米司法省がGoogleに「Chrome」売却要求 広告業界への影響は?:Marketing Dive
米司法省によるGoogleへのChrome売却要求は、リテールメディアネットワークに恩恵を与える可能性がある一方、マーケターにとってはさらに断片化したエコシステムという課題をもたらすだろう
米司法省は2024年11月20日(米国時間)裁判所に提出した法廷書類の中で、Googleが人気のWebブラウザ「Chrome」を売却することを求めた。これは、8月にGoogleが独占行為と認定された判決を受けた是正措置の一つである。この23ページにわたる書類では、Googleがパブリッシャーと排他的な契約を結ぶことを禁止すべきだとも主張しており、これはAppleなどのデバイスメーカーとの長年にわたる契約が焦点となった反トラスト裁判の議論にも関連する内容だ。
Googleは猛反論 デジタルマーケティングはこれからどうなる?
GoogleがChromeのような主要製品を失うことで、より多くの競争が生まれ、広告主が「閉ざされた環境」で働くことへの不満が解消される可能性がある。しかし、広告活動や広く採用されている広告商品の多くがChromeのインフラと密接に結びついているため、移行はスムーズでも迅速でもないだろう。
「ブラウザ市場がより細分化されることで、独立系プレイヤーの健全なエコシステムが促進される可能性がある一方で、移行プロセスは広告ワークフローの微妙なバランスを崩すリスクがある」とメールでコメントを寄せたのは、メディア購入プラットフォームAdlookの最高製品責任者であるマテウシュ・ジェドロハ氏だ。
ジェドロハ氏は「ChromeのようにGoogle広告やGoogleアナリティクスなどのツールと密接に統合された環境に慣れた広告主は、戦略を再考し、必ずしも効率的ではない環境に適応する必要があるだろう」と述べつつ、この変化がプラットフォームの多様性を促進し、Googleへの過度の依存を減少させる可能性も指摘している。
Googleは、司法省の提案を「過剰な要求」であり、「過激な介入主義的アジェンダ」によるものだと表現し、同社の公式ブログ「The Keyword」で反論を展開した(外部リンク/英語)。
「このプロセスはまだ初期段階にあり、これらの要求の多くは、裁判所の命令が想定した内容をはるかに超えるものだ」と、Googleのグローバルアフェアーズプレジデント兼最高法務責任者のケント・ウォーカー氏は述べた。また、「我々は来月、自社の提案を提出し、来年に向けて広範な主張を展開する予定だ」とも付け加えた。
影響力の大きい存在
業界のさまざまな推計(外部リンク/英語)によると、ChromeはWebブラウザ市場の60%以上を占めており、オンライン広告において大きな影響力を持つとされている。Keen Decision Systemsのブラッドリー・キーファー最高収益責任者(CRO)によると、このブラウザは「グーグルの広告支配、特に検索エンジンマーケティング(SEM)の要」だ。同社の推計によると、SEMは昨年、総メディア支出のおよそ14%を占めた。
キーファー氏はメールで「司法省がGoogleにChromeを売却させようとする動きは、広告業界において数年来最大の混乱を生む可能性がある」と述べた・
最近の歴史の中でも、Chromeの業界形成における影響力は顕著だ。2020年に始まったGoogleのサードパーティーCookie廃止の取り組みは、広告ターゲティング技術への依存を減らすための広範な運動を促した。2024年、Googleは一連の複雑な自体の中で結局Cookie廃止の計画を撤回したが、その影響は現在も続いており、多くの広告主が代替ソリューションに取り組んでいる。Googleの「プライバシーサンドボックス」もその1つだが、ジェドロハ氏によると、Chromeの売却はこの取り組みをさらに混乱させる可能性がある。
「サードパーティクッキーの代替として設計されたプライバシーサンドボックスは、プライバシーを重視する業界の未来の基盤として位置づけられている。しかし、Chromeが独立することで、この軌道が妨げられ、広告主や開発者は不確実性に直面するだろう」(ジェドロハ氏)
競争相手にとっては追い風か?
GoogleがChromeを失うことは、理論上、ブラウザ市場の競争を活性化させるとも考えられるが、司法省の提案の具体的な内容については、競合他社もあまり乗り気ではないようだ。
非営利団体であるMozilla(Firefoxブラウザの運営元)は声明で、「検索エンジン競争を改善することを目的とした米司法省の提案は、ブラウザ競争に不必要な影響を与えるだろう」と述べている。Mozillaは、Googleをデフォルトの検索エンジンとする契約を結んでいる。
同声明は「全てのブラウザに関する検索契約を禁止するという措置が実施されれば、Firefoxのような独立系ブラウザに悪影響を及ぼし、オープンでアクセス可能なインターネットに波及効果をもたらすだろう」と続いている。
直接的な利益を得る可能性があるのは、近年Googleの市場シェアを切り崩し始めたデジタル広告プラットフォームだ。その中には、リテールメディアネットワークという急成長中のカテゴリーが含まれ、これらはファーストパーティの購買データを活用して広告をターゲティングしている。
「競争力のあるCPM(インプレッション単価)で勢いを増しているWalmartやAmazonのようなリテールメディア大手は、広告主が支出を多様化させる中で、さらなる成長を遂げる可能性がある」とキーファー氏は述べた。
「この影響は検索広告にとどまらず、ソーシャルメディア広告で主導権を争っているMetaやTikTokにも競争の激化を及ぼすだろう」と同氏は付け加えている。
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