検索
連載

AI導入の効果は効率化だけじゃない もう一つの大事な視点とは?コミュニケーションをテクノロジーで再構築する

生成AIの導入で期待できる効果は効率化だけではありません。マーケティング革新を実現するプロの視点から、業務改善や企業成長の可能性を開く活用法を提案します。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 生成AIの進化により、多くの企業でAIの導入が進んでいます。その際、いきなり全社的に導入をするのはまれで、一部の部署もしくは文書作成補助など一部の業務からPoC(概念実証)を実施し、その効果や実用性を確認するケースが一般的だと思います。

 この段階では、AIがどの程度業務にフィットするのか、業務効率化できるのかといったことを確認することが目的です。具体的にどのくらい業務時間を減らせるのか、具体的な数値を測定して費用対効果を分析する場合もあるでしょう。

 ビジネス上の観点からROIを確認することはもちろん重要です。しかし、これまで多くのAI導入を支援してきた弊社ZEALSは、AIを活用してマーケティングに変革を起こすことをビジョンに掲げてきた会社として、もう一つ大事な視点をお伝えします。

AI導入の効果は効率化だけじゃない

 それは、AIの導入が単なる業務支援・効率化を超えてオペレーション改善につながる気づきを生み出し、企業の成長に大きく貢献する可能性があるということです。

 AI活用の巧拙が業務プロセスの自動化やデータ駆動型意思決定の推進を左右し、企業の競争力に直結する時代が既に到来しています。具体例を見ていきましょう。

 弊社が提供するプロダクトの機能の中に、チャットでのシナリオを自動で作成するコミュニケーションデザインツールがあります。これは、セールスの対象と、対象に近しい自社商材の情報などを入力することで、弊社が積み上げてきたデータを参照にしながら、良い顧客体験を提供するためにチャットで聞くべき項目、全体的なシナリオなどを自動で作成してくれるものです。

 例えば、ある銀行が新規口座の開設を促進したいと考えている場合、ターゲットとこの銀行のビジョンや金融商品の特徴などを入力すれば、口座開設を検討している人々が抱える不安やニーズに基づいたシナリオが自動的に生成されます。「口座を開設すれば将来的に投資の手数料が安くなる」「定期預金で安定した運用が可能」といった、一人一人の悩みや興味に寄り添った解決策が提示され、質の高い顧客体験を最小限の時間で提供できるのです。

 これだけでもとても便利な機能ですが、副次的な効果が発揮される場合があります。このツールを導入することで、マーケティングコミュニケーションの不備やブランドイメージの統一感の欠如、さらにはデジタルマーケティング戦略の見直しが必要であることが浮き彫りになるのです。

 このツールは、課題に合わせてペルソナ設定やシナリオ設計などを行います。例えばある金融機関で、もともとペルソナを中高年層に設定し、「将来の年金不安に備えたい」という課題が主要なニーズだと考えられていたとします。しかし、このツールを使ってAIによる分析を行ったところ、「相続や税金対策に対する不安」「介護や医療費の予備資金の確保」といった、より細かい課題が浮き彫りになってきました。これまでは漠然としたニーズを想定して広範囲なマーケティング活動を行っていたのが、AI分析を通じてより精度の高いターゲティングができるようになったのです、これにより、無駄な投資を抑制し、特定の顧客層に対するプロモーション戦略を強化して高いパフォーマンスを発揮することができるでしょう。

 AIが作成したシナリオを通じて、これまで訴求ポイントとしてきた製品・サービスの強みが実はあいまいであったことや、そもそも訴求が不十分であることが判明する可能性があります。

 「初心者でも簡単に始められる投資商品に興味がある」といったペルソナに対し、金融機関が考えていた訴求ポイントが「リスクが少ない商品を多く紹介する」「投資の始め方やリスク回避のアドバイスを提供する」だったとします。これに対して生成AIは「将来的な手数料が優遇される特典の紹介」「資産運用を通じた長期的な目標達成のサポート」といった訴求ポイントを加えるかもしれません。AIは多様なデータを基にしてシナリオを生成するため、準備不足であった企業のマーケティングメッセージが整理され、訴求内容がより明確かつ充実する可能性があります。その結果、顧客の関心が高まって、投資や保険商品などの契約率が改善されることも期待できます。

 AIによって生成されたシナリオ表現から、丁寧語の表現の程度やブランドのトーン、言葉遣いのばらつきが発見されるということもあります。マーケターである読者には釈迦に説法ですが、ブランディングにおいて表現を統一させることで、顧客が抱くブランドイメージの一貫性を保つことができます。例えば、フレンドリーな表現で統一することで、親しみやすいブランドであると認識され、ブランドロイヤルティの向上につながることもあります。このブランドのトーンも、事前に統一しないでいると、アウトプットとして出てくるシナリオに表現の揺らぎが起こります。つまり、何通りかのシナリオを生成することで、初めてブランドトーンの統一ができていない、統一が必要であるとメタ認知することも起こり得ます。

 Webサイト上の情報が不十分であったために顧客から多くの問い合わせが寄せられるケースもあります。チャットでのコミュニケーションを活用して情報の整理を進めれば、顧客の疑問を事前に解消する仕組みづくりにもつながります。これにより、問い合わせ件数が減少し、カスタマーサポートの負荷が軽減されます。

 AIチャットを使った顧客サポートを進めると、実店舗での人による対応とAIによる自動応答の間で対応がばらつき、顧客体験に影響が出ることがあります。これは、AIの回答が正確ではないか、もしくは人による対応が属人的で標準化されていないことが原因かもしれません。いずれにせよ、顧客体験に一貫性がないことが明らかになった以上は改善が必要です。

AI導入が課題発見の鍵に

 最近は、急速に普及する対話型AIの「次」をにらんだ技術競争が熱を帯びています。具体的に言えば、指示を受けて文章や画像を生成する対話型に対し、指示をしなくても必要な業務を自ら見つけ、業務に合わせて自律型機能を構築できるサービスが台頭してくるものと予想されます。

 自律型にせよ対話型にせよ、AIの導入が進むことによって、複数の部署が絡むようなオペレーションの改善が必要になると予想されます。

 ただし、課題は各企業によってばらつきがあります。もちろん業種によっても違います。課題を発見するためには、まずAIを導入してみて、現状の業務やマーケティング戦略に抜けているポイントを把握することが重要です。

 AIはもはや単なる業務支援ツールではなく、人間のように自律的に行動するものへと進化しています。そのため、実際にAIを導入することで、新たな課題や改善点が見えてくる可能性が大きく広がっています。企業がAIを効果的に活用することで、ビジネスの全体最適化を目指すことができるのです。

寄稿者紹介

福井惇

福井さん

ふくい・じゅん ZEALS マーケティングAIX事業部 イノベーションマーケティング部 第二局 局長。新卒から13年半、金融業界に従事。法人向け融資の営業をメインに住宅ローンや運用商品の販売にも携わる。その後、社内公募でスタートアップへ出向。事業開発やカスタマーサクセスなどの業務も歴任。出向後、IT統轄部で新しい預金サービスの企画開発も経験した。2021年ZEALSに入社。金融業界向けに、AIソリューションの導入と導入に伴う業務改善などをリードする。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る