検索
特集

Salesforceは脱“生成”へ 自律型AI「Agentforce」は何が新しいのか?「Dreamforce 2024」で明らかになった全貌

企業が求めるAIの真の価値は単なる生産性向上にとどまらない。肝心なのは、その先にあるより多くのビジネス成果の獲得であるはずだ。そこでSalesforceがたどり着いたのが、「自律型エージェント」というコンセプトだ。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 Salesforceは2024年9月17〜19日(米国時間)、米サンフランシスコにて年次カンファレンス「Dreamforce 2024」を開催した。初日のキーノートスピーチで同社会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏が発表した今回の目玉である「Agentforce」について詳しく解説する。

「これこそがAIのあるべき真の姿」 自律型AIとは何か?

 Salesforceは祖業であり社名の由来ともなっている「営業力」を管理する仕組みの提供から始まった。その後、カスタマーサービス、マーケティング、コマース、アナリティクスなどの組織力を管理する仕組みへと機能を拡大し、「Customer 360」の名の下でアプリケーション群の強化を進めてきた。

 2024年10月に一般提供を開始するAgentforceは、上記の各組織の労働力を拡張する自律型AIエージェントを提供するツール群だ。これまで対話型アシスタントとして提供してきた「Einstein Copilot」を刷新して生まれた。

 ベニオフ氏はAgentforceについて「これまでに私たちが経験してきたAIのテクノロジーの中でも最大のブレークスルーだ」と述べ、「人間とエージェントがSalesforceプラットフォーム上で共にカスタマーサクセスを実現する」という、CRMの会社としてのSalesforceのビジョンを示した。

 Salesforceは自律型AIエージェントを「人間に代わってタスクの実行計画を立てて推論を行い、複数の意思決定とアクションを実行し、目標を達成することを助けてくれる存在」と定義する。

 生成AIブームが続く中、多くのアプリケーションベンダーが「Copilot」という名の対話型AIアシスタントを実装している。しかし、実際にはユーザー企業は十分な恩恵を得られていないのではないかとベニオフ氏は問いかける。

 問題は、肝心のアクションを実行できていないということだ。企業が求めるAIの真の価値は単なる生産性向上にとどまらない。その先にあるビジネス成果の獲得のための積極的なアクションこそが求められているはずだ。Copilotだけでそれを成し遂げるのが難しいのであれば、新たなものが必要になる。そこでSalesforceがたどり着いたのが、「自律型エージェント」というコンセプトだ。

 Agentforceのローンチに伴い、Salesforceの製品アーキテクチャは三層構造に変わった。Agentforceは外側の層に位置し、Customer 360アプリケーション群の機能を拡張するための自律型AIエージェントを提供する。

 三層の内側にあるのが「Data Cloud」である。Data Cloudはメタデータアーキテクチャを採用しており、Customer 360アプリケーションユーザーは、「Amazon Redshift」「Databricks」「Google Cloud BigQuery」「Snowflake」とのパートナーシップを通じて、格納されているデータにゼロコピーでアクセスできる。

 SalesforceがAgentforceの提供で目指すのは、Customer 360アプリケーションユーザーである人間のスキルを強化し、より良い顧客体験の提供を通して多くのビジネス成果を実現することだ。全ての自律型AIエージェントはSalesforceのプラットフォーム上に構築され、企業が求める信頼性とセキュリティを担保する。「エージェントこそがAIのあるべき真の姿」とベニオフ氏は強調した。


Agentforceの提供で新しくなったSalesforceの製品アーキテクチャー(画像提供:Salesforce、以下同)

自律型AIエージェントを機能させるために必要なこと

 ベニオフ氏に続いて登壇したSalesforce AI CEOのクララ・シャイ氏は、Agentforceが実際にどう動くのかを解説した。シャイ氏によれば、Salesforceが考えるエージェントの構成要素は以下の5つである。

  1. 役割:営業であれば、SDR(Sales Development Representative:インサイドセールス)やアカウント営業、カスタマーサポートであれば、電話オペレーターのように、組織で働く人たちはそれぞれが役割、ジョブ、そして達成目標を持ち、仕事をしている。同様に、AIエージェントにも役割が割り当てられる。
  2. データ:Salesforce上で管理しているカスタムオブジェクトのような構造化データから、Slackの会話やナレッジのような非構造化データ、Data Cloudのメタデータまで、AIエージェントはさまざまなデータを利用し、意思決定の材料を得る。
  3. アクション:アクションとは、これまでSalesforceに組み込んできたビジネスロジックを流用し、AIエージェントがジョブを遂行するための仕組みの集合だ。また、プロンプトやプロセス自動化のために利用してきたフローやApexコード、外部接続のための「MuleSoft API」も、AIエージェントのスキルを強化し、ジョブの自動化するために利用できる。
  4. チャネル:企業が顧客と対話する接点。「Sales Cloud」「Service Cloud」「Marketing Cloud」「Commerce Cloud」のようなCustomer 360アプリケーションの他、電話、メール、SMSなどの主要デジタルチャネルに対応できる。
  5. 信頼とセキュリティ:Agentforceにおける顧客とのインタラクションは、全て「Einstein Trust Layer」を経由する仕組みである。プロンプトインジェクション攻撃のような脅威に対するセキュリティ対策、ゼロリテンションのようなデータプライバシー対策が講じられている。この他、エージェントに許可しないことを定義するガードレールも用意している。例えば、カスタマーサポートのエージェントに「何か冗談を言って」と頼んでも、応じることのないように、あらかじめ設定できる。

