顧客理解のため、生成AIにはまだまだできることがある:「データと直感の融合」を目指して【前編】
AI技術の進化がマーケティングに革新をもたらそうとしている。広告などのコミュニケーションのみならず顧客理解の分野でもAIは大きな力を発揮する。最新の動向を気鋭のスタートアップCEOが解説する。
LLM(大規模言語モデル)の高度化により、ChatGPTをはじめとする生成AIは爆発的に進化しています。イノベーションのスピードは衰えることがありません。直近では2024年9月12日にOpenAIが新たなAIモデル「OpenAI o1」を発表しました。これを受け、同社CEOのサム・アルトマン氏は「The Intelligence Age」と題するブログを公開し、人間の知能を超える「超知能」が数千日以内に誕生する可能性に言及しました。同様に生成AI「Claude」を提供しているAnthropicのCEOであるダリオ・アモデイ氏はらに踏み込んだ形で、2026年前後にPowerfulなAI(エキスパートレベルの科学・エンジニアリング)が実現し、人間が今まで苦しんでいた厄災の多くが解決されるだろうと述べています。
人々の思考や行動のデータとAIでよりよい世界を創りだす
進化するAIをビジネスの現場にどう活用するかは、あらゆる企業の関心事です。自動文字起こしや要約、翻訳などの業務効率化にとどまらず、収益に直結するセールスやマーケティング領域においても、生成AIをいかに活用するかが重要なテーマとなっていることはいうまでもありません。
マーケティング業務における機械学習やAI活用と言えば、これまで主に広告配信の最適化や生成AIを用いたクリエイティブ創造などが注目されてきました。しかし、私はそれだけにとどまらず、消費者や市場を理解する営みであるマーケティングインテリジェンスの分野においても、AIが大きな力を発揮すると考えています。その理由は主に2つあります。1つ目は、従来は扱うことが難しかった規模のデータをAIが効率的に分析することで、市場の動向や顧客インサイトをより深く、正確に把握できる可能性があるためです。2つ目は、マーケティングリサーチなどのデータ収集・処理プロセスには非常に大きな人的コストがかかっているという構造的な課題に対して、AIがこれらの負荷を軽減できる可能性が非常に高いためです。
「人々の思考や行動のデータとAIでよりよい世界を創りだす」
これは、当社マインディアが掲げるミッションです。人々がブランドにどんなイメージを持っているかなどの思考やどんな購買をしたかなどの行動のデータはその特性から取得のハードルがある一方、AIが参照するデータとしては希少で非常に重要になっていくと見込まれます。それはマーケティングインテリジェンスの領域にももちろん当てはまります。当社は、このような価値の高いデータを収集・活用するため、独自のリサーチシステムとAIを組み合わせた先端ソリューションの開発に2018年の創業時から取り組んできました。これまでに国内外の業界を代表する世界的企業にも多数導入いただいており、高い要求水準にも応えられるソリューションになっていると思います。
現在ではそれと並ぶもう一つの柱として、マインディア独自のデータセットを活用したAIエージェントソリューション「Mineds AI」も提供しています。これは一言で言うなら消費者理解を強力にサポートするアシスタントのような存在で、自社の事情を踏まえたAIが大量のデータを分析して顧客理解につながるインサイトを出力してくれます。これを支えるのが「RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)」と呼ばれる技術です。独自の知識データセット(ここではマインディアの保有する独自データや各種のオープンデータ、導入企業の保有するファーストパーティーデータ)をLLMの出力の際に参照することで、精度が高くビジネスコンテキストに合致した回答を出すことができる強みがあります。また同時に、生成AIの課題として指摘されるハルシネーション(事実に基づかない回答)のリスクを軽減できるという側面もあります。
Mineds AIは外部データを取得するところを仕組み化し、マインディアが保持する独自データなどと併せてAIが分析しやすい形にデータを整え、チャットと同様のUIを提供しています。これを使うことで、企業のマーケターはAIエージェントと会話しながら自社のプロダクトやブランドが属する市場の変化やその背景などをより深く知ることができます。また、得られたインサイトを基にAIと人間が新たなアイデアを共創し、具体的な施策や商品開発のためのコンセプトまで落とし込んでAIによる定量・定性調査を経るという検証サイクルを回すことも将来的に想定して取り組んでいます。
このように、顧客・市場理解においてもAI活用は大きな可能性を秘めており、生成AIの活用を進めるべく、多くのクライアント企業の方々からマインディアのソリューションを通じたプロジェクトへのご要望をいただいている状況です。
一方で、生成AIをもっとビジネスに取り入れたい、顧客理解のプロセスを進化させたいという思いは多くの企業に共通するものでありながら、まず何をどう進めればいいのかという声や、先行事例の少なさから二の足を踏んでしまうというご相談も多数いただいております。マインディアのソリューションはそういった状況でも取り組みやすい設計になっていることもあり、国内でも有数の事例が積み上がっています。ソリューションをさらに進化させ、並びに少しでもこうした事例を世に出すことで、市場・顧客理解の領域における生成AI活用の拡大に寄与できればと思っています。
後編では2024年10月13日に開催された日本マーケティング学会のイベント「マーケティングカンファレンス2024」で発表した消費財メーカーのライオンとの取り組み事例を通じて、具体的な方法と今後の展望についてお伝えします。
寄稿者紹介
鈴木大也
鈴木大也さん,すずき・ひろや。マインディア代表取締役CEO。新卒でProcter & Gamble(P&G)に入社し、マーケティング部門で洗濯洗剤「アリエール」のブランドマネジメントなどに従事。その後、Facebook(現Meta)で機械学習とAIを使った広告配信のプロダクトの日本市場での立ち上げなどに携わった後、2018年にマインディアを創業。
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