求められる一方で、マーケティングがビジネスに与える影響への説明責任もあり、非常に難しいテクニックが必要とされます。
ビジネス上のインパクトを測定する際には、常に経営陣と目線を合わせる必要があります。マーケティング活動によって何が創出され、今期にどのようなインパクトが見込まれるのかを明確にしなければならないからです。最終的なマーケティング活動によるインパクトが不明瞭だと、チームの努力が正しく評価されません。
経営陣との連携は、現時点でどのプログラムが最も重要なのか認識を合わせることにもつながります。時には予算を理由にプログラムの優先順位が下がり、想定通りの実行が困難になることもあります。
優先順位を決定する際は、まずはデジタルチャネルとプログラムを追跡してから、LTV(顧客生涯価値)とそれに対するCAC(顧客獲得コスト)を測定します。この方法を取ることで、一番良いリターンをもたらすチャネルを特定し、予算とリソースを適切に配分できます。
最終的には、マーケティング活動からパイプラインを構築し、収益に寄与することが求められます。社内の主要なステークホルダーたちと連携しつつ、上記のようなマーケティング活動が与える明確な影響を提示することで、信頼を構築できます。
B2Bの営業活動においては、CMOは一般的に、ABM(アカウントベースドマーケティング)やターゲットを絞った企業向けイベントを通じ、パイプラインの加速に寄与することが求められます。ABMにおいて多くのCMOは「オールバウンド(インバウンド+アウトバウンド)」のアプローチを採用します。これにより、同一アカウントをターゲットとする活動において、セールス、パートナー、マーケティングで数字を共有し、連携するのです。こうした連携にはチーム間の信頼が求められますが、効果的な連携が達成されれば、CMOはビジネス全体で信頼を構築できます。
厳しい現実その2:顧客への理解なくして信頼は得られない
繰り返しになりますが、マーケティング活動には幅広い職責が伴います。中でもカスタマージャーニーに関して、CMOという地位は特権的です。CMOの業務には、顧客との関係構築と維持に加え、顧客からのフィードバックの収集、自社のソリューションを使った成功事例の紹介といったことも含まれます。CMOはカスタマージャーニー全体を深く理解し、その知見を社内に広げることができる立場にあるわけです。
顧客ニーズへの理解が深まることで、プロダクトチームとGTM(市場開発)チームは、よりスマートな意思決定をし、優れたデジタルエクスペリエンスを構築できます。それを主導するCMOは「究極の統合者」とも言えるでしょう。
私たちAmplitudeのマーケティングチームでも、さまざまな方法でユーザーのエンゲージメントを追跡していますが、最初に挙げる指標は有効更新率です。私たちのグロースマーケティングチームは、有効更新率を収集することで、リテンション率だけではなく、プロダクト内の顧客体験の有効性の理解に役立てています。
顧客エンゲージメントを向上させる上で、企業はプロダクト内と外の体験の橋渡しをしなければいけません。製品関連のデータではユーザーのプロダクト内での体験を理解することができますが、ユーザーと直接つながる上では、CAB(カスタマーアドバイザリーボード)やユーザーグループなどのプログラムが役に立ちます。これらの活動から貴重なインサイトを得ることで、社内での理解はより深まります。
Amplitudeのチームは、オンラインコミュニティーのアクティビティーも追跡しています。コミュニティーは顧客体験の延長線上に存在するからです。プロダクト外で私たちのブランドとエンゲージする人物や、彼らの直面する課題、彼らの新たなアイデアをより深く理解できるよう、毎週のアクティブなコミュニティーメンバー数を測定しています。
CMOは、カスタマージャーニーへの対応という職責に正面から向き合うべきです。こうしたプロセスは、紆余曲折を経て、最終的には信頼の構築につながります。CMOが顧客の要望やニーズに対する深い理解を示すことができれば、CMO以外の上級役員からもマーケティングに対する信頼を勝ち取ることができます。
厳しい現実その3:関係の構築なくして信頼は得られない
マーケティング活動には部門横断的な性質が伴うため、いかにステークホルダーたちとつながり、影響を与えられるかが重要です。私はよくこの状況を、コンセンサスを取ろうとしている議会に例えて、CMOの役割を「超党派法案を可決させる方法を見出すこと」と言っています。
セールスチームは戦術的かつ現実的であり、シンプルかつ明確で、分かりやすく、スピーディーなマーケティングコンテンツを求めます。一方、プロダクトチームはマーケティング部門に対し、自らの開発した機能の複雑な技術を紹介してほしいと考えます。彼らは正確さを重要視し、自らの仕事がどのように紹介されるのかについて強くこだわる傾向があり、満足のいく結果が出るまで何度もやり直そうとします。
これら2チームのバランスを取るには、時間を要します。マーケティング部門が板ばさみとなり、譲歩を強いられることも珍しくありません。しかし、それは必ずしも、マーケティング部門が従順なイエスマンになることを意味するものではありません。
私は、以前勤めていたSAPで、地域のセールスリーダーから担当地域でイベントを主催したいと提案されたことがありました。彼らの要望は明確でしたが、私は「イエス」とは答えませんでした。データを分析し、コストとパイプラインの観点から開催すべきではないと判断したからです。
一方で、彼らのニーズをしっかりと理解していることを示す目的として、ロードショーシリーズのような小規模な地域イベントを開催することで、その地域での認知度を高めつつ、現ユーザーと顧客ターゲットとのつながりを深めることを提案しました。
このアイデアを実行した結果、地域のパイプラインは大幅に拡大されました。必要な場合には異議を唱えながらも戦略と目標についてアラインメントをこと取るで、社内の摩擦を緩和し、成長を促進できることが実証されました。
結論として、全てのビジネス、そしてマーケティングチームは、常に収益性と成長を念頭に置くべきです。こうした成功を実現するには、関係こそが重要な要因です。CMOとして構築する関係は必ずしも容易ではなく、自然に構築されるものでもありません。それでも、チームや顧客の信頼構築さえできれば、どんなときでもマーケティングチームがビジネス全体に良い影響を与えることは可能だと、私は信じています。
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