Salesforceが考える自律型AIエージェントの5要件

 SalesforceはSales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloud、Commerce Cloudなどに加え、業種別ソリューション「Industry Cloud」の全製品にもAgentforceを導入する。また、Agentforceの提供開始に伴い、これまでは独立していたMarketing Cloud(旧ExactTarget、2013年に買収)、Commerce Cloud(旧Demandware、2016年に買収)、Tableau(2019年に買収)のコアを書き換えたことも明らかにした。これは、Marketing Agent、Commerce Agent、Analytics Agentを、共通のプラットフォームで利用できるようになったことを意味する。

企業の自律型AIエージェント活用のための3つの選択肢

 企業が何もないところから自律型エージェントを構築するのは、ハードルが高い。そこで、Agentforceには3つの選択肢が用意されている。

 1つ目が、すぐに利用できるようにアプリケーションに組み込まれたOut-of-the-Boxのエージェントである。Sales CloudやService CloudのようなCustomer 360アプリケーションを利用している場合、数分のセットアップでエージェントを利用できる。Service Cloudであれば、カスタマーサポートを行う「Service Agent」が、Sales Cloudであれば、見込み客に対応する「Sales Development Representative Agent」や商談前のロールプレイをサポートする「Sales Coach」が利用可能になる。この他、Marketing Cloudを拡張するAIエージェント「Campaign Optimizer」、Commerce Cloudを拡張する「Merchant」、B2Bの購買体験を強化する「Buyer」、ECサイトやメッセージングアプリでデジタルコンシェルジュとしてパーソナライズされた製品のレコメンデーションや商品検索を支援する「Personal Shopper」などがある。


すぐに利用できる機能として提供されるAIエージェント

 2つ目が、ローコードツール「Agent Builder」を利用し、顧客が既存のAIエージェントのカスタマイズや、新規でのAIエージェント構築をできるようにしたことだ。Agent Builderでは、トピックと指示の2つを定義することで、AIエージェントが実行できる能力を拡張できる。

 例えば、ある顧客がアパレルのECサイトで購入した商品のサイズが思っていたものと違っていたとする。Agent Builderを利用すると、「注文管理」というトピックに対して、「最寄りの店舗を検索する」「在庫の有無を確認する」などの指示を自然文で記述し、それぞれの指示に対するアクションライブラリーを更新できる。正しく動作すると、AIエージェントは「〇〇店に在庫がありますから、そこで返品手続きができますよ」と、顧客に案内する新しいスキルを獲得できる。Agent Builderでは、AIエージェントの対応が正しくできるかをテストする環境も用意しており、テスト結果に問題がなければ新しい能力を持ったAIエージェントをデプロイできる。

 3つ目が、パートナーネットワークの利用だ。「Salesforce AppExchange」を通じて利用可能となる20以上のエージェントやエージェントアクションが提供されており、Agent Builderから容易にAIエージェントのスキル拡張が可能になる。また、パートナーが構築したAIエージェントを導入することで、Salesforce外にアクションの実行範囲が拡大できる。例えば、WorkdayのAIエージェントを利用すれば、従業員サービスを拡張できるし、「Google Workspaceアクション」を利用すれば、「Google Docs」や「Google Slides」のコンテンツの生成が可能になる。


Agentforceのパートナーエコシステム

 Service CloudおよびSales Cloud向けのAgentforceは2024年10月の提供開始を予定している。ただし、日本での利用はService Cloud向けAgentforceのみ2024年10月末となり、Sales Cloud向け、Marketing Cloud向け、Commerce Cloud向けエージェント機能の日本での提供開始時期は未定である。

執筆者紹介

冨永裕子

冨永氏

とみなが・ゆうこ フリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタント。2つのIT調査会社でエンタープライズIT分野におけるソフトウェア分野の調査プロジェクトを担当する。その傍ら、ITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトも経験する。新興領域、テクノロジーとビジネスのギャップを埋めることに関心あり。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る