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2025年のデジタル広告業界の展望 日本のマーケターの優先メディアと課題は?IASが「The 2025 Industry Pulse Report 日本版」を公開

IASは、2025年におけるデジタル広告業界の主要なトレンドについて掘り下げたレポート「The 2025 Industry Pulse Report 日本版」を公開した。

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 Integral Ad Science(IAS)は、デジタル広告業界の動向を予測する年次調査レポート「The 2025 Industry Pulse Report 日本版」を公開した。同調査は2024年9月、日本のデジタル広告業界の専門家216人(広告主86人、代理店80人、媒体50人)を対象に実施した調査の結果に基づくもの。2021年から毎年実施しており、今回で5回目になる。

2025年の優先メディア2位はソーシャルメディア、1位は?

 サイバーエージェントが実施した調査では日本の動画広告の市場規模は2025年に8212億円、2027年には1兆円を突破すると見込んでいる(関連記事:「2023年の動画広告市場は前年比112%の6253億円 縦型動画広告が高成長――サイバーエージェント調査」)。

 今回のIASの調査でも、2025年に日本の広告業界で最も優先すべきメディアとして挙げられたのは「デジタル動画」(51%)となった。2位は「ソーシャルメディア」(42%)、3位は「検索」(37%)が続いた。直近5年における優先すべきメディアの推移は以下の通りだ。


優先メディアの推移(出典:IAS「The 2025 Industry Pulse Report 日本版」、以下同)

 また、専門家の49%が、2025年に最もイノベーションの可能性を秘めたメディアとして「デジタル動画」を評価している。デジタル動画在庫の急速な拡大により、アドフラウドとブランドリスクへの懸念も引き起こしている。


最もイノベーションの可能性を秘めたメディア

 デジタル動画キャンペーンのパフォーマンス評価において重要視している事項としては「アテンション計測」(71%)が多く挙げられた。アテンション計測とは個々のユーザーが広告にどれだけ興味を持ったかを計測するもので、IASではコアとなるメディア指標とLumenのアイトラッキングデータを機械学習で統合し、インプレッションの「成果につながりやすさ」をアテンションスコアとして数値化し、アテンションスコアの高いインプレッションはコンバージョン率が高いことを実証しているという。

 なお、2023年8月に米国のデジタル広告業界の専門家255人(広告主100人、代理店104人、媒体51人)に実施した同調査の米国版では、優先すべきメディアのトップは「ソーシャルメディア」(61%)で、「デジタル動画」(43%)を上回った。最もイノベーションの可能性を秘めたメディアも「ソーシャルメディア」(52%)、「デジタル動画」(47%)の順だった。また、米国ではアテンション指標の優先度が高く、既に88%がアテンション計測を導入済みだった。

生成AIがもたらす新たな脅威

 調査会社のeMarketerは2023年8月に発表した「Navigating the Al content boom: Risks, investments, and the urgent need for standards」の中で、生成AIの台頭により、2026年までにオンライン情報の90%がAI生成コンテンツになると予測している。これに伴い、フェイクニュースやディープフェイクの増加が懸念されている。

 今回の調査で日本のメディア専門家の58%が、生成AIによりMFA(Made for Advertising)サイトの作成が容易になり、これらのサイトにおける広告の計測と回避の必要性が加速するという認識を示した。

 IASは生成AIの台頭がデジタル広告に与える影響について、以下のようにまとめている。

  • MFAの増加で広告パフォーマンスが低下:MFAサイトは従来指標に最適化されており、一見パフォーマンスが高く見える。だが低品質なコンテンツで構成されており、無駄なインプレッションで広告費を浪費する。また、低品質サイトに広告配信されることでブランド価値の毀損を招く。
  • 誤情報・フェイクニュースの増加で情報全般への信頼性が低下:生成AIにより信憑性のあるフェイクニュースやディープフェイクが作成されることで、情報全体への信頼性が低下する。誤情報の拡散で、社会や政治に悪影響を与えるリスクが増加する。
  • 偏りのある出力と倫理的な課題:学習データに偏りがある場合、生成AIは、その偏見が反映された情報を生成する可能性がある。生成AIが出力する内容が差別的であったり、不公平な判断を助長したりする危険性がある。
  • ユーザー情報の偽装で広告パフォーマンスが低下:偽サイトの大量作成だけでなく、ユーザーエージェントやプロフィールまでも生成AIで精巧に偽装。それらを使って偽インプレッションや口コミの偽装など、マーケターや消費者を欺く手法が増加する。

 IASによれば、日本では2024年にディープフェイクコンテンツの量が前年比243%増と脅威的な増加を見せた。2024年の前年比成長率のグローバル平均は245%で、世界平均とほぼ同じ増加率だった。

 2025年、広告主および広告代理店が最も懸念しているのは「危険なコンテンツやフェイクニュース、誤情報と一緒に配信される広告」(42%)であった。特に広告主の間では、広告が危険なコンテンツ(44%)、ディープフェイク(26%)と共に配信されることにそれぞれ強い懸念を示していた。


広告主および広告代理店が考える最大の課題

 日本の専門家がブランドリスクに最も脆弱と考えるメディアは「ソーシャルメディア」(37%)、「デジタル動画」(32%)の順に多かった。


ブランドリスクに脆弱と考えられているフォーマット

 増加するディープフェイクコンテンツに隣接した広告表示を防ぐために71%の専門家が「第三者による検証が重要になる」と考えていることも明らかになった。ちなみに米国では日本よりも高い割合で、7割(68%)が、生成AIによるMFAサイトの作成加速に対抗するための伴う広告の計測と回避の必要性を、8割(76%)がディープフェイクに隣接した広告表示を防ぐための第三者による広告計測の必要性を強調した。

ブランドセーフティーからブランドスータビリティーへ

 2025年、広告主の戦略はブランドセーフティー(安全性)からブランドスータビリティ(適合性)へと進化するようだ。専門家が優先するメディア品質の取り組み1位は「ブランドスータビリティー」(55%)で、前年トップだった「責任あるメディアへの投資」(42%)が2位になった。


2025年に優先するメディア品質の取り組み

 ブランドスータビリティーは、単にリスクを回避するだけでなく、ブランドの価値観やターゲットオーディエンスの嗜好を考慮し、適切なコンテンツ環境に広告を表示する戦略だ。この変化は、広告主がより精緻で高度な戦略を求めていることを示しているとIASは指摘している。

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