キアヌ・リーブスが“AI武装”してセキュリティ企業の広告に登場の謎展開 敏腕CMOの狙いは?:Marketing Dive
サイバーセキュリティ企業のPalo Alto Networksは、B2Bが「退屈な仕事」ではないことを証明するために、ハリウッドのチームを採用した。
全てが意図通りに機能しているとき、ほとんどの人は現代社会を動かしている技術的なインフラについて考えることはない。しかし、CrowdStrikeのソフトウェアアップデートの不具合に起因する大規模障害が航空会社や銀行、放送局の業務を停止させたような重大なインシデントが発生すると、人々はサイバーセキュリティベンダーの仕組みについて一気に関心を持つようになる。
同業のPalo Alto Networksは、自社のサイバーセキュリティツールとプラットフォームのマーケティングにおいて、この業界につきものの「悲観論」ではなく、適切な技術パートナーを持つことの利点に重点を置いている。そう説明するのは、同社最高マーケティング責任者(CMO)のKP・ウニクリシュナン氏(以下、ウニ氏)だ。
「B2B」は“Business to Boring(退屈な仕事)”じゃない
「私たちの目的は顧客を怖がらせるのではなく、顧客と連携して、実際に成長を支援することです。私たちは常に、テクノロジーは素晴らしいと考えています。新しいツール、プロセス、アプリケーションが登場し、生産性と効率性が大幅に向上します。必要なのは、適切なサイバーセキュリティ ツールを導入することです」と、ウニ氏は言う。
Palo Alto Networksのグローバルキャンペーン「This is Precision AI(これが精密なAIだ)」の鍵はパートナーシップにある。しかし、このキャンペーンの中心となるチームアップは従来のベンダーとクライアントの関係ではなく、同社とキアヌ・リーブス、映画『フォールガイ』のデヴィッド・リーチ監督、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズの音楽を手掛けた作曲家のダニエル・ペンバートンを含むハリウッドクルーとの間で行われた。
「This is Precision AI」は60秒のスポットをいくつか組み合わせたもので、キアヌの代表作である『マトリックス』や『ジョン・ウィック』シリーズを彷彿とさせるSFストーリー仕立てになっている。「Origin」編では、キアヌ演じる「J」がパラシュートなしで乾燥地帯に降り立ち、金色のチケットを破ってバーチャル武器庫にテレポートする。そこで彼は装備をアップグレードし、飛行する球体から飛び降りて、さまざまな「AIの裏切り」と戦う準備をする。
「Network」編は『スノーピアサー』と『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の中間のようなストーリーで、飛行するメインフレーム上で戦いが展開される。主人公はAIで強化された鉄拳を使ってクローン化された脅威の一団(『マトリックス』続編のエージェント・スミスの軍隊を想起させる)に立ち向かう。
「サイバーセキュリティの世界をどれだけクールに見せられるか。『B2B』は『“Business to Boring(退屈な仕事)』の意味ではない」とウニ氏は言う。
戦略の変更
2005年創業のPalo Alto Networksは、サイバーセキュリティ分野のリーダーで8万を超える企業顧客を持つ。同業他社と比較して高い認知度を持つが、ウニ氏によれば、これまで広告宣伝には積極的ではなかった。「This is Precision AI」キャンペーンを展開することで、最終的にはPalo Alto Networksはブランドを向上させ、特に人工知能(AI)が急速に台頭する中で、サイバーセキュリティのワンストップショップとしての認知度を高めていくだろう。
「マーケティングの観点から、どうすればこれらの素晴らしいテクノロジーに関する会話をよりクリエイティブなものにできるか、どうすればより多くの人々に受け入れられるか、世の中にある大きなアイコン的なブランドからそれらのやり方を借用することを検討し、ストーリーとして構築してはどうかと考えました」とウニ氏は語った。
Palo Alto Networksのマーケティングチームとエージェンシーパートナー(クリエイティブスタジオのWeights & PulleysとプロダクションスタジオのMinted Content、編集チームのCartel、グラフィックチームのBuckを含む)は、技術的なアイデア(例えば、IT組織がレガシーインフラをサポートするのに苦労するという点)を見つけ、物語形式を見つけ、クリエイティブをストーリーボード化し、その後、顧客と感情的に共鳴するスポットを制作するために協力した。
「プロジェクトの開始に当たって最初に決めたのは、どのくらいの規模にするかということでした。よくあるアドホックな広告キャンペーンとは異なり、『本当にストーリーを作り上げるにはどうすればよいか』を考えなければならなかったのです」とウニ氏は言う。
キアヌ効果
「This is Precision AI」のストーリーにおいて、主人公は最新のツールを必要とするサイバーセキュリティプロフェッショナルとして描かれている。進化する脅威に対応するためには、テクノロジーの世界全体がそうであるように、AIの普及による進化が求められている。可能な限り多くの顧客とつながるために、Palo Alto Networksは同キャンペーンでクライアントを象徴するのにふさわしいキャラクターを必要としていた。
キアヌは、同社がキャンペーンの顔としてふさわしい人として挙げた多くの候補の一人だった。ウニ氏自身がこのハリウッドを代表するスターの「大ファン」であることもあったが、それを超えて、「多才で才能のある人物として知られていること」「カルト的な支持者があり、同時に大ヒット映画を引き寄せること」「影響力があり、ポジティブな公共イメージを持っていること」など、キアヌは他にもさまざまな資格を満たしていた。これらはサイバーセキュリティの世界におけるマーケティングでは、重要な要素である。
「他社がどうしているように、当社も評判のいい企業であり続ける必要がある。顧客にそう見られることはとても重要だからです。当社が顧客を安全に守っているという評判の重要性は非常に高い」とウニ氏は言う。
キャンペーン全体を通じて、キアヌの個人的な関与、献身、情熱はPalo Alto Networksやその代理店に十分に示されてきた。契約内容を超えるような彼の仕事の影響は、同社の中核事業やマーケティング機能にまで及ぶ。
「私は代理店に対し、これは契約上の義務ではないと言っています。義務の契約なら誰とでもできる。これはもはやチームでありパートナーなのです。そうなることで1+1を5にすることだってできると私たちは考えています」(ウニ氏)
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