IT部門にも教えたい 生成AIをマーケティングと営業に適用する最もふさわしいやり方:顧客エンゲージメント領域における生成AIの活用
マーケティング、営業、カスタマーサポートなど顧客エンゲージメント領域における生成AIの活用はどこまで進み、IT部門やDX推進部門にはどのような役割が求められているのか。エキスパートが現状を解説した。
今日の企業においてはあらゆる業務で生成AIの活用を模索している。中でもマーケティング、営業、カスタマーサポートなどの顧客エンゲージメント領域では、生成AIへの期待が高い。
しかし、アイ・ティ・アール(以下、ITR)で顧客エンゲージメント領域を専門とするプリンシパル・アナリストの三浦竜樹氏は、IT担当者向けの勉強会である「企業IT力向上研究会(ITEG)」で長年ファシリテーターを務めてきた経験から「自分自身でマーケティング部門にがっちり入っていってデジタルマーケティングを支えているIT担当者はほとんどいない」と言う。
本稿では、ITエグゼクティブ向けのイベント「IT Trend 2024」(2024年11月26日開催)で三浦氏が「IT部門やDX推進に関わる部門の方々が、マーケティング部門、営業部門、カスタマーサポート部門から生成AIの活用についての相談が持ちかけられたときの参考になれば」と講演した内容を基に、顧客エンゲージメント領域における生成AI活用の現状とこれからの展望についてまとめた。
2025年「生成AI投資」はどうなる?
ITRが先ごろ公開したレポート「IT投資動向調査 2025」によると、AI関連への投資はますます加速している。特に生成AIについては、未導入企業と導入済み企業のいずれにおいても、最も投資が促進される分野となる見込みとなった。生成AIは2025年度に16%の企業が新規導入し、導入済み企業のうち12%程度が投資額を増加する見込みだ。2025年度の新規導入可能性では「生成AI」「AI/機械学習プラットフォーム」「チャットbot/チャットサポート」がトップ3だった。「iPaaS/API管理ツール」や「ローコード/ノーコード開発」など、AIの導入・活用をしやすくするためのへの投資を増やす動きもある。
AIと関係性の高いDXの取り組み状況に目を向けると、これまでは、ワークスタイル変革、人事・組織管理の最適化など内向きの取り組みがメインで、顧客向けのDXはあまり進んでいなかった。しかし、2024年になって顧客エンゲージメント領域に該当する項目の実施率がいずれも3割を超えるなど、ようやく注目されるようになった。また、わずかながら成果が得られ始めている。
「マーケティング」「営業」「カスタマーサポート」の領域でAIをどう活用すべきか
三浦氏は「顧客エンゲージメント領域では、業務に直結するようなソリューションへの投資意向が高い」と話す。ここでITRが調査項目としているのは以下の4つだ。
- 多様なタッチポイントでのシームレスなサービスの提供
- データ分析を基にしたマーケティングの遂行
- 営業・販売活動の高度化
- 顧客サポートの高度化
顧客エンゲージメントを高める上では、顧客の購買行動(カスタマージャーニー)全体でシームレスに適切なサービスを提供する必要がある。そのために必要なのが顧客データだ。最近はリアルな接点からもデータを取得する仕組みが整いつつあり、オフラインとオンラインの分断を乗り越えてあらゆる接点で一貫した顧客体験を実現させるOMO(Online Merges Offlone)の取り組みも進んでいる。
データ分析を基にしたマーケティングの遂行というと、これまでは施策実行と分析・予測でのAI(予測AI)活用がメインだった。しかし、最近は施策のアイデア創出やコンテンツ制作などのフェーズにおける生成AI活用が進んでいる。顧客のペルソナを作成したり、作成したペルソナにインタビューするといった使い方もある。文章の作成を手伝ってもらうこともあれば、出来上がった文章に添える画像まで、プロンプトだけで作れるようになっている。
営業・販売活動の高度化で分かりやすいのは自動応答メールなどだが、最近では例えば顧客のペルソナに適した提案書を既存のドキュメントから再構成したり、音声認識と組み合わせて議事録を作成する機能などを実装したセールスイネーブルメントツール(営業力強化ツール)が発達している。
顧客サポートの高度化では、多様なタッチポイントからの問い合わせを、顧客データとひも付けて統合管理・分析し、適切なサポートを提供する取り組みが実践されている。具体的には生成AIの活用でコールセンターへの顧客からの問い合わせ(VOC:ボイスオブカスタマー)を要約し、その内容を傾向分析することで、FAQのデータベースに自動的に登録するなど機能が実用化されている。
生成AIと作る最高の顧客体験
生成AIの導入というと、ChatGPTやGeminiなどの生成AIの基盤モデルを使って自社のデータを学習させ、自社の業務に適した独自のアプリケーションを作ることと考えられがちだ。しかし、それでは効果が出るまで時間がかかる。「自社独自のモデルを作っていく方が最適なものは作れるかもしれません。しかし、顧客エンゲージメント領域に関しては、マーケティング、営業、カスタマーサービスの各業務に特化したソリューションを利用する方が、早く必要な機能を使えると思います」と三浦氏は話す。
生成AI機能が統合された特定業務ソリューションでは、用途に適したかたちでAIやUI、プロセスが最適化されている。用意されたUI上で必要な項目を入力するだけでやりたいことが実現できるなら、それに越したことはない。
例えば新製品の発売に伴いWebサイトを立ち上げるとき、ChatGPTなどのツールを立ち上げてコンテンツを作らせてからCMS(コンテンツ管理システム)に転記するのではなく、もともと生成AI機能を搭載したCMSを用いる。開発者の製品説明ドキュメントをここにアップロードしたら、あとはキャッチコピーや説明文の文字量などを指定するだけで、テンプレートによってページ案をいくつでも作ってくれるだろう。さらに「このペルセナの人たちはどっちの案を好むか」といったシミュレーションもできるようになるはずだ。
三浦氏は自動車の安全運転システムの故障時を想定したケースを基に描いた「生成AIによるカスタマーサクセスの将来」について説明した。これは生成AIがスマートフォンに搭載されたオンデバイスAI(エッジAI)と連携して異常箇所を特定し、解決を支援する仕組みだ。問題を特定したらメンテナンス拠点の探索や修理予約まで自動化してくれるというものだが、そうなると一つの部門、一つの会社だけではとても対応できない。システムを作る自動車メーカーはディーラー別会社であり、カーナビ作っている会社は関連会社ですらないかもしれないからだ。
三浦氏は「顧客エンゲゲージメント領域への生成AIの適用は待ったなし。組織の境界、デジタルチャネルの境界、業務の境界など、あらゆる垣根をなくして、お客さんに便利だと思われるサービスを提供していくことが重要になっています」と述べ、講演を終えた。
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